暗号資産交換業者が行う業務内容の理解
暗号資産交換業者の監査を行う上で、企業及び企業環境の理解が非常に重要ですが、特に肝となるのが事業内容の理解です。
企業及び企業環境の理解をした上で行う企業のリスク評価は、リスクアプローチを前提とする現代の監査において非常に重要になります。
当然暗号資産についても事業内容の理解は必須となりますが、通常の財務諸表監査と比較し暗号資産の業務プロセスには特殊な点が多くあります。
したがって今回は、監査の前提となる暗号資産交換業者が行う業務内容について概観してみたいと思います。
1.暗号資産の売買、他の暗号資産との交換
利用者に対して暗号資産の売値、買値を提示し、自らが取引相手となって法定通貨または他の暗号資産と交換を行う場合に加え、取引所における利用者の買い注文、売り注文を受け付け、国内外の暗号資産交換業者との間で暗号資産の相対取引を行う場合も含みます。
このとき利用者に提示される価格は、取引システムの自動プログラムによって自動計算されており、利用者が決定された価格に合意することで取引が成立する仕組みとなっています。
自己取引の結果、暗号資産交換業者には、暗号資産売買損益、及び期末に保有する暗号資産について暗号資産評価損益が生じ得る可能性があります。
また、他の暗号資産交換業者との間で暗号資産の相対取引を行う場合に、相手方の債務不履行によって決済が行われない可能性がある点に留意が必要です。
2.暗号資産の売買、他の暗号資産との交換に係る行為の媒介
利用者にプラットフォームを提供し、売買の注文を集中させることにより、利用者の間での売買を成立させるような行為がこれに該当します。
暗号資産交換業者は、通常、利用者間の暗号資産売買取引を仲介するため、あらかじめ利用者から金銭または暗号資産を預かることになります。
暗号資産を預かる場合には、あらかじめ指定した受取専用アドレスで受け取ります。暗号資産交換業者は、利用者から金銭又は暗号資産を受け入れた段階で、自社の取引システムの利用者口座残高にそれらを反映させます。
利用者は、自身の口座残高の範囲内で、信用取引を除いた成行や指値による売買を行う事ができます。
暗号資産交換業者は、数量と価格がマッチした注文について約定を行い、利用者の資金口座及び暗号資産口座の各残高を振り替えることで取引の結果を利用者口座に反映させます。
また、こうした取引には媒介手数料が発生する場合がありますが、それらの媒介手数料は利用者の口座残高から差し引かれます。
なお、利用者間の約定処理には通常、ブロックチェーン等のネットワーク上の記録にこれらの取引事実を反映させることはありません。
暗号資産交換業者は、上記のような利用者の取引に関して、利用者の口座残高からの引き出しに応じる義務があります。したがって、預り資産の流出等が起こると、これらの義務の債務不履行となる可能性があるため細心の注意を払って管理を行う必要があります。
3.取次ぎ及び代理
自社のシステムにおいて、取次先である外部取引所の注文情報を表示させて、利用者から受けた注文をその外部取引所の取引システムに反映させることで約定させる行為をいいます。
取引所が外国通貨建てのみで暗号資産を取引している場合で、かつ利用者から本邦通貨により金銭を預かる場合には、暗号資産交換業者は、日本円をいったん外国通貨に換算することで、外国通貨建ての利用者残高を認識することになります。
そのため、本邦通貨を外国通貨に換算するレートについて、その決定方法等をあらかじめ事前に約款等で明示し、利用者の合意を取り付けておく必要があります。
このように考えると、取次を行う暗号資産交換業者の事業は、自社のみならず、取次先となる取引所のシステムのセキュリティ、内部統制等にも影響を受けることになります。
暗号資産交換業者の中には、他の暗号資産交換業者といわゆるOEM契約を結び、取引システムやオペレーションをパッケージとして借り受けて、独自の名前で暗号資産取引所を運営しているケースもあります。
こうしたケースにおいては、OEM契約において受託先から提供を受ける業務の範囲(分別管理を含めます)、保管する利用者情報等の重要事項などについて、両者間で責任関係を明確にしておく必要があります。
4.利用者の暗号資産の管理
利用者の暗号資産を預かるために、利用者ごとの暗号資産の受取専用アドレスを設定し、当該アドレスに紐づくを暗号鍵等の管理がこれに該当します。
暗号鍵等に関して厳重な管理体制を構築することは、暗号資産交換業者にとって重要な経営課題であるため、暗号鍵は外部者はもちろんのこと内部者でも簡単にアクセスできないよう、盗用防止のための厳格なアクセス制限がかけられているのが普通です。
暗号資産交換業者は、利用者からの暗号資産の引き出しに迅速に応えるため、いわゆるホットウォレットによる暗号資産の保有、すなわち暗号鍵をインターネット等の外部のネットワークに接続されているコンピューターにて管理することもあります。
こうした場合でも、外部からのハッキングによる暗号資産盗用の被害を拡大させないため、ホットウォレットの割合を制限しているケースがほとんどです。
多くの暗号資産に関する暗号鍵はオフライン環境で管理されています。(これはコールドウォレットといいます。)
そして、コールドウォレットとホットウォレットの割合を一定に保つために、暗号資産の移動を行っています。
もちろん、こうしたコールドウォレット、ホットウォレットの別にかかわらず、分別管理が義務付けられます。