暗号資産のデリバティブ取引に係る経理処理

暗号資産を原資産とし、または暗号資産に関する指標を参照するデリバティブ取引(「暗号資産デリバティブ取引」)については、これまで事例がほとんどなかったこともあって、法整備や会計基準の整備が最近急速になされている状況です。

今回の記事では、暗号資産の一般社団法人日本暗号資産取引業協会が会員向けに発表した『暗号資産取引業における主要な経理処理例示』の中から、特にデリバティブに関する会計処理について解説していきます。

 

1. 利用者の証拠金及び証拠暗号資産の管理

 

① 利用者から証拠金を受け入れたときの仕訳

デリバティブ取引は、担保として必ず事前に証拠金の差し入れが行われます。通常のデリバティブ取引であれば⑴の仕訳だけですが、暗号資産取引業者の場合は顧客から預かった資産を分別管理するため、勘定科目上も自社の現預金勘定と区別するため『顧客分別信託』を用います。

⑴現預金 ✕✕✕ 受 入 保 証 金 ✕✕✕
⑵顧 客 分 別 金 信 託 ✕✕✕ 現 預 金 ✕✕✕

 

② 利用者から証拠金の代用として暗号資産(以下「証拠暗号資産」という。)を受け入れたとき

証拠金の代用として暗号資産を受け入れた場合、受入保証金勘定に代えて受入保証暗号資産勘定を用います。また、預かった暗号資産を自社保有の暗号資産と区別するため利用者暗号資産勘定を用います。

 

利 用 者 暗 号 資 産 ✕✕✕ 受入保証 暗 号 資 産 ✕✕✕

 

③ 利用者からの預り金を証拠金として振り替えたとき

利用者が既に自社に預り金を有しており、デリバティブ取引の証拠金としてそれらを流用した場合は、利用者の預かり保証金の減少と、デリバティブ取引証拠金の増加を同時に認識します。

⑴借方の「利用者からの預り金」は利用者からの預り保証金の減少を、貸方の受入保証金はデリバティブ取引証拠金の増加をそれぞれ示しています。

また、⑵の仕訳の借方「顧客分別金信託」は、暗号資産取引業者が有する現預金のうち顧客のデリバティブ取引に係る信託金を意味しており、貸方の「利用者区分管理信託」は、暗号資産取引業者が義務付けられた顧客の金銭等の分別管理の結果区分された顧客に属する金銭等であり、(暗号資産取引業者が形式上有しているものの実態としては顧客の財産である金銭であるため)貸方でこの現象を認識します。

 

⑴利 用 者 か ら の 預 り 金 ✕✕✕ 受 入 保 証 金 ✕✕✕
⑵顧 客 分 別 金 信 託 ✕✕✕ 利用者区分管理信託 ✕✕✕

 

④ 利用者からの預り暗号資産を証拠暗号資産として振り替えたとき

貸方に計上されていた「利用者からの預かり暗号資産」勘定を減少させ、デリバティブ取引の預り金を表す「受入保証暗号資産」勘定を計上します。

これらは、顧客への返済義務なので負債に計上され、そのため増加は貸方、減少は借方となります。

利用者からの預り暗号資産 ✕✕✕ 受入保証 暗 号 資 産 ✕✕✕

 

2. 取引契約日の処理

デリバティブ取引においては、建玉・想定元本に係る経理処理は行いません。

デリバティブ取引は差金決済によって損益が確定するため、約定日においては差益も差損も当然ながら発生しないためです。

これは暗号資産を原資産とするデリバティブ取引においても同様です。

 

3.デリバティブ取引に係る決済差金の処理

① 利用者との取引の場合

デリバティブ取引において発生した決済差額の分だけ、受入保証金が増減します。

 

【決済差益が出た場合】

⑴当社に決済利益が発生する場合は、顧客には決済差損が発生しているので顧客の受入保証金が減少します。

これは当社にとっては預り資産の減少を意味するので、負債としての受入保証金を減少させます。

⑵また、利益相当額だけ顧客の現預金が当社に移転します。

 

⑴受 入 保 証 金 ✕✕✕ 暗号資産 売 買 等 損 益 ✕✕✕
⑵現預金 ✕✕✕ 顧 客 分 別 金 信 託 ✕✕✕

 

【決済差損が出た場合】

⑴当社に決済差損が発生する場合、顧客には決済差益が発生しているので顧客の受入保証金が増加します。

これは当社にとっては預り資産の増加を意味するので、負債としての受入保証金を減少させます。

⑵また、損失相当額だけ当社の現預金が顧客に移転します。

⑴暗号資産 売 買 等 損 益 ✕✕✕ 受 入 保 証 金 ✕✕✕
⑵顧 客 分 別 金 信 託 ✕✕✕ 現 預 金 ✕✕✕

 

②他の暗号資産取引業者等との取引の場合

他の暗号資産取引業者との取引を行った場合、当社は単に顧客の立場となるので通常のデリバティブ取引と同様の仕訳を行います。

 

【決済差益が出た場合】

決済差益が出た場合は、差入保証金が増額されるので決済差益とともにこれを認識します。

 

差 入 保 証 金 ✕✕✕ 暗号資産 売 買 等 損 益 ✕✕✕

 

【決済差損が出た場合】

決済差損が出た場合は、差入保証金が減少するので決済差損とともにこれを認識します。

 

暗号資産 売 買 等 損 益 ✕✕✕ 差 入 保 証 金 ✕✕✕

 

③ 利用者同士の取引に係る処理
「顧客分別金信託」と「受入保証金」間での経理処理は発生しません。

顧客同士の取引では、暗号資産取引業者としての当社の受入保証金に対する影響はないからです。
なお、委託手数料を利用者から預かっている金銭から収受する場合は、顧客分別金信託から委託手数料分を現預金に振り替えることになります。

 

現預金 ✕✕✕ 顧 客 分 別 金 信 託 ✕✕✕
受 入 保 証 金 ✕✕✕ 委 託 手 数 料 ✕✕✕

 

4.毎月末及び期末の処理

毎月末及び期末における未決済建玉について、みなし決済損益を算定し、次の通り経理処理を行います。
なお、当該みなし決済損益については、翌月初及び翌期首に振り戻しを行います。

 

⑴ みなし決済利益の場合

売買目的有価証券の時価評価と同様に考えて仕訳を行ってください。

なお、デリバティブ取引勘定は、翌月、翌期首の振り戻しにより直ちに消去されます。

 

デ リ バ テ ィ ブ 取 引 ✕✕✕ 暗号資産 売 買 等 損 益 ✕✕✕

 

⑵ みなし決済損失の場合

決済損失が出た場合も同様です。

 

暗号資産 売 買 等 損 益 ✕✕✕ デ リ バ テ ィ ブ 取 引 ✕✕✕