暗号資産と引当金の関係

監査上、税務上争点になりやすい会計上の見積りの論点の一つに『引当金』があります。

引当金については、実務上も頻出するトピックであるにもかかわらず、必ずしも正確に理解されているとは言い難い状況です。

また、暗号資産と引当金の関係性についても明確に言及されていることはあまり多くありません。

今回は、暗号資産と引当金の関係について考えてみたいと思います。

1.引当金とは何か

会計上の引当金とは現実には未だ財貨や役務の費消が確定しておらず、支払いまたは支払い義務の確定がなされていなくても適正な期間損益計算の見地から費用または損失を見越計上する場合に借方に計上される費用または損失に見合って貸方計上される項目をいいます。

この引当金に対応する借方項目は、費用の原因が発生した期にその費用を計上すべきとある『発生主義』に反してしまいますが、当期の収益(成果)に対応した費用(犠牲)のみを計上する『費用収益対応の原則』の観点から、負債または資産のマイナスに対応した費用(例:貸倒引当金繰入額)を計上させるというのが理論的な建付けとなります。

次に引当金の設定要件について見ていきたいと思います。

引当金を設定は企業会計規則注18に定められています。

『将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。
 製品保証引当金、売上割戻引当金、返品調整引当金、賞与引当金、工事補償引当金、退職給与引当金、修繕引当金、特別修繕引当金、債務保証損失引当金、損害補償損失引当金、貸倒引当金等がこれに該当する。
 発生の可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については、引当金を計上することはできない。』(企業会計規則注18)

以上を要約すると、

①将来の特定の費用又は損失である
②その発生が当期以前の事象に起因する
③発生の可能性が高い
④その金額を合理的に見積ることができる

という四つの要件に集約されます。

 

これを満たした場合には、(重要性が乏しい場合を除き)当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、引当金の設定をしなければなりません。

 

2.引当金の種類

貸借対照表上の負債の部に計上される負債性引当金、資産の部に計上される評価性引当金があります。

評価性引当金とは金銭債権の貸倒に伴い発生するかもしれない将来の収入減少に関して設定されるもので、誰かに対してお金を渡すなどの義務はなく負債には属さないため、貸借対照表上には資産から控除する形で表示するのが原則です。

負債性引当金は債務性引当金と非債務性引当金に分けることができます。
大きな違いは現在の債務か否かの違いです。債務性引当金は、今現在すでに法的債務となっているものです。非債務性引当金は、将来法的債務に転じる可能性はあるけれども、今はまだ法的債務ではないものです。

 

【債務性引当金(既に法的義務あり)】

・売上割戻引当金
得意先などが一定期間内に一定の売上を達成した場合に売上割戻(リベート)を与える契約をしているとき、将来行われるであろう割戻しに対して設定される。

 

・返品調整引当金
当期に販売した商品について、次期以降に販売価格によって引き取る契約を取引先としている場合、将来返品が予想される商品の利益部分に対して設定される。

 

・賞与引当金
当期に雇用していた従業員に支払われる賞与に対して設定される。

 

・製品保証引当金
当期に販売した商品について一定期間内であれば無償でアフタサービスをする契約をした場合、サービスにかかる費用に対して設定される。

 

・工事補償引当金
建設業において当期に完成物件の引き渡しをし、その後一定期間内は無償でアフタサービスをする契約をした場合、サービスにかかる費用に対して設定される。

 

・退職給付引当金
当期に雇用していた従業員に対して退職給付規定などによって支払われる退職金に対して設定される。

 

【非債務引当金(=これから義務が発生する可能性がある)】

・修繕引当金
当期に使用していた設備等につき、毎年行われるはずの修繕が何らかの理由で行われなかった時に、将来、修繕が行われるときのために設定される。

 

・特別修繕引当金
当期使用していた船舶などを数年ごとにされる修繕費に対して設定される。

 

・債務保証損失引当金
債務保証した他社の財政が悪化し、支払いができない可能性が高いとき、他社に代わって弁済することで生じる求償権の貸倒額を見積もって設定される。

 

・損害補償損失引当金
販売、営業活動を原因として損害賠償を請求を受けているとき、補償義務が確定したならば支払わなければならない補償金にかかる損失対して設定される。

 

債務性引当金と非債務性引当金の具体例をみても、既に法的に支払い義務が発生しているか、これから発生する可能性があるのかで分かれていることが理解できると思います。

また、修繕引当金と特別修繕引当金も既に支払い義務が発生している債務性のようにみえますがその修繕の対象となるものが廃棄になったりした場合は不要になるため、債務性がないとされ、非債務性引当金に分類されています。

3.暗号資産と引当金の関係

ここまで見てきた様々な引当金が、暗号資産に対して設定されることがあるのか考えみます。

 

結論から言えば、例外的なケースを除き、暗号資産に引当金が設定されることはないと考えられます。

 

それは、引当金の四要件の

③発生の可能性が高い

④その金額を合理的に見積ることができる

 

という2点に抵触するため引当金の金額を見積ることができないからです。

 

仮に暗号資産に引当金を設定するなら、貸倒引当金のようなものになると考えられますが、将来キャッシュフローが約定され固定されている金銭債権と異なり、暗号資産は時価の変動があるため将来キャッシュフローが確定しません。

 

暗号資産のように時価の変動があり、将来キャッシュフローが固定化されない資産の評価減は将来的に見積もることができず、資産価値の下落を反映するための最良の方法は適時に時価評価を行い、その資産価値を貸借対照表に反映させることという結論になります。