暗号資産で寄附を行った場合の処理

企業は、社会貢献の一環として寄附活動行うことがあります。今回の記事では、暗号資産を慈善団体等に寄附した場合に、邦貨で振り込んだ場合と比べて会計上及び税務上、どのように取り扱いが異なるか見ていきたいと思います。

暗号資産での寄附は決済手数料がほとんどかからないため、昨今ではあえて暗号資産建てで寄附を行う動きもあるようです。原則的には、邦貨での寄附と大きな違いはありませんが、暗号資産特有の論点もあるので注意が必要です。

1.会計上の取り扱い

企業が国や地方公共団体、公益法人、政治団体、神社仏閣など事業に直接関係のない団体等へ支払った費用については、税務上の寄附金として処理します。

会計上は、寄附金は販売費及び一般管理費の1項目に過ぎないので特別な論点はありませんが、暗号資産で送金した場合には、送金時の円交換レートで会計処理をしなければならない点には注意が必要です。

暗号資産は、寄附に向いていると言われますが、その理由は、1つ目に手数料が少ない点です。

世界中どこにでも送金金額にかかわらず一定の手数料で送金することができます。

また、2つ目として、ブロックチェーン技術を取り入れているため、取引記録が全部残っており、透明性が高く不正が起こりにくい仕組みとなっている点が挙げられます。

2.法人税の取り扱い

国や地方公共団体への寄附金と指定寄附金はその全額が損金になりますが、それ以外の寄附金は一定の限度額までに限り損金算入されることになります。寄附した相手先ごとの取り扱いは次の通りです(法法37、法令73)。

⑴一般の寄附金の損金算入限度額

損金算入限度額=(資本金等の額× 12分の当期の月数1000分の2.5+所得金額× 100分の2.5) × 4分の1

※所得金額は、支出した寄附金の額を損金に算入しないものとして計算します。

⑵国や地方公共団体に対する寄附金及び指定寄附金

指定寄附金とは、公益社団法人、広域財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人または団体に対する寄附金で、一般に広く募集され、かつ公益性および緊急性が高いものとして、財務大臣が指定したものをいいます。

国や地方公共団体に対する寄附金及び指定寄附金はその支払った全額が損金算入されます。

⑶特定公益増進法人に対する寄附金

特定公益増進法人とは、公益法人のうち、教育または科学の進歩、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものと認められた特定公益増進法人に対する寄附金で、その法人の主たる目的である業務に関連するものです。

特定公益増進法人に対する寄附金は、次のいずれか少ない金額が損金に算入されます。

①特定公益増進法人に対する寄附金の合計

②特別損金算入限度額

(資本金等の額× 12分の当期の月数×1000分の3.75+所得金額の100分の6.25)×2分の1

※特定公益増進法人に対する寄附金のうち損金に算入されなかった金額は、1の一般の寄附金の額に含めることになります。

⑷特定公益信託の信託財産とするために支出した金銭

特定公益信託の信託財産とするために支出した金銭は寄附金とみなされ、そのうち一定の要件を満たすもの(認定特定公益信託)は、⑶の寄附金に含めて損金算入額を計算します。

⑸認定NPO法人等に対する寄附金

認定NPO法人等に対する寄附金(指定寄附金に該当するもの除く)は、⑶の寄附金に含めて損金算入額を計算します。

なお、2016年より企業版ふるさと納税制度が創設され、地域再生法における認定地方公共団体が行った「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」に関連する寄附金(特定寄附金)を支出した場合には、一定の金額の税額控除を受けることができます。

3.消費税の取り扱い

消費税法における消費税の課税対象は原則として、以下の4つの要件について全てを満たすものとされています。

①国内における取引であること
②事業者が事業として行うものであること
③対価を得て行われるものであること

④資産の譲渡及び貸付並びに役務の提供であること

寄附金は、対価を得て行われる取引ではありませんので、課税仕入に該当せず、消費税に関する課税関係は生じません。ただし、名目が寄附金であった場合でも実態が対価性のある取引の場合には、消費税を認識することになります。

なお、今回のように暗号資産で送金する取引は、一度購入した暗号資産を売却して円貨に交換し、交換した円貨を送金する取引と同様と考えられるため、円換算した総額が非課税売上となります。
ただし、暗号資産の非課税売上は、課税売上割合を計算する上では、支払手段となり分母に含まれないため、総額で非課税売上を認識することによる課税上の影響はありません。