実務対応報告38号の概況について③

暗号資産を会計上の勘定科目に分類しようとすると、どれにも当てはめることができず、『暗号資産』という独立の科目として理解するのが適当であるとの結論に前回のコラムでは記載しました。

では、実際の会計処理はどうなるのでしょうか?今回は、仕訳処理も含め、改めて解説をしていきたいと思います。

1.暗号資産の会計処理の実務上の取り扱いについて

実務対応報告38号では取得時点の会計処理の定めがありませんが、暗号資産利用者にとっては企業会計原則の貸借対照表原則(5)「貸借対照表に記載する資産の価格は、原則として、当該資産の取得価格を基礎として計上しなければならない。」に則った資産の取得処理をすると考えて問題ないと思われます。

一方、暗号資産交換業者の場合は、保有する暗号資産の単価が暗号資産利用者との取引時点の単価と異なる場合、売買の合意が認識された時点で売却損益が認識されることとなります。

では、これを具体的な設例を使って見ていきましょう。

【設例1】

R社は暗号資産交換所において、ビットコイン0.01BTCを現金20,000円で取得した。

(R社の仕訳)

暗号資産 20,000円 / 現金20,000円

続いて、暗号資産交換業者の仕訳です。

暗号資産がもともと保有するビットコインの単価が0.01BTC=18,000円であった場合、暗号資産交換業者にとっては保有する暗号資産の売却となるため、売却益が認識されることとなります。

(暗号資産交換業者の仕訳)

現金20,000円 / 暗号資産18,000円

       /暗号資産売却益2,000円

次は、暗号資産売却時の会計処理について解説します。

暗号資産交換業者及び暗号資産利用者において、暗号資産の売却損益は当該暗号資産の売買の合意が成立した時点において認識します。

なお暗号資産利用者にとっての売却時は、暗号資産業者にとっては取得時という事になりますが、暗号資産交換業者の取得後の単価の算定方法については実務対応報告38号では示されておらず、複数回にわたり取得された暗号資産の一部売却をした場合に、取得原価をどのように計算するのかという問題が残ります。(これについては後述します。)

【設例2】

R社は設問1で取得したビットコインを同じ暗号資産交換取引所にて現金21,000円で売却した。

(暗号資産利用者(R社)の仕訳)

現金21,000円 / 暗号資産20,000円

       /暗号資産売却益1,000円

(暗号資産交換業者の仕訳)

暗号資産8000円 / 現金8000円

この時、暗号資産交換業者は0.01BTCを21,000円で取得することになります。

ただしもともと保有するビットコインの単価とこの取引時点での単価が異なる場合、前述したように取得後の単価の算定方法について実務対応報告38号には定めがありません。

したがって、(後述しますが)移動平均法など従来の会計基準の枠組みの中で計算されることになります。

2.暗号資産の売却損益の認識時点について

暗号資産の売却損益の認識時点については、売買の合意が成立した時点において認識するとされています(約定日基準)。

この売却損益の認識時点については、引渡時に認識する受渡日基準とすることも考えられました。

しかし、暗号資産の取引情報がネットワーク上の有高として記録されるプロセスは、暗号資産の種類や業者によって多様であり、引渡時点の確定について企業ごとでタイミングが異なる可能性があることや、売買合意成立後の売り手は、変動のリスク等に実績にされておらず売却損益が確定していると考えられ、理論上も約定日基準とした方がより合理的な処理と考えられることから、金融商品等と同様に約定日基準とされました。

3.取得原価が異なる場合

前述したように、同一の暗号資産を2回以上にわたって取得した場合には、取得価額を計算しなければなりませんが、実務対応報告38号にその規定がないため、どのように対応すべきかという課題が残ります。

結論から申し上げますと、移動平均法が望ましいということになります。

実は、継続適用を要件に総平均法での計算も認められていますが、総平均法には大きなデメリットがあるためです。

年間での総平均法を採用すると、年間の損益は1年経過し、期が終わった段階でやっと確定することになります。これでは、期末の決算処理などが間に合わない可能性が高く現実的ではありません。

そこで総平均法を採用する場合には月単位での総平均法等、期間を刻んだ計算を検討する必要があります。

ただ暗号資産は上場株式等の取引と同様に部分的に決済するのが普通です。そうすると取引明細が膨大になり、明細を見ると一日で数十件の取引が並んでいたりする状態が出現します。

これを計算し毎月損益を確定させる訳ですが、それだけの手間をかけてまで総平均法にこだわる意味があるかといえば、その必要性は薄いことがほとんどだと思います。

上記の理由に、通常は移動平均法を採用すると思われます。

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