暗号資産監査における財務諸表項目レベルの重要な虚偽表示リスクについて

今回は、暗号資産監査における重要な虚偽表示リスクのうち、特に財務諸表項目レベルの重要な虚偽表示リスクについて考察したいと思います。

 

財務諸表項目レベルの重要な虚偽表示リスクは、勘定科目やアサーションに即した重要な虚偽表示リスクの評価になるため、全体レベルの重要な虚偽表示リスクと比較し、より具体的かつ実務的な話が多くなると思います。

 

まずは、理解の前提としての財務諸表項目レベルの重要な虚偽表示リスクについての解説を行い、続いて暗号資産監査における財務諸表項目レベルの重要な虚偽表示リスクの解説、例示をしていきたいと思います。

 

1.虚偽表示の識別

 

財務諸表項目レベルでの潜在的な虚偽表示の識別は、次のようになされます。

 

①まずは、監査人が理解した企業とその環境(内部統制を含む。)について入手した財務諸表項目に関連する情報、知見、知識を基礎に固有リスク要因を識別します。

 

②次に、異常事項、懸念事項および収益認識などに係る不正リスク要因や、継続企業の前提に関連する事象・状況またはその兆候を識別します。

 

③続いて、財務諸表項目に関連するアサーションに係る固有リスクおよびコントロール・リスクの発生可能性を評価してそれらのリスクの程度を決定します。

なおその場合は、ノンルーチン処理に関するリスクおよび異常な取引、複雑な取引の発生可能性も評価します。

 

④最後に、経営者不正および経営者によるコントロールの無視のリスク(risks of management override of controls)の発生可能性も評価します。

 

①~④にわたって行われるリスクの識別は、監査人のリスクへの感応度と言い換えることができます。

監査手続はルーティンワークも多いですが、このリスク評価における監査人の判断は、監査人の能力・経験に依存する部分が多く、公認会計士の職業的専門性が問われる部分でもあります。

 

一方で、監査人がリスクの識別・評価を的確に行っていないときには監査を失敗する可能性が高まるとも言えます。

 

したがって、ヒアリングや業界慣行の調査、対象会社の内部統制の理解などを進め、より精緻で的確なリスク評価を監査人は行う必要があります。

 

2.財務諸表項目レベル(アサーションレベル)の重要な虚偽表示リスク

 

監査人は、財務諸表項目に関連するアサーションを特定・設定し、前述の識別した種々の虚偽表示のリスク要因または不正リスク要因による虚偽表示の発生可能性(リスク)と関連付けて対応させていきます。

 

リスク要因とアサーションの関連付けは、財務諸表項目に関連するアサーションごとにどんな虚偽表示(粉飾決算、資産の流用または誤謬)がどこ(どの部署・事業所・子会社)で、いつ(年度中か年度末か)、どのように発現するか(過大計上あるいは過小計上によるか)の仮説を立てていくことを意味します。

言い換えると、虚偽表示がどのように起こり得るかについてのシミュレーションを行うということです。

財務諸表項目レベルでの虚偽表示のリスクの発生可能性に関する評価は、虚偽表示の態様の検討に基づいて識別した潜在的な虚偽表示の発生可能性の程度を財務諸表項目に関連するアサーションごとに、クライアントの環境・状況・事情・実情を勘案して、実務慣行上は「高い」、「中程度」または「低い」と3段階で判定します。

これらのプロセスを経た上で最終段階として、識別した個々の潜在的な虚偽表示の大きさ(影響の度合い)を評価します。慎重な監査人ほど虚偽表示が小さくとも重要であると判断しますが、監査人が下した職業的専門家としての判断の水準は、監査人ごとで理論上は大きく違わないと考えられます。

 

一方、財務諸表項目レベルでの重要な虚偽表示のリスクの識別・評価は、監査人の判断によって決定することですから、チェックリスト等に基づいた画一的、機械的・形式的な作業で決定されるものではあってはなりません。

クライアントの実情、状況に基づいた具体的な検討と判断の結果として行われます。

 

こうした財務諸表項目の重要な虚偽表示のリスクの評価を行った結果、コントロール・テストの対象となる取引・業務処理を決定することができ、財務諸表全体レベルでの重要な虚偽表示のリスクの評価に影響する情報も入手できます。

 

3.暗号資産監査における財務諸表項目(アサーション)レベルの重要な虚偽表示リスクの例示

続いて、財務諸表項目レベルの重要な虚偽表示リスクは、暗号資産監査においてどのように識別されるか見ていきたいと思います。

 

⑴収益の発生についての財務諸表項目レベルの重要な虚偽表示リスク

第一に、ブロックチェーン等の記録からは、取引の相手方を特定する情報を取得できないため、自己の計算に属すべきものであるにもかかわらず、帳簿上自己のものとして処理していないアドレスを使用した事故との取引を第三者との取引に偽装し、収益を過大に計上するリスクがあります。

 

第二に、分別管理が適切に行われていない場合に、預かった暗号資産を自己資産と認識することにより、収益を過大に計上するリスクがあります。

 

どちらの場合も、収益の発生というアサーションに影響があります。

 

⑵暗号資産の実在性についてのアサーションレベルの重要な虚偽表示リスク

外部者からのハッキング等により暗号資産に関する情報が流出し、暗号資産が盗用されるリスクがあります。

また、内部者が単独又は共謀して、暗号資産を横領するリスクがあります。

さらに、暗号鍵を紛失した場合、移転できない暗号資産が生じることになり、暗号資産が消失することと同様の結果となるため、保有する暗号資産の実在性のアサーションに影響があります。

 

⑶暗号資産の評価の妥当性についてのアサーションレベルの重要な虚偽表示リスク

第一に、ブロックチェーンの分岐により保有する暗号資産が異なる種類の暗号資産に分裂するハードフォークと呼ばれる事象の発生等により、当初は想定しなかった価値の変動が発生する可能性があります。

 

第二に、暗号資産交換業者が暗号資産を保有する場合、価格変動リスクや流動性リスクを負うことになります。

複数の取引所で取り扱われている暗号資産は、各取引所における取引ボリュームの違い等から一時点における価格水準(買呼値、売呼値、最終取引価格)に相当の開きがみられることがあります。

そのため、期末時点の時価として採用すべき単価を意図的に操作されている可能性があり、暗号資産の評価に影響がある可能性があります。

 

第三に、自己の運営する暗号資産取引所又は暗号資産販売所の取引価格等を用いる場合、流動性の低い暗号資産の評価に影響が出る可能性があります。

 

どのケースにおいても、暗号資産の評価の妥当性のアサーションに影響があります。