親事業者の義務と罰則について
上場準備会社が行うべき法令遵守に関する取り組みとして下請法について解説をしてきました。
前回は、5条書類の説明及び3条書面と5条書類の違いについて解説をしました。(禁止事項についてや過去の下請法の解説、及び3条書面・5条書類に関する解説は『4.過去の下請法に関するコラム(保管庫)』を参照してください。)
今回は、一連のシリーズの最後として、3条書面・5条書類以外の親事業者義務と下請法違反をした場合の親事業者に対する罰則について説明をしていきたいと思います。
1.下請代金の支払期日を定める義務
下請法第2条の2は下請代金の支払期日について定めた規定です。
親事業者は、下請事業者の給付の受領日から起算して60日以内に下請代金の支払期日を定める義務があります。
この『受領日』は、製造委託や情報成果物作成委託の場合は下請事業者から物品・情報成果物を文字通り受領した日、役務提供委託の場合は下請事業者が役務提供を行った日です。
また、検査の有無を問わないので、『検査・検収に時間がかかるから』といった言い訳は通用しないので注意しましょう。
条文は以下の通りです。
第2条の2:下請代金の支払期日
1 下請代金の支払期日は、親事業者が下請事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、 親事業者が下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日。次項において同じ。)から起算して、60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。
2 下請代金の支払期日が定められなかつたときは親事業者が下請事業者の給付を受領した日が、 前項の規定に違反して下請代金の支払期日が定められたときは親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して60日を経過した日の前日が下請代金の支払期日と定められたものとみなす。
この規定の趣旨は、親事業者が優越的な立場を利用して下請代金の支払期日を不当に後倒しすることが実務上よくあるため、これを放置すると下請事業者の資金繰りが悪化し倒産、清算等に繋がることから、こうした不当な行為を予め防止することにあります。
注意点として、60日という期日は31日をまたぐと2か月を超えるため、『翌々月支払』という支払サイトを設定すると下請法違反となります。
上場準備企業は、特に下請法に該当する取引についてはこうしたサイトを設定しただけで下請法違反となり、上場審査を通過できないという事態に陥りかねないので重々注意しましょう。
2.遅延利息の支払義務
次に、下請法第4条の2『遅延利息』の規定について解説をします。
条文は、下記となります。
親事業者は、下請代金の支払期日までに下請代金を支払わなかつたときは、下請事業者に対し、 下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日) から起算して60日を経過した日から支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該未払金額に公正取引委員会規則で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。
第2条の2とセットで考えると良いのですが、支払遅延を行った親事業者は下請事業者に対し、遅延日数に応じて年率14.6%というとてつもない高利の遅延利息を支払う義務があるので注意が必要です。
さらに言うと、支払遅延自体が下請法違反なので、遅延利息を支払えば60日を超える支払サイトを設定できるという意味の規定ではありませんから、遅延利息をきちんと支払っているとしても、支払サイト自体を60日を超えないようにしないと下請法に対処したことにはならないので注意しましょう。
この規定は、支払遅延に対する経済的なペナルティーを課すという意味があります。遅延利息を親事業者が自主的に支払う事は考えずにくく、また高利にすることで抑止効果が強く働くことから法定することで下請事業者の利益を保護しようという趣旨になります。
3.下請法違反の場合の罰則について
下請法9条1項には、公正取引委員会が親事業者の下請事業者に対する製造委託等に関する取引を公正ならしめるため必要があると認めるときは、 親事業者・下請事業者の双方に対し、下請取引に関する報告をさせ、又はその職員に親事業者の事業所等で立入検査を行わせることができることが定められています。
⑴書面調査等
公正取引委員会及び中小企業庁は、下記のような手段により下請法違反の検知を行います。
・書面調査
・下請事業者からの申し立て
・親事業者からの自発的な申し出(※)
・中小企業庁長官からの措置要求
・所轄官庁等からの通知
(※)調査前に親事業者から違反行為の自発的な申し出がなされ、下請事業者の不利益が回復されるための自発的な措置が行われている場合、原則として勧告が行われないため、自社で下請法違反が発覚した場合は正直に申し出を行う事が最善になるので、顧問弁護士などと相談しましょう。
⑵立入検査
下請法違反の疑いがある場合、公正取引委員会及び中小企業庁は立入検査を実施し、聞き取り、取引記録の調査などを行います。(この時点で、3条書面や5条書類の保管が適切にされていないと担当監査官の心証を大きく損なうことになるので注意しましょう。)
⑶勧告等の処分
公正取引委員会は、検査の結果判明した違反親事業者に対し、違反行為の是正、その他必要な措置をとるべきことを勧告することがあります。
勧告した場合は原則として事業者名、違反事実の概要、勧告の概要等が公表されるため、上場審査はもちろん、コンプライアンス等を重視する大手企業との取引などにも大きな影響が出る可能性があります。
また、注意すべき点として下請法違反に対する罰則は両罰規定である点が挙げられます。
以下の違反行為については、代表者・担当者個人に加え、会社も罰せられることになるので注意しましょう。
①書面の交付義務違反
②書類の作成及び保存義務違反
③報告徴収に対する報告拒否、虚偽報告
④立入検査の拒否、妨害、忌避
4.過去の下請法に関するコラム(保管庫)
過去の下請法に関するコラムは下記の通りとなります。下請法には様々な論点が存在するので、下記のコラムを参照にしつつ全体像を見失わないようにしてくださいね。
※今回のコラムでは一部法律問題を扱っておりますが、一般論も含め正確な記載をこころがけているものの、執筆当時の状況でもあり、また必ずしも公正取引委員会等の公式見解でもない点についてはご留意ください。
また、下請法全般について網羅的に記載している訳ではありませんので、ここに記載がないからといって適法性が保証される訳でもありません。
実際の実務において当コラムの内容を適用する際には、事前に必ず公正取引委員会や顧問弁護士等に問合せを行い、十分な検討を社内で行っていただくようお願い申し上げます。