下請法の影響範囲について①
上場企業への法令遵守がますます厳しくなる時代背景もあり、上場準備企業における法令遵守体制の整備状況及び運用状況への目線は非常に厳しくなっている現状があります。
特に審査においては、10年前であれば多めに見てもらえたような内部管理体制のちょっとした不備でも証券審査や東証審査において容赦なく落とされるような事例も耳にします。
特に『下請代金支払遅延等防止法』(いわゆる下請法)は、多くの会社が活用している外注業務について詳細に定められており、違反した場合の証券審査や東証審査でのリスクも非常に大きいため重要度を高めた対応が必要になります。
前回までのコラム
にもあるように、まずは下請法の趣旨とフレームワークを理解すること法令遵守体制構築には必要不可欠で、前回までのコラムにおいては基本的な趣旨と下請法で定められている4類型
- 製造委託
- 修理委託
- 情報成果物作成委託
- 役務提供委託
のそれぞれについて解説をしてきました。
今回のコラムでは、この4類型ごとそれぞれに規定されている下請法の対象範囲について2回に分けて解説をしていきたいと思います。
非常に複雑なので今回と次回の解説を読んでよく理解した後で、次回のコラムの最後についているまとめ図表でもう一度整理をしていただければと思います。
1.下請法の対象範囲について
下請法は、元請-下請関係の中で一般に優越的な地位にある親事業者(元請)が下請事業者に対して不利な取引条件等を強いることを防止するため、独禁法を補助する形で行政側が迅速かつ実効性のある対応をすることを目的に、親事業者への義務や具体的な禁止行為を定めたものになります。
とはいえ、商行為全般を対象としてしまうとあまりに広範に渡りすぎてしまって実務の事務工数が莫大なものとなってしまいますから、前回までのコラムでも見たように下請取引を厳密に定義し、これらに該当しないものはそもそも下請法の対象外としていました。
今回はさらに、事業規模等により下請法の対象外となるようなケースがあるのでこれを解説します。
というのも、上記のような特権的な地位を利用した濫用行為が想定できないようなケースにおいてまで下請法を適用するのは合理性に欠けるからです。
詳細は次章で解説しますが、例えば下請事業者に該当する会社がトヨタ自動車のようなグローバルな大企業である場合、親事業者が優先的地位を利用して不利な取引条件を押し付けようとしたとしても、法務面または影響力の面で十分に対抗することができるため敢えて下請法で保護する必要はありません。
また、逆に発注側である親事業者に該当する事業者が個人事業主といった場合、そもそも個人事業主が取引に影響を与えるほどの優越的な地位を得ていることも稀でしょうからこれも下請法の対象から外れます。
下請法では、上記ような趣旨から下請取引の分類と事業者の規模に応じて細かく下請取引の条件が定められているので、次章ではこれを見ていくことにしましょう。
2.取引条件ごとの場合分け
下請法では、仕事を発注する事業者の資本金などの事業規模に応じて、また受注する事業者の資本金などの事業規模に応じて下請法の『親事業者』『下請業者』の定義がなされます。
また、これは前回までのコラムで見た4分類の応じて、基準となる資本金等の規模が異なります。
まずは、この基準となる資本金が異なる分類1ごとのカテゴリー分けについて説明していきます。
なお、このカテゴリー分けは本コラムで説明の便宜上設けているもので、下請法上の概念ではない点についてご留意ください。
〔カテゴリー1〕
カテゴリー1は、カテゴリー2と比べると比較的大きな資本金基準が設けられる区分です。
製造委託と修理委託の全て、情報成果物委託のうちのプログラム作成、役務提供委託のうちの運送、物品の倉庫における保管及び情報処理がここに該当します。
比較的事業規模の大きな企業が多いため、カテゴリー2の企業とは別の基準が設定されています。
〔カテゴリー2〕
カテゴリー2は、カテゴリー1に該当しない企業群です。具体的には、プログラム作成を除く情報成果物作成委託、、運送、物品の倉庫における保管及び情報処理を除く役務提供委託です。
カテゴリー1と比較すると比較的小さな企業が多いため、カテゴリー1よりも小さな金額基準が設けられています。
基準についてはすぐ後で解説しますが、下請法の対象となる事業者の範囲は、もちろん広ければ広いほど優越的な地位濫用を捉えられる可能性が大きくなるのですが、一方で実務上は公正取引委員会や中小企業庁の人員には限りがあるため、現実的な範囲に収める必要があります。
こうした取引範囲確定の必要性などから、条件ごとに細かく金額基準が定められている点を理解したうえで次回行う金額についての説明を読んでみてください。(きっと理解のスピードが違ってくるはずです。)
次回のコラムでは、このカテゴリーごとに分けられた基準額について説明をしていきますので、できれば続けて読んでいただけると幸いです。
次回のコラム
※今回のコラムでは一部法律問題を扱っておりますが、一般論も含め正確な記載をこころがけているものの、執筆当時の状況でもあり、また必ずしも公正取引委員会等の公式見解でもない点についてはご留意ください。
また、下請法全般について網羅的に記載している訳ではありませんので、ここに記載がないからといって適法性が保証される訳でもありません。
実際の実務において当コラムの内容を適用する際には、事前に必ず公正取引委員会や顧問弁護士等に問合せを行い、十分な検討を社内で行っていただくようお願い申し上げます。