暗号資産に対する情報照会等の規定整備について

2019年3月に国税通則法の一部が改正され、適正公平な課税を実現するため、従来から事業者の協力を得て実施されていた任意の情報提供依頼に係る権限を法令上明確化するとともに、新たな情報照会のための手続が整備されました。

この改正には暗号資産も含まれ、暗号資産交換業者には新たな義務も発生するようになりました。

今回は、この国税通則法の一部改正について、暗号資産交換業者に与えた影響など総合的に解説をしていきたいと思います。

1.改正内容の概観

2019年度税制改正において国税通則法が改正され、2020年1月から、税務調査の対象となり得る個人を特定できていない場合でも、情報を有するとみられる法人等に情報提供の協力を要請できることが法令上明確化され、一定の場合は情報の報告を拒否した際に罰則を適用する規定が新たに設けられました。

この改正は、主に暗号資産交換業者等への情報照会を想定したものでした。

暗号資産交換業者を想定した情報照会制度に関する法律ができ、暗号資産に関する税務関係の調査体制が強化されることになりましたが、国内の暗号資産交換業者を通じて暗号資産の取引を継続的に行っている会社はどのような影響を受けるでしょうか?

次の章から見てきたいと思います。

2.税制改正の内容

この賞での詳細な説明に入る前に、前提条件となる二つの用語について説明をしていきたいと思います。

⑴特定取引

特定取引とは、電子情報処理組織を使用して行われる取引その他の取引のうちこの規定による処分によらなければこれらの取引を行う者を特定することが困難である取引をいいます。

⑵特定取引者

特定取引者とは、特定取引を行う者をいいます。後述する①に該当する場合には、1,000万円の課税標準を生じ得る取引金額を超える特定取引を行う者に限られます。

前述した令和元年度税制改正によって、国税通則法第7章の2(国税の調査)に第74条の7の2(特定事業者等への報告の求め)が新設されました。

これにより、所轄国税局長は特定取引の相手先となり、また、取引の場を提供する事業者(特別の法律により設立された法人を含む)または官公署(以下「特定事業者等」という)に、次のいずれかに該当する場合に限り、特定取引者の氏名または名称、住所または居所及び個人番号または法人番号につき、特定取引者の範囲を定め、60日を超えない範囲内においてその準備に通常要する日数を勘案して定める日までに、報告することを求めることができることとされました。

① 特定取引者が行う特定取引と同種の取引を行う者に対する国税に関する過去の調査において、当該取引に係る課税標準が1,000万円を超える者のうち半数を超える数の者について、当該取引に係る課税標準等または税額等につき更正決定等をすべきと認められている場合

②特定取引者がその行う特定取引に係る物品または役務を用いることにより課税標準等または税額等について国税に関する法律の規定に違反する事実を生じさせることが推測される場合

③特定取引者が行う特定取引の態様が経済的必要性の観点から通常の場合にはとられない不合理なものであることから、当該特定取引者が当該特定取引に係る課税標準等または税額等について国税に関する法律の規定に違反する事実を生じさせることが推測される場合

所轄国税局長は、この処分をしようとする場合には、あらかじめ国税庁長官の承認を受けなければならないこと、特定事業者等に対し報告を求める事項等を書面で通知することにより行うこと、特定事業者等の事務負担に配慮しなければならないことが規定されました。

また、事業者が、この所轄国税局長の求めに対して、正当な理由がなく応じなかった場合、または偽りの報告をした場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処することとされました。

2.改正の背景

今まで法令では、税務調査において、対象者となる個人が特定されている場合は、金融機関等へ口座情報等の照会が可能でした。

しかし、申告漏れ等が想定される個人が特定できていない場合は、税法上の根拠となる法令がなく、任意の協力を要請するに留まっていました。この2019年の改正では、金融機関のみならず暗号資産交換者など広く民間企業も含めて情報提供の協力要請対象となることが明確化されました。

具体的には、上記の特定取引者(暗号資産事業者、動画サイト事業者、アフィリエイト等の広告事業者、金地金の取引事業者などを想定)が行う特定取引について、情報提供を求めることができることなり、また、特定取引者が応じない場合の罰則規定も設けられ、一定の強制力を持って情報照会が可能となったことにより、調査手続に大きな影響が与えられることになりました。

なお、あくまで特定事業者等への報告の求めは、「事業者等への協力要請」を行ったにもかかわらず、事業者等が要請に応じない場合に、必要な資料情報を適切に収集するために行使することとされており、また、特定事業者等への報告の求めを行使する際も、事前に特定事業者等が保有している情報及びその管理方法の十分な確認を行い、特定事業者等への事務負担にも配慮することとされています。