不正送信被害による補償金の取扱い
前回のコラムでも少し取り上げた暗号資産の不正送金が行われた時の補償金の取扱いについて、改めて解説をしていきたいと思います。
1.解説のサマリー
今回は既出の論点でもありますので、まずは論点全体のおさらいをしていきます。
暗号資産の保有者が、暗号資産を預けていた暗号資産交換業者が不正送信被害を受けたことにより、私が預けていた暗号資産について返還をしてもらえなくなったケースについて考えてみます。
このとき暗号産交換業者から日本円で補償金の支払いを受けたとして、この補償金は税務上どのように取り扱われるのでしょうか?
なお、この補償金の金額は、返還できなくなった暗号資産の保有数量に返還できなくなった時点での円貨交換レートを乗じた金額となっているものとします。
結論から述べますとこのケースでは、暗号資産交換業者との契約内容や支払いを受けた補償金の内容等を基に総合的に判断することになります。
基本的には、支払いを受けた補償金は、返還できなくなった暗号資産に代えて支払われる金銭であり、その補償金と同額で暗号資産を売却したことにより金銭を得たのと同一の結果となることから、所得税法において非課税となる損害賠償金には該当せず、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として雑所得として課税されることとなります。
ただし、補償金の計算における1単位当たりの暗号資産の価額が当初の取得原価よりも低額である場合には、雑所得の金額の計算上、損失が生じることになります。
1.所得税の取扱いについての解説
所得税法において、心身に加えられた損害について支払いを受ける慰謝料等や心身または資産に加えられた損害につき支払いを受ける相当の見舞金等については非課税とされています。しかし、損害賠償金の名目で支払いを受ける金銭であっても、本来所得となるべきものまたは得られるべき利益を喪失した場合にこれが賠償されるときは、非課税にならないものとされています。
今回の場合には、返還されなくなった暗号資産の保有数量に返還できなくなった時点での交換レートを乗じて補償金の額が決定されていることから、暗号資産を売却したことと同様の結果となり、本来所得となるべきものを賠償されたことになるため、非課税とはならず、雑所得として課税の対象となります。
国税庁のタックスアンサー(No.1525) においても、以下のとおり回答がされています。
【問】
仮想通貨を預けていた仮想通貨交換業者が不正送信被害に遭い、預かった仮想通貨を返還することができなくなったとして、日本円による補償金の支払を受けました。
この補償金の額は、預けていた仮想通貨の保有数量に対して、返還できなくなった時点での価額等を基に算出した1単位当たりの仮想通貨の価額を乗じた金額となっています。
この補償金は、損害賠償金として非課税所得に該当しますか。
【答】
一般的に、損害賠償金として支払われる金銭であっても、本来所得となるべきもの又は得べかりし利益を喪失した場合にこれが賠償されるときは、非課税にならないものとされています。
ご質問の課税関係については、顧客と仮想通貨交換業者の契約内容やその補償金の性質などを総合勘案して判断することになりますが、一般的に、顧客から預かった仮想通貨を返還できない場合に支払われる補償金は、返還できなくなった仮想通貨に代えて支払われる金銭であり、その補償金と同額で仮想通貨を売却したことにより金銭を得たのと同一の結果となることから、本来所得となるべきもの又は得られたであろう利益を喪失した部分が含まれているものと考えられます。
したがって、ご質問の補償金は、非課税となる損害賠償金には該当せず、雑所得として課税の対象となります。
なお、補償金の計算の基礎となった1単位当たりの仮想通貨の価額がもともとの取得単価よりも低額である場合には、雑所得の金額の計算上、損失が生じることになりますので、その場合には、その損失を他の雑所得の金額と通算することができます。
なお、補償金の全額が所得として課税の対象となるわけではなく、補償金の金額が暗号資産の取得原価を上回った場合のその上回った金額が雑所得として課税の対象となります。逆に、補償金の金額が暗号資産の取得原価を下回った場合には、取得原価から補償金の額を差し引いた残額が損失となり、他の雑所得と相殺することが可能となります。
また、返還できなくなった暗号資産に対する補償金とは別に、返還できなくなったことによる慰謝料や見舞金等が支払われた場合には、その内容に応じて、慰謝料や見舞金等として非課税となることも考えられます。
2.消費税の取扱いについて
返還できなくなった暗号資産に対する補償金は、返還できなくなった暗号資産に代えて支払われる金銭であり、その補償金と同額で暗号資産を売却したことにより金銭を得たものとされていることから、消費税においては、暗号資産の売却として非課税取引になるものと思われます。
なお、慰謝料や見舞金等を受け取った場合には、資産の譲渡等には該当しないため、消費税の課税対象とはなりません。