印紙税と暗号資産

不動産取引など、特に高額な契約を行った際には印紙税の課税対象であるか否かという問題があります。今回は、暗号資産と印紙税の関係についてまとめてみました。

 

1.印紙税とその趣旨

印紙税は、印紙税法に定められた一連の文書に対して課税される税金です。印紙税の課税対象となる文書は、印紙税法別表第一課税物件表(「課税物件表」)に定められています。(第1号の不動産等の譲渡に関する契約書等~第20号の判取帳まで20の号)

 

これらの文書は、経済取引又は権利の授受その他の行為(「経済取引等」)が行われた際に、その事実を証するために作成される文書で、それら文書の背後に相当の経済的利益が存在し、かつ軽度の補完的課税を行うだけの担税力(税金を負担する能力)があると認められるため印紙税が課されるという建付けになっています。

この印紙税の課税根拠として言われているのは、課税文書自体が各種の経済取引の表現であり、いわば担税力の間接的表現ということです。

 

税制調査会答申によれば、「契約書や領収書などの文書が作成される場合、その背後には、取引に伴って生じる何らかの経済的利益があるものと考えられます。また、経済取引について文書を作成するということは、取引の当事者間において取引事実が明確となり法律関係が安定化されるという面もあります。印紙税は、このような点に着目し、文書の作成行為の背後に担税力を見出して課税している税ということができます。」とあります。

 

すなわち印紙税の課税根拠は、課税対象となる文書作成行為の背後に担税力の認められる経済取引等が存在し、その潜在的な所得に対し課税しているというものになります。特に高額となり得る不動産取引などが印紙税の対象となっている理由は、この担税力に応じた課税ということと強く関係しており、また、担税力のある者がより負担すべきという能力説の立場とも整合的です。

 

一方で、「法律関係の安定化」という点を突き詰めると、国家が行う契約、文書等の保護という基礎的な公共サービスを享受した者が租税の負担をするという意味で、利益説(サービス受益者が租税負担をすべきという立場)と整合的です。

 

2.印紙税の補完的機能

印紙税課税が必要性として、税体系において印紙税が果たしている補完税としての機能面での役割があります。

現代においては、タックスヘイブンをはじめとする課税回避技術の向上や国境をまたぐ取引の増加により、所得課税、消費課税、資産課税が必ずしも十分に機能していないと言われています。

それに対し、機能性の高い課税方式として、印紙税のような流通税という形式を補充的具備しておくことが、最低限の公共サービスを提供するのに十分な税収を確保するのに役立つというものです。

 

たとえば、ある金融取引がキャッシュ・フローを変更することによってうまく所得課税を免れても、また、それが何らの付加価値が創出されないため消費課税が不可能であっても、更には、金融資産について時価評価が困難なため資産課税がうまく機能しなくても、契約の存在自体に対して印紙税を課税することで一定の効果が上げられます。

 

また、不動産取引においても、土地が非課税のため消費課税ができなくても、また、土地・建物等不動産の正確な評価が困難であることに基因して資産課税が困難であっても、契約に課税することによって一定の効果は上げられます。

上で述べたように印紙税は、経済取引等に伴って作成される文書を課税対象としていることから、一般的に流通税に分類されています。しかし、その課税の対象は、経済取引そのものではなく取引の過程で作成される文書ですから、保管税としては一定の限界もあります。

 

したがって、たとえ巨額の経済取引等が行われても文書が作成されなければ課税されることはなく、逆に一つの経済取引等であっても、課税対象となる文書が数通作成されると、その数通のすべてについて課税されることになってしまうという欠点もあります。

 

3.暗号資産払いの領収書に印紙は必要か

続いて、暗号資産と印紙税についてまとめてみます。

 

暗号資産決済を導入した飲食店などで、顧客が暗号資産で支払った際に領収書の発行を求められる場合が今後出てくると想定されます。この場合、円表示の領収書を発行すればよいのか、現金払いと同様のルールで印紙は必要なのかについて考えていきたいと思います。

 

4.印紙の基本

まず、領収書を発行した場合の印紙の基本として、売上代金として金銭や有価証券を受け取った場合に発行する領収書には、原則として印紙の貼付が必要です。

しかし、次の場合は印紙の貼付は必要ないので注意が必要です。

 

【印紙の貼付が必要ない場合】

①記載金額が5万円未満の場合(領収書の中で消費税額が区分されている場合は、税抜金額で判定。)

 

②慈善や学術などの営業以外が目的の行為に係る領収書(医療法人や医師等の医療関係の業務上、弁護士、税理士等の士業が発行する領収書なども、営業に関しない領収書として取り扱われ、印紙の貼付は必要ありません。)

 

③クレジットカード払いの際の領収書(領収書にクレジット払いであることを明示することにより印紙は不要となります。)

 

なお、銀行振込の場合や即時決済型のデビットカードによる支払いの場合は、金銭の受領に該当するため、印紙が必要になります。

 

5.暗号資産払いの領収書

暗号資産は、現在の日本の法律では、支払手段と定義され、金銭でも有価証券でもありません。

そのため、暗号資産での支払いを受けた際の領収書は、金銭や有価証券を受け取った場合に発行する領収書には該当せず、現行の印紙税法によれば、印紙の貼付は不要になります。

なお、実務上の取扱いとして、クレジットカードでの支払いの場合と同様に、暗号資産での支払いであることを領収書に記載しておくことが必要になると思われます。

 

結論として、暗号資産による支払いであることを領収書に記載すれば、記載金額にかかわらず印紙の貼付は必要ありません。