貸倒引当金概説

貸倒引当金という言葉を聞いたことはあるでしょうか?

企業活動を行う中で、顧客が支払能力を喪失し債権の全額回収が不可能になるといった局面が訪れることがあります。

このような『貸倒』が発生した際に計上されるのが『貸倒引当金』です。今回は、貸倒引当金についてまとめてみました。

1.貸倒引当金とは

貸倒引当金は、企業の倒産等により債権回収ができなくなることにより発生する損失に対して、その損失として見込まれる額をあらかじめ財務諸表に反映させる会計処理をいいます。

貸倒引当金は、企業の倒産等による貸倒損失に対して、その損失として見込まれる額を。

貸倒が起こった場合は通常の企業であれば、債権回収のために督促、交渉等の努力が行われることが普通であり、その発生時から回収不能が確定するまでの期間が長期にわたるのが通常です。

そうなると、貸倒発生時と貸倒確定時で事業年度をまたいでしまうことが多くなり、正確な期間損益の算定ができなくなってしまいます。

このような場合にも、あらかじめ将来を見越して貸倒引当金を計上しておけば、損益の整合性を確保することができます。

引当金は、企業会計において将来発生する特定の費用や損失に備えるため、あらかじめ当期の費用として繰り入れて準備しておく見積り金額ですから、『貸倒引当金』が妥当であるという訳です。

2.貸倒引当金の会計処理

貸倒の発生が見込まれた時点で企業は貸倒見積高を算定し、会計処理を行います。

金融商品基準によれば、貸倒見積脱化は債務者の財政状態及び経営成績等に応じて債権を次のように区分し、債権の種類に応じた適切な算定方法を採用するによって算定します。

  1. 一般債権・・・経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権 
  2. 貸倒懸念債権・・・経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権 
  3. 破産更生債権等・・・経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権 

区分された債権の貸倒見積高ごとに、その区分に応じてそれぞれ次の方法により算定します。

  1. 一般債権⇒貸倒実績率法
  2. 貸倒懸念債権⇒財務内容評価法またはキャッシュ・フロー見積法
  3. 破産更生債権等⇒財務内容評価法

3.一般債権

貸倒見積高の算定と言っても債務超過や支払の遅延といった貸倒の兆候のない取引先がほとんどであると思います。

一般債権は、特に貸倒懸念のない相手先を分類するカテゴリーです。とはいえ、こうした取引先からも一定確率で貸倒は発生しますから、債権額に(貸倒の)期待値を乗じて算定を行います。

企業の保有する一般債権の信用リスクが毎期同程度であると仮定すれば、将来発生する損失の見積りに当たって過去の貸倒実績率を用いることが最も適切であると考えられます。


一方であくまで期待値の計算ですから、期末日現在に保有する債権の信用リスクが、外部環境等の変化によって過去の信用リスクと著しく異なるような場合には、過去の貸倒実績率を補正する必要があります。


また、企業が新規業態に進出した場合など、過去の貸倒実績率を用いることができない場合があります。

そうしたケースでは同業他社の引当率や経営上用いている合理的な貸倒見積高を採用することもあります。

4.貸倒懸念債権

貸倒懸念債権は、貸倒が明らかではないものの債権回収に疑念が生じるような状況にある債権です。

この場合は、破綻している訳ではないので即全額を貸倒見積高として計上するのは適切ではない反面、一般債権の貸倒実積率を用いることも状況を考えれば適切ではありません。

そこで採用されるのが、下記のような見積の方法です。

【財務内容評価法】

担保又は保証が付されている債権について、債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法です。

財務内容評価法を採用する場合は、債務者の経営状態、債務超過の程度、延滞の期間、事業活動の状況、銀行等金融機関及び親会社の支援状況、再建計画の実現可能性、今後の収益及び資金繰りの見通しなどを総合的に勘案し、債権者の支払能力を評価する必要があります。

とはいえ、一般の事業会社においては、債務者の支払能力を判断する資料を入手することは困難であることが普通です。

したがって実務上は、貸倒懸念債権と初めて認定した期は、担保の処分見込額及び保証による回収見込額を控除した残額の50%を引き当て、次年度以降において、毎期見直す等の簡便的な方法を採用することが多いと考えられます。


とはいえ、原則はあくまで個々の企業の支払能力を判断する方法なので、個別に重要性の高い貸倒懸念債権については、可能な限り資料を入手し、評価時点における回収可能額の最善の見積りを行うことが必要な点は言うまでもありません。

【キャッシュ・フロー見積法】
債権の元本の回収及び利息の受取に係るキャッシュ・フローを合理的に見積もり、見積もった将来キャッシュ・フローをもって回収額とする方法です。

債権の発生又は取得当初における将来キャッシュ・フローと債権の帳簿価額との差額が一定率となるような割引率を算出し、元本の回収及び利息の受取額を当期末までの期間にわたって、上記の割引率で割り引いた現在価値の総額と債権の帳簿価額との差額が貸倒見積高となります。

とはいえ、既に回収遅延が起きているという状況下において、ただでさえ不確実性の高い未確定の将来のキャッシュ・フローを算定することは難しく、実務で採用されることは稀です。

5.破産更生債権等

破産更生債権等は、経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権です。

回収が見込めないことが確実であるため、債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見積高とします。


なお、債務者から契約上の利払日を相当期間経過しても利息の支払を受けていない債権及び破産更生債権等については、既に計上されている未収利息を当期の損失として処理し、それ以後の期間の利息についても計上してはなりません。