暗号資産の個別注記表への記載について

今回は、企業が保有する暗号資産に係る決算書の個別注記表への記載についてまとめてみます。

 

例えば、ある企業が余剰資産の運用目的で暗号資産を保有している場合、決算書を作成するにあたって現行の会計基準においては個別注記表への特別な記載は必要となるのでしょうか?

 

1.個別注記表とは

個別注記表とは、会社法で定められた決算書類1つで、他の決算書類(貸借対照表、損益計算表、株主資本等変動計算書)を作成するにあたって採用した会計処理の方法その他詳細な情報を個別に記載することによって、計算書類の利用者の理解を補助するものとなります。

 

重要な会計方針に関する注記、貸借対照表に関する注記、損益計算書に関する注記等、今まで各計算書類に記載されていた注記が一覧化されていて、商法から会社法へと変わったタイミングで必要とされるようになりました。

 

また、会社形態により必要とされる注記が異なります。

ある程度の開示体制が整っていると思われる会計監査人設置会社では、会社計算規則で定める全ての注記項目について記載が義務付けされています。

 

一方で、会計監査人非設置会社については、公開会社と非公開会社の別によって開示が義務付けされている注記項目が次のページの表のとおり異なります。

 

会計監査人非設置会社について、公開会社・非公開会社の区分別に、〇は記載を義務付けられている項目、×が記載を義務付けられてない項目になります。

 

下図のように、小規模企業が多く、また利害関係者が相対的に少ない非公開会社については、事務負担軽減等の観点から要求される注記が相対的に少なくなっています。

 

注記項目 非公開会社 公開会社
(1) 継続企業の前提に関する注記 × ×
(2) 重要な会計方針に係る事項に関する注記
(3) 会計方針の変更に関する注記
(4) 表示方法の変更に関する注記
(5) 会計上の見積りの変更に関する注記 × ×
(6) 誤謬の訂正に関する注記 ○ ※ ○ ※
(7) 貸借対照表に関する注記 ×
(8) 損益計算書に関する注記 ×
(9) 株主資本等変動計算書に関する注記
(10) 税効果会計に関する注記 ×
(11) リースにより使用する固定資産に関する注記 ×
(12) 金融商品に関する注記 ×
(13) 賃貸等不動産に関する注記 ×
(14) 持分法損益等に関する注記 × ×
(15) 関連当事者との取引に関する注記 ×
(16) 一株当たり情報に関する注記 ×
(17) 重要な後発事象に関する注記 ×
(18) 連結配当規制適用会社に関する注記 × ×
(19) その他の注記

※ 企業会計基準24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」に基づく会計処理を行う場合に注記が必要になります。

 

2.具体的な開示方法

暗号資産会計基準では、企業が期末日に保有する暗号資産及び暗号資産交換業者が預託者から預かっている暗号資産について、次の事項を注記することとされています。

 

①暗号資産交換業者または暗号資産利用業者が期末日において保有する暗号資産の貸借対照表価額の合計額

 

②暗号資産交換業者が預託者から預かっている暗号資産の貸借対照表価額の合計額

 

③暗号資産交換業者または暗号資産利用業者が明末日において保有する暗号資産について、活発な市場が存在する暗号資産と活発な市場が存在しない暗号資産の別に、暗号資産の種類ごとの保有数量及び貸借対照表価額、ただし、貸借対照表価額が僅少な暗号資産については、貸借対照表価額を集約して記載することができる。

 

活発な市場が存在する暗号資産と活発な市場が存在しない暗号資産の別に、暗号資産の種類ごとの保有数量及び貸借対照表価額を開示する必要があるということですが、一方で、ごく少額の暗号資産を保有しているだけの会社についても暗号資産取引を主たる事業として行っている会社と同等の開示を要求することは合理性を欠く側面があると思われます。

 

そこで、重要性の観点から

 

・暗号資産交換業者の期末日において保有する暗号資産の貸借対照表価額の合計額及び預託者から預かっている暗号資産の借対照表価額の合計額を合算した額が資産総額に比して重要でない場合

 

・暗号資産利用者の期末日において保有する暗号資産の貸借対照表価額の合計額が資産総額に比して重要でない場合

 

には注記を省略できることとされています。(暗号資産会計基準17項)

 

暗号資産について、注記事項が規定された背景として、暗号資産会計基準63項には次の2つの理由が上げられています。

 

① 暗号資産が外国通貨や金融資産と比較して価格変動リスクが大きく、取引や流通の基礎となる仕組みに内在する消失・価値減少リスクなどが存在し、またこれらのリスクは暗号資産の種類ごとに異なると考えられるため

 

② 同一種類の暗号資産であっても複数の暗号資産取引所、または暗号資産販売所で異なる取引価額等が形成される可能性があるため、暗号資産交換業者及び暗号資産利用者が用いた期末評価の暗号資産の種類ごとの開示は、財務諸表利用者にとって有益な情報となるため

 

なお、暗号資産会計基準では、暗号資産交換業者が預託者から預かっている暗号資産については、種類別開示まで求められていません。

 

これは預託者から預かっている暗号資産については暗号資産資産交換業者が価格変動リスクを負っておらず、暗号資産交換業者の株主に対して種類別開示をすることは投資判断に寄与するほどの有益性がないと考えられるため、開示事務コスト等の観点からあえてそのように規定されていると考えられます。

 

暗号資産に関する注記は、他の注記項目とは独立した1項目として区分されているため、会計監査設置会社、非設置会社の別もしくは公開会社、非会社の別にかかわらず全て法人に記載が義務付けられます。

 

しかし、ここにおいても重要性の原則から、残高が総資産額に比して重要でない場合は注記を省略できることになっています。