下請法の影響範囲について②
前回のコラム『下請法の影響範囲について①』に引き続き、下請法の対象範囲の説明をしていきたいと思います。
『下請代金支払遅延等防止法』(いわゆる下請法)は、元請である親事業者が下請業者に対して優越的な地位を利用して下請業者に不利な取引条件を強要することがないよう定められた法律ですが、一方で罰金等の思い罰則を伴う強力な規制であるため、下請取引には該当しないような独立第三者間の一般的な取引や、外形的には元請-下請関係にあったとしても実質的に優越的な地位を利用した濫用行為が想定されないような状況下ではむしろ商取引の効率性を阻害しかねないため、細かく条件を定めた上で対象範囲が決定されます。
前回のコラムでは、下請法においては下記の2カテゴリーに分けてそれぞれ基準額が定められているという点まで説明を行いました。
カテゴリー1:製造委託と修理委託の全て、情報成果物委託のうちのプログラム作成、役務提供委託のうちの運送、物品の倉庫における保管及び情報処理が該当
カテゴリー2:カテゴリー1に該当しない企業群で、プログラム作成を除く情報成果物作成委託、、運送、物品の倉庫における保管及び情報処理を除く役務提供委託が該当
今回のコラムは、このカテゴリーごとに定められた金額基準の説明となります。また、コラムの最後には全体を整理した表が付いているのでぜひご覧になって下さいね。
それでは、具体的な金額基準がどうなっているのか見ていきましょう。
1.カテゴリー分けの趣旨について
下請法では、で説明したカテゴリーごとに基準額が設けられ、それに該当しない場合は下請法対象となりません。
下請法に該当するか否かで親事業者の義務や禁止行為に該当するか否かが変わってくるのでこの基準は非常に重要です。
カテゴリー1とカテゴリー2の事業内容を比較すれば分かりますが、カテゴリー1のような製造業やソフトウエア開発、運送業などは設備投資や保有する固定資産が必須のため大規模な資金調達を行っていることが多く、資本金はある程度の金額があるのが普通です。
2.基準額について
では、いよいよ具体的な基準額を見ていきます。
〔カテゴリー1〕
カテゴリー1もカテゴリー2もそれぞれ2つの取引基準を有しています。
下請法の意図としては、親会社が大規模な事業者の場合、中規模な事業者の場合、小規模な事業者の場合の3通りに分けて、それぞれルールを定めています。
※なお、上の説明の大規模事業者や中規模事業者といった言葉も説明の便宜上用いているだけで必ずしも下請法の概念ではないのでご留意ください。
①親会社が大規模事業者の場合
カテゴリー1における大規模事業者の定義は、『資本金3億円超の法人事業者』となります。
親事業者が大規模事業者がに該当する場合、下請事業者は『資本金3億円以下の法人事業者および個人事業者』となります。
親事業者の規模が大きくなるほど影響力が大きくなるので、下請業者の定義も広く、すなわち資本金要件の金額基準も大きくなります。
②親会社が中規模事業者の場合
カテゴリー1における中規模事業者の定義は、『資本金1000万円超3億円以下の法人事業者』となります。
親事業者が中規模事業者がに該当する場合、下請事業者は『資本金1000万円以下の法人事業者および個人事業者』となります。
前述したように、下請に対するプレッシャーは、親事業者と下請事業者の企業規模の違いによって主に発生するので、親事業者の規模が相対的に小さい場合は下請に対する影響力も小さくなると考えられます。
下請法ではこれを反映し、親事業者の事業規模がそこまで大きくない場合には下請業者の資本金基準も小さくして必要以上に実務に負担をかけないような配慮がなされています。
なお、親事業者が個人事業主を相手とする取引については、資本金という概念がなくまた一般的には法人よりも弱い立場にあることから、親事業者の定義も満たす場合には例外なく下請法対象となります。
③親事業者が小規模事業者の場合
①及び②に該当しないものは小規模事業者となります。
親事業者が小規模事業者の場合には、優越的な地位を行使できるほどの影響力を有さないことから下請法の対象にはなりません。
〔カテゴリー2〕
カテゴリ-2の場合もカテゴリー1と基本的なロジックは同じです。
カテゴリー2の場合はカテゴリー1の場合よりも基準金額が小さくなるため注意しましょう。
①親会社が大規模事業者の場合
カテゴリ-2における大規模事業者の定義は、『資本金5000万円超の法人事業者』となります。
親事業者が大規模事業者がに該当する場合、下請事業者は『資本金5000万円以下の法人事業者および個人事業者』となります。
②親会社が中規模事業者の場合
カテゴリー2における中規模事業者の定義は、『資本金1000万円超5000万円以下の法人事業者』となります。
親事業者が中規模事業者がに該当する場合、下請事業者は『資本金1000万円以下の法人事業者および個人事業者』となります。
③親事業者が小規模事業者の場合
①及び②に該当しないものは小規模事業者となります。
カテゴリー1の場合と同様、親事業者が小規模事業者の場合には、優越的な地位を行使できるほどの影響力を有さないことから下請法の対象にはなりません。
3.論点整理と表
過去2回のコラムの内容を表にまとめると下記のようになります。
(カテゴリー分け)
製造委託/修理委託 | 情報成果物作成委託 | 役務提供委託 | |
カテゴリー1 | 全て | プログラム作成 | 運送、物品の倉庫における保管及び情報処理 |
カテゴリー2 | 該当なし | プログラム作成以外 | 運送、物品の倉庫における保管及び情報処理以外 |
(カテゴリーごとの基準金額)
親事業者 | 下請事業者 | |
カテゴリー1(大規模事業者) | 資本金3億円超の法人事業者 | 資本金3億円以下の法人事業者および個人事業者 |
カテゴリー1(中規模事業者) | 資本金1000万円超3億円以下の法人事業者 | 資本金1000万円以下の法人事業者および個人事業者 |
カテゴリー2(大規模事業者) | 資本金5000万円超の法人事業者 | 資本金5000万円以下の法人事業者および個人事業者 |
カテゴリー2(中規模事業者) | 資本金1000万円超5000万円以下の法人事業者 | 資本金1000万円以下の法人事業者および個人事業者 |
※今回のコラムでは一部法律問題を扱っておりますが、一般論も含め正確な記載をこころがけているものの、執筆当時の状況でもあり、また必ずしも公正取引委員会等の公式見解でもない点についてはご留意ください。
また、下請法全般について網羅的に記載している訳ではありませんので、ここに記載がないからといって適法性が保証される訳でもありません。
実際の実務において当コラムの内容を適用する際には、事前に必ず公正取引委員会や顧問弁護士等に問合せを行い、十分な検討を社内で行っていただくようお願い申し上げます。