リース基準の公開草案改正の背景について(1)
2023年5月2日に、企業会計基準委員会より、企業会計基準公開草案第 73 号「リースに関する会計基準(案)」等及び企業会計基準適用指針公開草案第 73 号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」が公表されました。
この公開草案は、過去のコラムでも解説したように、以下のような問題意識から定められたものです。
リース取引をオペレーティング・リース取引とファイナンス・リース取引に分類し、オペレーティング・リース取引は賃貸借処理を行うという会計処理を現行の会計基準では行っています。
しかしオペレーティング・リースの場合には実質的な使用権資産とリース債務が発生しているにもかかわらず、それがオンバランスされず、財務諸表利用者が注記なども含めそれを把握しがたいという欠点が生じてしまいます。
これは財務諸表利用者に対して投資意思決定に資する情報提供を行うという趣旨に大いに反することになるため、コンバージェンスの観点などから使用権モデルにより網羅的にリース債務(と使用権資産)を把握することとし、基準や適用指針を整理しなおしたというものです。
また、公表された公開草案は、会計基準の大枠を定めた企業会計基準公開草案第 73 号「リースに関する会計基準(案)」と、基準を前提とした詳細な会計処理や設例を記載した企業会計基準適用指針公開草案第 73 号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」とに分かれます。
今回は、公開草案のうち、企業会計基準公開草案第 73 号「リースに関する会計基準(案)」について、どのようなスタンスで定められたのかの趣旨を中心に解説をしていきたいと思います。
また、この解説は詳細かつ難解であるため、何回かに分けての解説となりますのでご理解いただければと思います。
1.リースに関する企業会計基準の改正の背景
我が国のリース取引に関する会計基準として、1993 年 6 月に企業会計審議会第一部会から「リース取引に係る会計基準」(以下「1993 年リース取引会計基準」という。)が公表されたという歴史があります。
1993 年リース取引会計基準では、ファイナンス・リース取引について通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うこととされていました。
その理由としては、「リース取引に係る会計基準に関する意見書」(企業会計審議会第一部会 1993 年 6 月17 日)において次のように定めてあったという事情があります。
「我が国の現行の企業会計実務においては、リース取引は、その取引契約に係る法的形式に従って、賃貸借取引として処理されている。しかしながら、リース取引の中には、その経済実態が、当該物件を売買した場合と同様の状態にあると認められるものがかなり増加してきている。かかるリース取引について、これを賃貸借取引として処理することは、その取引実態を財務諸表に的確に反映するものとはいいがたく、このため、リース取引に関する会計処理及び開示方法を総合的に見直し、公正妥当な会計基準を設定することが、広く各方面から求められてきている。」
2.企業会計審議会の問題意識
ここにもあるように、1993年のリース会計基準の制定時には我が国の会計実務としては、現行のオペレーティング・リース取引のような賃貸借処理、すなわちリース料という費用とリース料に見合う未払費用のみを計上するような処理が一般的でした。
このような処理はBS上負債として計上すべきリース債務がオフバランスされるだけでなく、リースに係る利息費用が正しく計上されない可能性があることから、1993 年リース取引会計基準では、法的には賃貸借取引であるリース取引について、経済実態に着目し通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を採用することになりました。
これは、まさに今回の改正前の会計処理で、ファイナンス・リース取引と資産の割賦売買取引との会計処理の比較可能性を考慮し、原則としてファイナンス・リース取引としてリース資産とリース債務を両建てしたうえで利息費用を債務残高に応じて計上するもので、この原則通りに処理をすれば過去の処理と比べて実態を適切に反映したものとなる改正でした。
さらに1993 年リース取引会計基準は、リース取引をファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に分類する点や、借手がリース資産を固定資産として計上する点など、国際会計基準及び米国会計基準と平仄を合わせるものでありました。
一方で、1993 年リース取引会計基準では、ファイナンス・リース取引のうち所有権移転外ファイナンス・リース取引については、一定の注記を要件として通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理(以下「例外処理」という。)を採用することを認めてきました。
企業会計基準第 13 号の公表時の状況の下では、大半の企業において、この例外処理が採用されていたという実態があり、形式的には正しい処理ができる体制になっていても、実質的にはまだ多くの企業が実態に合わない処理をしてしまっていたという状況がありました。
この例外処理の再検討について、当時の企業会計審議会は主として次のような問題意識を抱えていました。
(1) 会計上の情報開示の観点からは、ファイナンス・リース取引については、借手において資産及び負債を認識する必要性がある。特に、いわゆるレンタルと異なり、使用の有無にかかわらず借手はリース料の支払義務を負い、キャッシュ・フローは固定されているため、借手は債務を計上すべきであること。
(2) 本来、代替的な処理が認められるのは、異なった経済実態に異なる会計処理を適用することで、事実をより適切に伝えられる場合であるが、例外処理がほぼすべてを占める現状は、会計基準の趣旨を否定するような特異な状況であり、早急に是正される必要があること。