暗号資産の仕訳において使用される勘定科目について①
暗号資産に係る取引が増加するとともに、その経理処理をどのように行うべきかについて経理担当者が頭を悩ませるケースが増えていると聞きます。
中でも勘定科目については、過去に例のない取引であることから何を使用すればよいのか迷う方も多いのではないでしょうか。
今回は、一般社団法人日本暗号資産取引業協会の発行する『暗号資産取引業における主要な経理処理例示』に挙げられている各勘定科目について具体的に解説をしていきたいと思います。
なお、暗号資産の経理処理に関する過去の記事は下記となります。
1.会計処理の前提条件について
暗号資産に関する取引は、まだまだ法規制等に関して各国のスタンスも固まっておらず、取引の前提となる私法上の取扱いが現状では明らかではありません。
したがって、実際に経理処理を検討する際には個別の判断が必要となりますし、今後私法上の取扱いが明らかになったり新たな立法が行われたりした際には、今回の記事で記載している勘定科目の内容、名称が変更される可能性があることにご留意ください。
また、勘定科目あくまで例示にすぎず他に適切な勘定科目があれば、監査人とも協議の上で投資者の誤解を招かない範囲で、別の勘定科目を選択することもあり得ることも付記しておきます。
またこれは、暗号資産に関する取引に限りませんが、本稿で紹介する勘定科目及びその説明は、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の勘定科目とその内容及び計上基準を前提とし、貸借対照表及び損益計算書を作成するうえにおいて、大科目により表示を行い、重要性があれば中科目による内訳を表示する等の一般的な会計実務慣行に従うものとします。
2. 貸借対照表科目の内容及び計上基準について
貸借対照表項目のうち、まずは、流動資産の各科目について見ていきたいと思います。
【預託金】
預託金は、利用者区分管理信託、顧客区分管理信託、その他の預託金に分かれます。
それぞれの内容は、下記の通りとなります。
⑴利用者区分管理信託
暗号資産交換業者に関する内閣府令第 26 条第 1 項の規定に基づく預託金です。
暗号資産交換業者が委託者、信託会社等が受託者となって、暗号資産交換業に係る取引の利用者を元本の受益者とします。
次に説明する顧客区分管理信託と異なり、利用者区分信託は暗号資産に関する顧客の金銭等の信託であり、顧客区分管理信託と同様、信託会社等が介在します。
換言すると、利用者の金銭として自己の金銭と区別して管理する信託業務を営む金融機関等への金銭信託ということになります。
⑵顧客区分管理信託
金融商品取引法第 43 条の 3 第 1 項の規定に基づく、国内において信託会社等に信託している顧客区分管理信託額をいいます。
金融商品取引法第 43 条の 3 第 1 項はデリバティブ取引について規定したものであり、デリバティブ取引に付随して顧客から預託を受けた金銭又は有価証券その他の保証金又は有価証券が顧客区分管理信託となります。
⑶その他の預託金
その他の預託金は、日本暗号資産取引業協会等の機関・団体の規則により預託している預託金です。
貸付金や前払費用と同様に、営業に係るものあるいは 1 年以内に確実に回収、精算が見込まれるもの以外は「長期預託金」等の適当な科目に振替え処理することが必要となります。
【預け金】
暗号資産の売買等に伴う他の暗号資産取引業者等への一時的な預け金が該当します。
当然に顧客からの預り資産との分別管理が必要となります。
【自己保有暗号資産】
自己保有暗号資産には、保管暗号資産と預け暗号資産があります。
それぞれの内容については、下記の通りとなります。
⑴保管暗号資産
自己が保有する暗号資産で約定基準により認識したロング・ポジションのうち自社で管理するものが保管暗号資産です。
履行保証暗号資産として分別管理する暗号資産を含み、毎月末及び期末に活発な市場が存在する場合は、時価を付して評価します。(なお、活発な市場の判断基準については、実務対応報告第 38 号「資金決済法における仮想通貨の会計処理に関する当面の取扱い」を参照してください。)
なお履行暗号資産とは、暗号資産交換業者の手元にあり、内閣府令で定める条件に該当する利用者の暗号資産と同種同量の暗号資産のことをいいます。
暗号資産交換業者の持っている暗号資産の中には、利用者が預けた暗号資産が含まれており、そのなかに内閣府令で定める条件に該当する暗号資産があります。
暗号資産交換業者持つ暗号資産のうち、上記の一定条件を満たしている暗号資産と同種・同量の暗号資産が「履行保証暗号資産」となります。
貸金決済法の改正後、暗号資産交換業者は、「履行保証暗号資産」を保有する義務を負うことなりました。
⑵預け暗号資産
自己が保有する暗号資産で約定基準により認識したロング・ポジションのうち他の暗号資産取引業者等に預託しているものをいいます。
これも、保管暗号資産と同様に、履行保証暗号資産として分別管理する暗号資産を含みます。
毎月末及び期末に活発な市場が存在する場合は、時価を付す点についても保管暗号資産と同様です。
どちらも、取得に係る付随費用は取得原価に含め、ウォレット間の移動に伴う、勘定科目の振替えのタイミング(受領及び払出を認識するブロック承認数)については、会計方針等の社内規定で暗号資産の種類毎に明確に規定した上で、当該規定に従って処理することが必要となります。