暗号資産売却時の損益通算の可否について
個人が暗号資産を売買した場合に、損失が出てしまうことがあると思います。この損失は給与所得と相殺することはできるのでしょうか?
仮に暗号資産の売買による所得が、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合は損益通算ができますが、これが雑所得に該当するすれば、雑所得における損失は他の所得との損益通算が認められず、給与所得や不動産所得との損失の相殺はできないことになります。
今回は、上記の疑問に答えるため個人が暗号資産を売買した場合の税務処理について解説していきたいと思います。
1.損益通算とは
損益通算とは、各種所得金額の計算上生じた損失のうち一定のものについてのみ、一定の順序にしたがって、総所得金額、退職所得金額または山林所得金額等を計算する際に他の各種所得の金額から控除する税務上の措置をいいます。
損益通算とは、各種所得金額の計算上生じた損失のうち一定のものについてのみ、一定の順序にしたがって、総所得金額、退職所得金額または山林所得金額等を計算する際に他の各種所得の金額から控除する税務上の措置をいいます。
所得税法において、所得は利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得10種類に分類されますが、このうち、所得の計算において損失が生じた場合に他の所得と損益通算ができる所得は、所得税法第69条第1項において、不動産所得、事業所得、山林所得及び譲渡所得4つに限られています。
損益通算ができると、(通常は給与所得などで一定の所得があるのが普通ですから)暗号資産の売却によって損失が発生しても、所得と相殺することによって課税所得を減じることができ、結果、納税額を減らして節税することが可能になります。
暗号資産はボラティリティが大きく、一時的に含み損がでることもよくあるため、この損益通算ができるかは納税者にとって大きな関心事となってきました。
2.所得税の取扱い
暗号資産の売買が10種類の所得のうち、どの所得に該当するかですが、国税庁が公表している情報によれば、結論としては原則として雑所得に該当することとなります。
暗号資産をを使用することによる損益は、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として、雑所得に区分されることとしています。
よくある事例として、給与所得者が副業として暗号資産への投資を行っている場合には、当然ながら所得の区分において事業所得等には該当せず、原則的な雑所得に該当することになると思われます。
すなわち、原則として損益通算はできず、暗号資産の売買によって生じた損失は、暗号資産の売買によって得た利益その他の雑所得による収益としか相殺できないことになります。
換言すれば、どれほど暗号資産で損失を被ったとしても、不動産所得や給与所得の課税所得に応じて所得税を負担する必要があるということになります。
一方で、事業所得者が、事業用資産として暗号資産を保有し、決済手段として使用している場合、その使用により生じた損益については、事業に付随して生じた所得と考えられますので、その所得区分は事業所得となります。
また別の例外として、その収入によって生計を立てていることが客観的に明らかであるなど、その暗号資産取引が事業として行われていると認められる場合にも、その所得区分は事業所得となります。
繰り返しになりますが、所得税法においては第69条第1項において、10種類の所得のうち、損失が発生した場合に、他の所得と相殺(損益通算)ができる所得を限定しています。
【所得税法第69条第1項】
総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する。
したがって、雑所得は所得税法第69条第1項に定める損益通算が可能とされる所得に該当しないことから、他の所得との相殺、つまり損益通算ができないこととなります。雑所得となる暗号資産の売買による損失と給与所得との損益通算はできません。
ただし、同一所得内での損益の相殺は可能となりますので、別の暗号資産による雑所得(売買による利益)や年金等の雑所得がある場合には、暗号資産の売買による損失と相殺(いわゆる内部通算)が可能となります。
もう一つの注意点として、仮に所得税法第69条第1項に定める損益通算が可能な所得の計算上、生じた損失と、暗号資産の売買により得られた利益(雑所得)との損益通算を行うことは可能です。(不動産所得の損失と暗号資産の利益を相殺することは可能という意味です。)
3.消費税の取扱い
消費税法において、消費税の課税対象とは原則として、以下の4つの要件について全てを満たすものとされています。
- 国内における取引であること
- 事業者が事業として行うものであること
- 対価を得て行われるものであること
- 資産の譲渡及び貸付ならびに役務の提供であること
給与所得者が副収入を得る目的で暗号資産の売買をしているだけであれば、事業者が事業として行うものではないため、消費税の課税対象とはなりません。