株式上場と監査法人の役割

監査法人の役割

「会計監査」と様々な指導・助言

会社が株式上場を目指す際には、上場審査基準で求められる「会計監査」を受ける必要があります。また監査対象の財務諸表を作成する際には最新の会計基準の適用と会計処理の適正化が必要となりますので、監査法人は会計監査の実施だけでなく財務諸表作成に対する指導・助言も行います。その他に、株式上場後に適用される内部統制報告制度(J-SOX)にも対応した社内管理体制の整備が必要になりますので、それについての指導・助言の実施も行います。
ただし、監査法人自身が財務諸表の作成業務を行うことや、社内管理体制の構築に対する意思決定をすることは、指導・助言の範囲を超えるため行うことはできません。これは第三者から見て、会社と監査法人との間の馴れ合い関係を疑われるおそれがあるためです。そのため、監査法人の指導・助言を十分受けたうえで、会社自身が財務書類を作成し、社内管理体制を構築しなければなりません。

上場審査基準としての「会計監査」

① 金融商品取引法監査に準ずる監査

会社が株式上場を目指す際には、証券取引所の規則により金融商品取引法第193条の2第1項の規定に準ずる監査を受ける必要があります。貸借対照表の資本金の額が5億円以上または負債の合計額が200億円以上の会社は、未上場の場合でも「会社法監査」を受けますが、株式上場に際して必要とされるのは、「会社法監査」とは異なる「金融商品取引法監査」に準ずる監査です。
「金融商品取引法監査」に準ずる監査の対象となる財務諸表等は、投資家等に有用な情報を提供することが目的であり、連結財務諸表規則及び財務諸表等規則に従って作成することが求められるため、会社法に従って作成される連結計算書類及び計算書類等よりも詳細な記載が必要となります。
各証券取引所では、財務諸表の信頼性向上を目的とし、新規上場申請を行う会社に対して上場会社監査事務所による監査を義務付けています。上場会社監査事務所とは、日本公認会計士協会の上場会社監査事務所登録制度に基づき、上場会社監査事務所名簿に登録されている監査事務所のことをいいます。

 

② 適切な会計処理に関する指導・助言

金融商品取引法監査に準ずる監査の対象となる財務諸表等を作成するためには、金融商品会計、キャッシュ・フロー計算書の作成、退職給付会計、固定資産の減損会計等の会計基準の適用、子会社等を有する会社における連結財務諸表の作成等についての知識、表示・開示についての知識等、幅広い知識が必要です。また、新会計基準や基準の改訂にも適時に対応しなければなりません。金融商品取引法監査に準ずる監査において適正意見が表明されるためには、売上、仕入、費用の計上基準、棚卸資産の評価方法等の会計方針とそれに基づく会計処理が、企業会計の基準に従っており、会社の実態に照らして適切なものでなくてはなりません。そのため、企業会計の基準の観点から不適切な会計処理があれば、是正する必要があります。このような会計処理についての問題点とその是正の方向も、監査法人によるショート・レビューを受けることによって確認できます。

 

③ 内部統制の確立に関する指導・助言

会社における内部統制の存在は財務諸表監査の前提となるため、内部統制の整備・運用に関する指導・助言業務は監査法人より提供されます。内部統制整備の基礎となる方針等の意思決定や、内部統制の有効性に関する判断を監査法人が代行することはできませんが、内部統制を整備する上で基礎となる考え方の助言や、計画された内部統制の仕組みの不備についての改善指導を監査法人が行うことは可能です。

 

会計監査実施前の様々な指導・助言

① 資本政策の立案・実行に必要な基礎知識等の提供

会社は株式上場に向けて資金調達・株主利益の適正な実現・株主構成の適正化を図る必要があります。その際には経営者の考え方や会社の現状、その時々の金融情勢等を認識し考慮した上で具体的かつ実行可能な資本政策の立案をします。
資本政策については、会社が立案し、会社の責任と判断で最終的に決定した上で実行する必要があります。
会社が資本政策の計画を立案し、実行する際には、資本政策の立案・実行について具体的な事例・実務経験に基づく豊富な知識と経験を有する専門スタッフが在籍している監査法人から必要に応じて指導・助言を受けることが可能です。
また、セミナー・勉強会という形で監査法人から資本政策の立案・実行に関して必要となる一般的な知識等の提供を受けることも可能です。

 

② 関係会社等の整備に必要な基礎知識等の提供

関係会社が赤字会社であったり、親会社やオーナーの取引の隠れ蓑になっていると、上場審査上問題となります。このような場合には、取引の解消、清算、合併等による適切な対応が必要となります。この論点についてはこちらも参照ください。
監査法人では、会社が関係会社等の整備に関する経営判断を行う際に役立つよう、必要に応じて指導・アドバイスも行っています。

 

③ 社内管理体制の構築に関する指導・助言

社内管理体制の内容は、複雑多岐にわたります。そのため、社内管理体制の構築には時間を要します。
監査法人では、さまざまな業種における数多くの企業の法定監査業務や株式上場支援業務に関する具体的な事例・実務経験を通じて豊富なノウハウが蓄積されており、社内管理体制の構築に関しても助言・アドバイスを行っています。

 

④ 経営管理のための情報システムの構築に関する指導・助言

株式上場するにあたって、業種・業態を問わずに、迅速な月次決算、予算統制及び適切な経営管理資料の作成をしなければなりません。これらは、コンピュータシステムを利用しなければ対応できないことが多いものです。また、業種・業態によっては、棚卸資産の受払記録(または継続記録)の作成や原価計算の実施が必要です。これらの対応には、コンピュータの利用やシステム化が不可欠です。
監査法人では具体的な事例・実務経験に基づく適切な情報システムの構築に関する豊富なノウハウも蓄積されており、会社が情報システムの構築(設計・導入)や改善に関する経営判断、構築・改善を行い、プロジェクトをマネジメントする際に役立つよう、必要に応じて指導・アドバイスを行っています。

上場申請に必要な書類の作成に関する指導・助言

監査法人は上場申請に必要な書類、特に「上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部、Ⅱの部)」や「JASDAQ 上場申請レポート」等の作成についても指導・アドバイスを行います。監査法人が上場申請に必要な書類を直接作成することはできませんので、監査法人の指導・アドバイスを受けたうえで、会社自身で上場申請に必要な書類を作成する必要があります。