IPOにおける内部監査の構築について

IPOにおける内部監査部門の役割

上場審査にあたっては、内部監査機能の設置が求められています。

株式上場をすることに対して内部監査部門の設置が求められる理由はコーポレートガバナンスの強化が求められているからであり、強化が求められている理由は以下の2つです。

①上場企業になると一般的に投資家や個人株主が増加するため、これら外部から内部の適切な管理体制について求められるため

②近年、特に上場企業の不祥事が増加しているため

有名な東証一部上場企業であっても不祥事が発生するケースもあり、上場企業への社会的信頼性が低下していると見る方も増えてきています。

内部監査部門の役割は十分な管理組織が整備、運用されているか、事故、不正、誤謬をある程度未然に防止し、不測の損失を防ぐなど適切な対応ができる状況にあるかをチェックすることであるため、コーポレートガバナンスの強化の一旦を担う内部監査部門の設置が義務付けられています。

内部監査部門の立ち上げスケジュール

3期前~2期前…内部監査部門の設置(規程の制定・部門新設・人員配置)

・「内部監査規程」の制定

はじめに内部監査の設置根拠である「内部監査規程」を作成し、取締役会で承認を受け正式な規程にします。

 

・部門の設置

内部監査規程の作成後、新規部門の設置となりますが、会社によっては組織規程や業務分掌規程等の変更が必要となります。

また、新規部門がどこに属すかも重要になります。

内部監査部門の多くは社長直下に配置されるケースが多く、それ以外は監査役会や取締役会の配下に配置されます。社長直下に配置した場合には当然社長の不祥事等に対しては指摘することができないため、監査役会等の独立した監視組織の配下が望ましいとされています。しかし、株式上場を目指している時期は難しい場合も多く、まずは社長直下に配置し今後の検討事項とするケースが多いようです。

 

・人員配置

株式上場を目指す企業は小規模であるケースが多く、社内に内部監査の経験者はいないことがほとんどです。そこで、中途採用やアウトソーシング等の検討が必要となるケースが多いです。

直前期~申請期…年間を通じて監査を実施(計画→監査→改善指示→フォローアップ)

内部監査は遅くとも申請期の1年以上前から運用され、全ての部署を対象に行なわれている必要があります。

上場審査では内部監査の状況およびその結果を『登録申請のための報告書(Ⅱの部)』に監査の計画から監査の結果、フォローアップの結果まですべて記載します。

内部監査人の社内の異動か採用またはアウトソーシング等の検討

人員配置の方法としては主に4つです。

①社内の異動

どの企業でも一番初めに検討することですが、最も難しい方法です。

経験者が社内にいることは稀であり、株式上場準備中の会社は基本的に人員に余裕もありません。

また、監査としては独立性の観点からそれまで従事していた業務について2年は監査できないルールになっています。

なお、内部監査を行うためには会社のことを理解し、業務に対して一定以上の水準の理解度が求められ、且つ幅広い豊富な知識が必要です。株式上場を目指しているフェーズの会社ではそのような人材が既に社内にいるケースは少ないです。

そのため、社内の人事異動による人員配置以外の方法を検討する企業が多いです。

 

②中途採用

上場企業には基本的に内部監査部門の設置があり、近年では非上場会社であっても設置している企業も増えてきています。しかし、それでも転職市場において内部監査部門経験者の絶対数は少ないのが現状です。

報酬を高くして募集すれば経験者が集まりますが、株式上場を目指す会社であるとあまり高い報酬を出せないのが現実ですので、中途採用で内部監査の経験者を採用するのは難しいケースが多いです。

 

③アウトソーシング

内部監査をアウトソーシングする方法もあります。社内の人間が行うよりも、より客観的な監査となり有効であるといえます。また、社内の人間でないため忖度などなく指摘できるメリットもあります。中途採用の場合は監査品質が採用した人の経験に依存することになりますが、アウトソーシング会社を利用した場合は一定以上の監査品質で監査を行うことが可能となります。

そのため、社内異動や中途採用が難しい場合にはアウトソーシングも検討すると良いです。

 

④コソーシング

最後の方法としてコソーシングという考えもあります。

コソーシングとは外部業者と社内の内部監査担当者が共同で作業を行うことです。

会社側で人員を用意する必要はありますが、経験が少ない内部監査担当者であっても外部業者との共同作業を通じて、内部監査手法や監査技術を学ぶことができ、時間・コストの節約や社内の人材育成などを目的としても利用でき会社にノウハウを残すことが可能です。

上場審査で内部監査部門に求められること

①内部監査部門の設置と内部監査の実施

上場審査で求められることは、規程の作成を行い組織とは独立したメンバーが内部監査部門に配置されており、社内の他業務と兼務状態ではないということです。

そして、監査計画書、監査調書、監査報告書、改善指示書等の文書が正式文章として作成され承認されている状態である必要があります。

更に、拠点が複数ある場合はすべての拠点について監査が必要です。すべての拠点を監査するという点については強く求められますので、拠点が多い会社の場合は内部監査人の人員数の確保、アウトソーシングの検討、スケジュールの作成等を早めに行うことが重要です。

 

②内部統制評価の実施及び経営管理体制の整備・運用の確認

内部統制評価の対応を内部監査部門が行うことが多くあります。

現在、内部統制評価については新興企業の新規上場を促すことを目的として、新規上場会社は、上場後3年間は内部統制報告書の提出が求められますが、公認会計士による監査の免除を選択することが可能です。

ただし、これは経営者が行う内部統制評価自体の免除ではありません。

上場後の決算までに内部統制評価を実施し「内部統制報告書」を「有価証券報告書」と併せて内閣総理大臣宛に提出する必要があります。

例えば3月決算の会社で3月に上場した場合は、6月には「内部統制報告書」の提出が必要となります。

このように、上場時期を見越して内部統制構築・評価について実施していかなければなりません。

なお、内部統制評価の対応は評価チームを立ち上げるか、独立部門である内部監査部門が対応するケースが多いので内部統制評価のスケジュールについても考慮する必要があります。

社内管理体制の構築

社内管理体制の構築として以下を行います。

①日常業務に内部牽制機能を持たせることにより、不正やミスが生じない体制を構築する。

②上場企業として必要な情報開示を適時(タイムリー)に適切(正確)に行える体制を構築する。

③継続企業として、特定の役員等に依存することなく、継続して存続できる組織体制を構築する。

具体的には

・社内規程の整備・運用     ・関連当事者取引の有無

・取締役会の適切な運営     ・組織体制の整備状況

・予算実績管理体制             ・関係会社の管理状況

・経理部門と財務部門の分離 等

 

内部監査の目的は社内管理体制を確認するものですので、内部監査部門立ち上げより前の段階で社内管理体制の構築をすることが必要となります。

管理レベルは会社によって異なりますが、非上場会社の管理レベルは十分でない場合が多く、それを上場企業の管理レベルにするには大変時間がかかります。

そのため、社内管理体制の構築と運用のスケジュールも考慮した上で内部監査部門の立ち上げを計画しなければ、内部監査部門を運用しても、社内管理体制の指摘が多く上場審査が通らないということにもなりかねません。

 

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