上場準備における下請法対応について①

上場準備を行う企業が昨今ますます増えてきましたが、正社員雇用を行った際の社会保険料負担や雇用の硬直性を嫌って業務委託の活用を積極的に行う企業も多いようです。

非上場のまま売上や利益を伸ばすフェーズであれば、上記のような正社員のデメリットを嫌って業務委託を中心とした活用をすることも一定の合理性があると思いますが、これが上場準備フェーズに入ると法務リスクに対する管理体制の観点からコンプライアンス(法令遵守)体制整備を求められますので、創業から間もない非上場の小さな会社の体制では到底上場審査に耐えられません。

今回は、特にどこの会社でも問題になりやすい『下請法』について何回のシリーズに分けて解説をしていきます。

業務委託だけでなく、ソフトウエアの発注や製造委託、外注業務全般について関係してくる法律なので下請法と無関係でいられる企業は少ないと思われますので、ぜひ自社の状況にひきつけてコラムを読んでいただければと思います。

1.下請法とは何か

下請法は、正式名称で『下請代金支払遅延等防止法』といいます。

我が国においては、製造業、運送業、ソフトウエア開発など様々な場面で元請-下請関係が成立しており、それを前提とした取引が行われています。

しかしながら、一般的に仕事を発注する元請の立場が強く、支払代金の遅延や不当なダンピングなど元請側が優越的な地位を濫用した取引がたびたび社会問題となってきました。

そもそもこうした下請取引における下請代金の支払遅延などの行為は、独禁法の不公正な取引方法のうちの優越的地位の濫用行為に該当し、 独禁法第19条に違反するおそれがある行為となっているのですが、

独禁法の適用には個別の濫用行為であることを認定する必要があるため、 実効性に乏しいといわれています。

また、独禁法を適用する場合には下請事業者の方から親事業者の違反行為を公正取引委員会か中小企企業庁に申告する必要がありますが、元請から発注を請けている下請業者にこれを期待するのも現実的ではありません。

したがって、下請取引の公正化と、下請事業者の利益を確保することを目的として、 独禁法を補完する形で下請法は制定されました。

下請法の特徴としては独禁法第19条と異なり、違反が認められた場合には迅速な手続が可能となっており、かつ元請の具体的な禁止行為なども列挙されているため、逆にいえば上場準備時の法的リスクはそれだけ大きいとも言えます。

当然ですが、下請法違反の義務違反で罰金を科されたり、禁止行為を行ったことに中小企業庁から勧告を受けた場合には、たとえそれが会社にとって金銭的には軽微であっても上場審査においては致命傷になりますから、下請法で求められる親事業者に課された義務を理解し、それを遵守する体制を整備するとともに、禁止行為を行わないよう会社全体で徹底する必要があります。

2.下請法における4つの取引類型

下請法において、元請のことを親事業者といい、下請業者のことを下請事業者といいます。

前章でも見たように下請法においては、親事業者は規制対象であり、下請事業者は保護対象となります。

これから下請法について様々な側面から解説をしていきますが、まずは非常に重要な下請法における取引の4類型の解説をしていきます。

下請法においては、取引を下記の4類型に分類しそれぞれについて場合分けがなされます。

  1. 製造委託
  2. 修理委託
  3. 情報成果物作成委託
  4. 役務提供委託

次の章では、それぞれの4類型の内容について解説をしていきます。

3.製造委託について

製造委託とは、物品の製造や販売を営む事業者が、品質・規格・ブランド・形状・デザインなどを定めた上で、他の事業者に製造や加工などを任せることをいいます。

製造委託はさらに以下の3つのケースに分類されます。

ケース1
物品の販売を営む事業者が、物品・部品の製造を社外の事業者へ委託するケース

具体的には、自動車メーカーが部品メーカーに対して自動車部品の製造を委託する場合や、大規模スーパーが食品メーカーに対して、自社ブランド製品の製造を依頼する場合が該当します。


ケース2
物品の製造を請け負う事業者が、物品・部品の製造を社外の事業者へ委託するケース

具体的には、精密機器メーカーが部品メーカーに対して、受注生産する精密機械に関する部品製造を委託する場合や、建築材メーカーが資材メーカーに対して、受注生産する建築材に関する原材料の製造を委託する場合が該当します。

ケース3

部品の修理を営む事業者が、修理用部品の製造を社外の事業者へ委託するケース

具体的には、家電メーカーが部品メーカーに対して、販売した製品の修理に必要な部品の製造を委託する場合や、工作機械メーカーが部品メーカーに対して、自社で使用する工作機械の修理に必要な部品の製造を委託する場合が該当します。


ケース
自社で用いている物品を自社内で製造している事業者が、製造を社外の事業者へ委託するケース

自社で用いている特殊な工具を自社内で製造している工作機械メーカーが、別の工作機械メーカーに対してその特殊工具の製造を委託する場合が該当します。

今回のコラムはここまでとなります。

次回は、修理委託のケースの説明から再開します。

※今回のコラムでは一部法律問題を扱っておりますが、一般論も含め正確な記載をこころがけているものの、執筆当時の状況でもあり、また必ずしも公正取引委員会等の公式見解でもない点についてはご留意ください。

また、下請法全般について網羅的に記載している訳ではありませんので、ここに記載がないからといって適法性が保証される訳でもありません。

実際の実務において当コラムの内容を適用する際には、事前に必ず公正取引委員会や顧問弁護士等に問合せを行い、十分な検討を社内で行っていただくようお願い申し上げます。