広告業における代理人取引等①
収益認識基準の改正により、純額取引と総額取引の区別について厳密に行う必要が出てきました。
今回は、新しい収益認識基準において論点となる広告業における代理人取引の判定やその会計処理について、取り上げてみたいと思います。
1.会計処理の特徴
広告代理店の業務は大別すると、①メディアへの広告出稿と②広告制作・プロモーション提供の二つに分けられます。
ここで新しい「収益認識に関する会計基準」において問題となるのが、広告代理店における主な収益認識時点はどの時点であるかという点です。以下、これについて解説していきます。
(1) 収益認識時点
企業は、財又はサービスを顧客に移転することにより、履行義務を充足した時又は充足するにつれて収益を認識します(「収益認識に関する会計基準」第35項)。
収益認識基準に照らし合わせて、広告代理店と出稿者である依頼主との間でどのような関係が生じるのか考察していきます。
2.メディアへの広告出稿
まず①のメディアへの広告出稿においては、実務上は取引基本契約等により、放送又は掲載の事実があったときに納入が完了したものとされることが多いと思われます。
したがって広告代理店が媒体社に対して広告出稿を手配し、メディアに広告出稿がなされた時点で、当該サービスに対する支配が広告出稿主に移転し、履行義務が充足されると考えられます。そのため、メディアに広告出稿がなされたタイミングで収益を認識することになります。
なお、リスティング広告やアフィリエイト広告においては、運営企業やASPからの報告に基づいて収益を認識することとなるため、収益の認識に当たって第三者からの報告が必要となります。
月次決算において遅滞なくこれらの数値を入手できる体制を具備するだけでなく、決算月や四半期決算月においてタイムリーに報告書の入手ができる体制を構築しておく必要があります。
3.広告制作・プロモーション提供
②の「広告制作・プロモーション提供」においては、主に制作物の納品又は役務提供により当該財又はサービスに対する支配が広告出稿主に移転し、履行義務が充足されると考えられます。
そのため、制作物の納品又はサービスの役務提供のタイミングで収益を認識することになります。
理論上は上記の通りシンプルなのですが、実務上はやや複雑になると思われます。なぜなら、制作やプロモーション提供の場合には多様な制作形態、受注形態があり、役務提供のタイミングは個別性が非常に高くなると思われるからです。
次の段落においては、基準をベースにどのように役務提供を考えていけばよいかについて考察していきます。
4.広告制作・プロモーションにおける役務提供
収益認識基準第35項によれば、収益認識のタイミングは『企業は約束した財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、収益を認識する。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時又は獲得するにつれてである』と記載されている。
ここで特に注意すべきなのは、『支配を獲得した時』または『獲得するにつれて』と並列条件が定められている点です。収益認識には、一定期間にわたってサービスを提供するサブスクサービスのようなものと、受注生産に代表されるような一時点における納品分のような類型が存在し、そのどちらであるかによって収益認識の形態が異なってきます。
すなわち、契約における取引開始日に履行義務が一定の期間にわたり充足されるものであるのか、又は一時点で充足されるものであるかを判定する必要があるという事になります。
次に重要なのが、『支配』という概念です。これも収益認識基準第37項によれば、『資産に対する支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含む。)をいう。』とありますので、概念フレームワークの資産概念と同様に考えてよいでしょう。
「収益認識に関する会計基準」第38項では、次の三つの要件により、一時点なのか一定期間にわたるのか、及び支配の有無を判定するものとしています。
(ⅰ) 企業が義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受するか
(ⅱ) 企業が義務を履行するにつれて、新たな資産又は資産の増価が生じ、当該新たな資産又は資産の増価を顧客が支配するか
(ⅲ) 企業が義務を履行するにより、別に転用できない資産が生じ、完了した部分については対価を強制的に収受する権利を有しているか
当該三要件を充足すれば一定期間にわたり支配されるものという事になりますし、そうでなければ一時点の支配の充足ということになります。
すなわち当該三要件に照らして、履行義務が一定期間にわたり充足されるものか一時点で充足されるものかを判断するということになります。
マーケティングやプロモーションの中でも一定期間の広告キャンペーンを請け負う場合等は、この三要件を満たすと思われます。
したがってこうした案件を企業が顧客から受注した場合は、納品月に収益をまとめて認識するのではなく、サービスの役務提供を行った一定の期間にわたって履行義務を充足していると考え、充足の度合いを計量的に測定したうえで収益を認識することになると考えられます。