暗号資産交換業者の行うべき業務内容について

暗号資産交換業者の業務は多岐にわたりますが、会計処理を考えるうえでも、監査を行う上でも、暗号資産交換業者の業務内容の理解は非常に重要です。

 

ここから何回か分けて、暗号資産交換業者が行うべき業務内容として、何があるかについて改めて解説したいと思います。

 

今回はまず、暗号資産交換業者の行うべき業務のうち、分別管理についての留意点を列挙します。

 

なお、分別管理とは、投資家から預かった資産と、暗号資産交換業者が保有する自社の資産を分けて管理することです。

 

分別管理が行われることで、暗号資産交換業者が破綻した場合でも投資家の資産は投資家に返還されるため非常に重要です。

 

暗号資産交換業者は分別管理義務が法律上義務付けられています。

1.利用者区分管理量について

暗号資産交換業者は分別管理が求められますが、その際には、個別利用者区分管理量及び利用者区分管理必要量を毎日計算し、記録する必要があります。

 

ここで、個別利用者区分管理量とは、暗号資産の売買等に基づく、利用者からの預託を暗号資産交換業者が受けた暗号資産のうち、暗号資産を利用者ごとに算定した数量のことを言います。

 

また、利用者区分管理必要量とは、個別利用者区分管理量の合計をいいます。

 

利用か者区分管理必要量が不足する事態を防止する必要があることから、これらの規定が設けられていると考えられます。

 

2.分別管理の方法の留意点

分別管理の方法として、下記のような留意点が挙げられます。

 

⑴暗号資産の売買等に基づき利用者から預託を受けた暗号資産を自己で管理する場合には、自己の暗号資産を管理するウォレットとは別のウォレットで管理しなければなりません。

またこの管理は、利用者ごとの保有量が帳簿によって直ちに判別できるような状態で管理しなければなりません。

 

⑵預り暗号資産を第三者に管理させる場合、その第三者は、顧客資産を管理するウォレットを別に用意して管理しなければなりません。

また、この管理は利用者ごとの保有量が帳簿により直ちに判別できる状態で管理させなければなりません。

 

⑶区分管理ウォレットの残高が利用者区分管理必要量に不足する事態を防止するために必要な量(預り暗号資産保全量)をあらかじめ社内規則で定めなければなりません。

また、この預り暗号資産保全量を利用者の預り暗号資産とともに、区分管理ウォレットの中で管理しなければなりません。

 

⑷区分管理ウォレットで自己の暗号資産を混蔵して管理してはなりません。

ただし、預り暗号資産保全量をあらかじめ社内規則に定めた場合には、預り暗号資産保全量を限度に区分管理ウォレットで自己の暗号資産を混蔵して管理することができます。

 

⑸区分管理ウォレットの中に預り暗号資産保全量を超える自己の暗号資産が混蔵する事態が発生した場合には、発生日から5営業日以内に、当該自体を解消する措置を取らなければなりません。

 

3.利用者区分管理必要量の算定についての留意点

暗号資産交換業者は、利用者区分管理量及び利用者区分管理必要量の計算において、下記のような手続を含めなければならないとされています。

 

⑴利用者から預かった全ての預り暗号資産を利用者区分管理必要量の計算に含めなければなりません。

⑵利用者区分管理必要量の計算を当該暗号資産に対して暗号資産交換業者の定める最小単位で行わなければなりません。(ただし、単位未満の端数は切り上げます。)

 

⑶個別の利用者の預り暗号資産の残高がマイナスとなる場合には、当該利用者に係る個別利用者区分管理量をゼロと計算の上で、利用者区分管理必要量を計算しなければなりません。

 

⑷暗号資産の受入処理の次元以内に受入が確認されたものを、当日の利用者区分管理必要量の計算対象としなければなりません。

 

⑸暗号資産の受入処理の次元以内に受入が確認されたものを、翌営業日の利用者区分管理必要量の計算対象としなければなりません。

 

⑹会計処理ミス等によって異常値が発生した場合に適切に補正しなければなりません。

 

⑺利用者区分管理必要量を算定するための基礎シートを毎営業日ごとに作成して、チェックしなければなりません。

 

⑻利用者区分管理必要量の計算過程を保存しなければなりません。

 

また、暗号資産交換業者は、1か月を超えない期間ごとに、預り暗号資産の残高データと利用者区分管理必要量を、預り暗号資産の残高データと暗号資産管理明細簿記載の利用者ごとの預り暗号資産の残高の合計量をそれぞれ照合して、仮に差異が生じている場合には、分別管理すべき金額が利用者区分管理必要量に含まれていることを確認しなければなりません。

 

4.金銭の信託義務

最後に暗号資産交換業者の金銭信託義務について説明します。

以前の資金決済法の時代から、暗号資産交換業者は、利用者から預かる金銭を自己資金とは別の預貯
金口座または金銭信託で管理することが求められていました。

 

これに対し、2020年に新しい改正資金決済法が施行され、利用者から預かった金銭を信託銀行または信託
会社に対して信託することが義務づけられるようになりました(同法第63条の11第1項)。

これまでも暗号資産交換業者の自主的な判断に基づき預かった金銭を信託する検討が行われることもありましたが、今後は、金銭についても信託を義務付け、利用者保護のいっそう促進が期待されることになります。