暗号資産で賞与が支払われた場合の処理

暗号資産は、法定通貨と同様に財の購入に使うことができますから、当然賞与などを暗号資産で支払うことはあり得ることです。

今回のコラムでは、賞与支給を暗号資産で行った場合の処理について解説していきたいと思います。

1.賞与支給を暗号資産とした場合

会社の賞与支給形態選択制とし、暗号資産による支払も選択できるとした場合、どのような処理が考えられるでしょうか?(なお、会社は現物給与に係る労働協約を締結しているものとします。)

所得税法においては、特定の支払いについて源泉徴収制度が採用されています。

この源泉徴収制度とは、給与や賞与等の源泉徴収の対象となる所得の支払者が、その支払いの際に所得の金額に応じた所定の方法により所得税額を計算し、その所得の支払額から計算された源泉所得税額を控除した上で、支払者が控除した源泉所得税を国へ納付する制度をいいます。

この場合は、会社が貴方へ賞与を支給する際に賞与金額に応じた源泉所得税額を控除し、国へ納付することになります。その際、源泉所得税額の計算は、賞与金額を円貨換算した金額に基づき計算されます。

そのため、賞与として支給される通貨が日本円ではなく暗号資産である暗号資産であったとしても、雇用契約によって決められた賞与金額が日本円の単位であれば、従前の日本円で支給されていた際と源泉所得税額は変わらないため税務的に異なる点はありません。(支給が暗号資産であるだけで、実際には円貨で賞与が支給されていると変わらない結果になるため)

しかし、雇用契約によって決められた賞与金額が暗号資産の単位であれば、支給時における暗号資産の円貨換算レートが変動することから、円貨換算後の賞与額は異なることとなります。

例えば、貸与金額が1BTC と決められていた場合に、暗号資産の交換レートが1BTC =900,000円であれば、900,000円が賞与金額となります。これに対して、暗号資産の交換レートが1BTC =1,000,000円であれば、1,000,000円が貸与金額となります。

このように、所得税額の計算において対象となる円貨換算の賞与金額が変動することから、控除される源泉所得税額も変動することになり、税務的に異なる結果が生じます。

さらに、暗号資産の単位で賞与金額が決められている場合、暗号資産交換レートの変動によっては、年間の給与所得にも大きな影響を与えることになります。

そのため、年間給与所得金額が大きく変動する可能性があり、年間給与所得金額が円貨換算で一定の金額を超える場合には、今まで受けられていた配偶者控除や配偶者特別控除、住宅借入金等特別控除等の所得金額に制限がある各種控除等が受けられなくなる可能性も出てきます。

なお、賞与支給時に控除される源泉所得税額は、暗号資産を円貨換算した金額によって計算されます。

これは現金以外のいわゆる現物給与については、その経済的利益により評価する必要がありますが、暗号資産の場合には支給時の価額で評価されるためです。

【まとめと結論】

会社との雇用契約において、最終的に受給する賞与金額が円貨換算である場合には税務的に異なる点はありませんが、暗号資産換算である場合には取扱いが異なります。

2.源泉徴収が行われる理由

源泉徴収は、税収を安定的かつ確実に確保する上で組み立てられた徴収方法の一つといわれています。

我が国の源泉徴収制度は、戦費調達等の目的から導入され、昭和15年において拡大されたものだそうです。

戦時体制が終わっても、この仕組みは廃止されることなく一貫して継続されてきました。

この源泉徴収制度が一貫して続いてきたのには、国税庁、納税者の双方にメリットがあるためです。以下、その理由について解説していきたいと思います。

【国税庁側のメリット】
まず国税庁側の観点からみると、下記のようなメリットがあると考えられます。

①サラリーマンの給与所得の申告漏れを防止できる。

②納税者一人一人から申告をしてもらうより、給与計算などの実務を行って所得の把握が確実にできる会社側に納税義務を負わせるほうが徴税手続の簡素化と徴税コストの削減に繋がる。

③通常、源泉所得税の支払いは毎月であることから、国税収入の時期を平準化することができる。

【納税者側のメリット】
次に、納税者側のメリットを見ていきましょう。納税者側のメリットは、下記のようなものとなります。

【納税者側のメリット】

①源泉徴収が行われている給与所得者の多くは、年末調整によって所得税の申告・納付の手続が不要になる。


②報酬等の支払を受ける者の場合には、確定申告時の納付税額が少額となりまたは還付になるため、一時に多額の納付税額が生じない。

③納税者側が十分な知識を持ち合わせているとは限らず、もし全ての納税者に確定申告を強制すると、知識不足等から意図しない脱税による懲罰を課される事例が頻発することが予想される。


換言すると、源泉徴収制度は税金の支払い漏れ・徴収漏れを防止するためのしくみなのです。