決算早期化を実現するための最重要ポイント
決算月にできることをやっておく
決算短信、四半期報告書、有価証券報告書は上場企業が決算報告のために作成しなければならない資料であり、前期との比較形式になっています。宝印刷やプロネクサスなど、上場企業でよく使われている開示支援サービスを使用すればある程度は自動的に繰越作業が実施されます。なお、手で繰越作業をしなければならない部分もあります。繰越作業は前年等の数字が確定しているため、決算残高が確定していない決算月にも実施することができます。
また、毎四半期ごとに作成している決算資料のほとんどはExcelで作成されていることが多く、これらについても、前年や前四半期の数字を入れる箇所があるはずですので、こちらも決算月に入力しておくと良いです。
更に、決算日前であっても決算日時点の残高が確定している科目については、決算月に決算資料を完成させておきます。会社によって科目は異なりますが、例えば退職給付引当金や賞与引当金は決算日前でも残高を確定できる場合が多いと思われます。
税金税効果計算や注記に必要な情報収集の仕組みを作る
税金計算を行うに際して課税所得を算定するために、会計仕訳からは読み取ることができない有税処理すべきものの抽出を行う必要があります。有税処理とは企業会計上は費用として処理するが、税務上は損金と認められないため、税務申告上損金の加算項目として処理するものを指します。
例えば役員報酬は、会計上は毎月いくら計上しても問題ありませんが、税務上は毎月同額になる部分しか費用にならず、同額部分を超える部分は加算しなければなりません(税務の用語で「定期同額給与」と言います。)。このようなものを永久差異といい、どんなことがあっても税務上損金になることはありません。
一方で、決算日時点では税務上の費用にならないが、翌年度等には費用になるものがあります。例えば賞与引当金は、計上時点では税務上の費用にはなりませんが、翌期になって実際に賞与を支払い、賞与引当金を取り崩した時点で税務上の費用になります。このようなものを一時差異と言います。上場企業ではこの一時差異に対応した繰延税金資産を計上しなければなりません。また、この繰延税金資産の金額は当該一時差異がどのタイミングでどれだけ取り崩される予定になっているか(スケジューリング)ということと関係がありますので、会計仕訳からではわからないスケジューリング資料が必要となります。
このような税金税効果計算に必要な情報は、社内の至るところに散らばっています。また、有価証券報告書等で開示する注記情報についても同様です。例えば退職給付債務や年金資産については、細かい事項の注記が要求されていますが、これらを作成するための多くの情報は人事部門にあるケースが多いです。
そのため決算早期化を実現するためには、税効果税金計算や注記作成に必要な情報が正確かつ迅速に経理部門に集まる仕組みを作ることが重要です。そのために経理部門は、各部門が必要な情報を正確かつ迅速に入力できるようなフォーマットを作成し、決算作業に待ちが生じないタイミングで回答がもらえるようにあらかじめ依頼しておくことが大切です。
なるべく早く取締役会議事録や稟議書に目を通して対応する
取締役会議事録や稟議書はこれから発生する会計事象の情報源となります。そのためなるべく早くこれらの書類に目を通すことを意識すると良いです。
もし、決算監査中に取締役会や稟議書に書いてある事項について、監査法人から会計処理の修正を求められた場合、決算早期化は難しくなります。
しかし、難解な会計事象の発生に早く気が付くことができれば社内で検討する時間がとれ、決算前に監査法人に相談して処理方法を決めることができるため、決算早期化の懸念事項を減らすことができます。
役割分担の明確化とスケジュール管理の徹底
決算早期化を成功させるためには、役割分担の明確化とスケジュール管理が重要となります。まずは決算短信の開示日の日程が決まりますので、そこから逆算して決算メンバーの誰が何をいつまでにするのかを細かく決めて決算スケジュール表を作成します。なお、役割分担を決める際には個々人の作業が重複したり、分担のすみ分けが曖昧で誰もやらない部分が出ないようにすることが大切です。前期以前にも行っている作業については、前期の決算ファイルを更新するなどして効率的に作業を進めます。また日々決算メンバーの進捗状況を確認し、進捗状況に応じてお互いにフォローするように指示していくことも大切です。
また、決算監査中に監査法人から突発的に資料の提出を求められることがあります。その際には資料の提出を求められた決算メンバーは当該資料の準備に集中しがちになりますので、資料の提出を求められた時点でそのことを決算メンバー全員で共有し、進捗状況に余裕のある人が資料の準備をした方が決算早期化に繋がります。