暗号資産の会計的性質についての考察

ビットコインをはじめとする暗号資産は、会計上その性質がはっきりしないためどのような科目にすべきなのか、その会計的性質を考えた上で様々な議論がなされてきました。

 

今回のコラムにおいては、暗号資産のもつ会計的性質とどのような科目に分類すべきかの議論について整理したうえで、改めて暗号資産の会計的特殊性について考えていきたいと思います。

 

 

1.IFRSに基づく現行の会計基準への当てはめ

 

ビットコインのような暗号資産の保有に適用する IFRSの基準として、IFRS-IC によるアジェンダ決定が公表さましたが、これが公表されるまでIFRSにおける暗号資産の位置づけははっきりせず、IFRS を適用する企業は、暗号資産を金融商品、無形資産または棚卸資産として扱っていたようです。

このように企業が適用する IFRS の基準が企業ごとで千差万別となったのは、暗号資産の性格としての⑴物理的な実体がないこと、⑵契約または特別な根拠法に基づく権利がないこと、⑶市場価格があるのうち、企業がどの性質を重視したかに起因しているといわれています。

 

⑴「物理的な実体がない」ことを重視する立場からは、暗号資産を無形資産に分類したと考えられます。

なぜなら「物理的実態がない」ことは、無形資産の主たる定義(「物理的実体のない、識別可能な非貨幣性資産」)に一致するからです。

 

⑶市場価格がある点を重視する立場からは、金融商品または棚卸資産として会計処理をしたと思われます。

金融商品として会計処理する理由としては、自由に売買できる取引所が存在するビットコインのような暗号資産は、「市場価格がある」点において、有価証券などの金融商品と同じという点を重視したと考えられます。

 

棚卸資産として会計処理をする立場の考え方は、⑶市場価格がある点を重視する立場に加え、⑵契約または特別な根拠法に基づく権利がない点も重視したと考えられます。

「金融商品でも『契約または特別な根拠法に基づく権利』でもないが、市場価格が存在する」という性質は、コモディティなどの棚卸資産と共通していると考えられるからです。

 

2.IFRSアジェンダにおける暗号資産の会計的性質

ビットコインのような暗号資産について、アジェンダ決定では、「通常の事業の過程における販売の目的で保有する」場合には、IAS 第 2 号「棚卸資産」を、そうではない場合には、IAS 第 38 号「無形資産」を適用するとの見解が示されました。

これにより、暗号資産の保有に係る会計上の取扱いが、IFRS 適用企業によって異なるという可能性ははなくなりました。

しかしながら、ビットコインのような暗号資産は、典型的な無形資産、棚卸資産のいずれとも異なる性格を有しています。

したがって、現行の IFRS の当てはめが適切な取扱いとならない可能性がある点には留意が必要です。

 

3.棚卸資産として会計処理する場合の諸問題

IAS 第 2 号を適用して会計上の棚卸資産として暗号資産を取り扱うのであれば、棚卸資産が一般的に、市場価格がない中で、企業の保有する他の資産や人材・ネットワークとの組合せによりキャッシュフローを生むという意味で間接的にキャッシュフローを生む資産(事業投資)と考えられている点との整合性が問題となります。

 

IASBの概念フレームワークでは、企業の事業活動が、いくつかの経済的資源を組み合わせて財又はサービスを生産し顧客に販売するために使用することによって、キャッシュフローを間接的に生み出すことを伴う場合の例として、棚卸資産が挙げられています。

 

棚卸資産は通常、企業の他の経済的資源を広範囲に(例えば、生産及び販売活動に)使用しないと、顧客に販売できないと考えられますが、保有している暗号資産が果たして一般的な意味での棚卸資産の要件を満たすかについては議論の余地があると思われます。

 

4.無形資産として会計処理する場合の諸問題

 

IAS 第38号を適用して、暗号資産を無形資産として会計上取り扱うのであれば、暗号資産に物理的な実体がないという1点をもって無形資産の基準を適用することの適否が問題となると思われます。

 

そもそもIFRS に限らず、会計基準において伝統的に無形資産を有形資産と区別している理由は、典型的な有形資産と、典型的な無形資産とでは、会計処理を定めるうえで考慮を要する幾つかの重要な特性上の違いがあるため、その特性に応じて会計処理を考えるのが適切と考えられてきたからです。

 

物理的な実体の有無に起因する資産の特性の違いがあることは間違いありませんが、物理的な実体の有無が会計処理を決めるうえで本質的と考えるべきかといえば、必ずしもそうではないでしょう。

特に、ビットコインのような暗号資産は、流通することを前提とした貨幣的性質を持ちますので、交換価値に裏付けられた市場価格がある資産と言う意味では、一般的な無形資産28とは一線を画していると思われます。

そうした状況下において、本当に無形資産の基準を適用するが正しいのか、その適切性が論点となってきます。