上場準備における下請法対応について②

上場準備における法令遵守の基準については昨今ますます重要性を増しており、上場準備企業においてもコンプライアンス体制の整備をきちんと進めていくいく必要があります。

特に『下請代金支払遅延等防止法』(いわゆる下請法)は、おそらくどこの上場準備企業でも活用している業務委託や外注について広く適用される可能性があり、一方で下請法に違反して罰金を科されたり中小企業庁から勧告を受けることは上場準備において非常に不利になるので優先度を上げて対策する必要があります。

前回のコラム『上場準備における下請法対応について①』でこの辺りの事情についても解説しているのでぜひ見て頂ければと思います。

なお、今回は前回のコラムからの続きになります。

前回のコラムでは、

下請法においては、下請法取引の4類型である

  1. 製造委託
  2. 修理委託
  3. 情報成果物作成委託
  4. 役務提供委託

のうち1.製造委託まで解説したので、今回は2.修理委託について解説をしていきたいと思います。

1.修理委託について

修理委託とは、物品の修理を請け負う事業者が別の事業者へ修理対応を委託すること及び、自社で使用する物品を自社内で修理している場合に、その修理を別の事業者へ修理対応を委託することが該当します。

修理委託はさらに以下の2つのケースに分類されます。

ケース1
物品の修理を請け負う事業者が、物品・部品の修理を社外の事業者へ委託するケース

具体的には、自動車ディーラーが修理会社に対して自動車の修理作業を委託する場合や、船舶修理会社が修理会社に対して請け負った船舶の修理作業を委託する場合などが該当します。


ケース2
自社の物品の修理を自社で行っている事業者が、修理の一部を社外の事業者へ委託するケース

具体的には、貨物用リフトを社内で修理している貨物運送会社が修理会社に対して修理作業を委託する場合や、自社工場の設備を自社内で修理している工作機械メーカーが修理会社に対して修理作業を委託する場合が該当します。

修理委託については製造委託と非常に似た概念となっており、製造業において行われる元請-下請関係が広くカバーされていると理解していただければ分かりやすいと思います。

2.情報成果物作成委託について

情報成果物作成委託とは、情報成果物の提供作成を自ら行う事業者または情報成果物の作成業務を受注した事業者が、他の事業者へその作成作業を委託ことをいいます。

ここでいう情報成果物は、ソフトウエア、映像コンテンツ、プログラム(ゲームソフト、会計ソフト、家電製品への組み込みプログラムなど)、各種デザインが該当し、テレビ・ラジオ番組、CM、映画のような音声、映像、音響などから構成されるものや、設計図、各種デザイン、雑誌広告、報告書のような文字・図形・記号から構成されるものが含まれます。

情報成果物作成委託はさらに以下の3つのケースに分類されます。

ケース1
情報成果物の販売等を営む事業者が、情報成果物の作成を社外の事業者へ委託するケース

具体的には、ソフトウエアメーカーが別のソフトウェアメーカーに対してゲームソフトや汎用アプリケーションソフトの作成を委託する場合、放送事業者が番組制作会社に対してテレビ番組等の作成を委託する場合、アパレルメーカーがデザイン会社に対して、自社製作の衣料品のデザインを依頼する場合などが該当します。


ケース2
情報成果物の作成を請け負う事業者が、情報成果物の作成を社外の事業者へ委託するケース

具体的には、広告会社がCM制作会社に対して、クライアントから受注したCMの作成を委託する場合や、番組制作会社が音響制作会社や脚本家に対して、番組制作会社が受注したテレビ番組の音響や脚本の作成を委託する場合、建設会社が設計事務所に対して、請け負った工事等に関連する建築設計図面を委託する場合が該当します。

ケース3

自社で使用する情報成果物を自社で作成する事業者が、情報成果物の作成を社外の事業者へ委託するケース

具体的には、家電メーカーがソフトウエアメーカーに対して、内部システム部門で作成・使用する自社経理ソフトの作成の一部を委託する場合や、広告会社がデザイン会社に対して、コンペ提出用デザインの作成を委託する場合、デジタルコンテンツ作成会社がホームページ制作会社に対して、自社ホームページコンテンツの作成を委託する場合が該当します。

3.役務提供委託について

役務提供委託とは、運送やメンテナンスといった各種サービス提供を行う事業者が、請け負った役務を他の事業者に委託することを指します。

自動車や船舶の貨物運送、ビル、自動車、機械のメンテナンス、アフターサービスやコールセンターのような顧客サポートが役務提供委託に含まれます。

役務提供委託は以下の1ケースのみが類型となります。

ケース1
役務提供を営む事業者が、役務の全部または一部を社外の事業者へ委託するケース

具体的には、貨物運送業者がトラック運送会社に対して、請け負った貨物運送業務のうちの一部経路を委託する場合、ビルメンテナンス会社が清掃会社に対して、請け負ったメンテナンス業務の一部であるビル清掃を委託する場合、ソフトウエア・メーカーが顧客サービス大航海者に対して、自社のコールセンター業務を依頼する場合などが該当します。

役務提供委託の理解のポイントは、『役務提供を営む』事業者が自社業務と関連する業務を社外に委託した場合がこれに該当するという点であり、たとえば運送業者以外の事業者が宅配などを利用するようなケースは役務提供委託に該当しませんのでここを混同しないようにしましょう。

次回はこの4類型を前提として、実際に下請法がどのように適用されるのかについて見ていきたいと思います。


※今回のコラムでは一部法律問題を扱っておりますが、一般論も含め正確な記載をこころがけているものの、執筆当時の状況でもあり、また必ずしも公正取引委員会等の公式見解でもない点についてはご留意ください。

また、下請法全般について網羅的に記載している訳ではありませんので、ここに記載がないからといって適法性が保証される訳でもありません。

実際の実務において当コラムの内容を適用する際には、事前に必ず公正取引委員会や顧問弁護士等に問合せを行い、十分な検討を社内で行っていただくようお願い申し上げます。