暗号資産を用いた資金調達について②

暗号資産の登場とその急速な普及は、法定通貨以外の新たな経済圏を誕生させました。

 

暗号資産というと投機対象というイメージも日本では強いかもしれませんが、法定通貨として採用する国家が現れたり、とくに途上国などでは弱い自国通貨よりもむしろ便利な国際送金、決済手段として利用されているようなケースも増えています。

 

また、暗号資産の独特な性質は、既存の法規制や税制、会計処理などが当てはまらず、急ピッチで法整備等が進められています。

 

前回から引き続き、今回は暗号資産を用いた資金調達について解説していきたいと思います。

 

前回は主に、ICOを用いた資金調達について解説し、ホワイトペーパーのみで簡便かつ迅速に資金調達が可能になるというメリットを有する反面、その利便性を悪用し、マネーロンダリングや不公正取引にICOのフレームワークが使われるリスクもあるという内容でした。

 

今回は、こうした議論を踏まえて新たに誕生したSTO(Security Token Offerig)やIEO(Initial Exchange Offering)について解説していきたいと思います。

 

1.STO(Security Token Offerig)とは

前回も解説したように、ICOの隆盛とともにその大きな問題点も明らかになってきました。

 

当初、期待感からICO市場が急騰しましたが、期待感だけが先行し、実際には事業計画通りに進まず途中で頓挫したままのケース、資金調達だけしてそのまま姿を消すものなど詐欺的なスキームが横行しました。

 

さらにはICO に対する投資家保護の規制も追いついていない実情も拍車をかけ、ICO に対する不信感から世界各国でこれを規制する動きが強まりました。

 

その結果、2017年にはじまったICOは、2018年後半にはその実施件数が大きく減ることとなってしました。

 

ICOの問題点の多くは、十分なチェックや監査、審査などがないまま投資家に対してトークン発行ができてしまう点にあります。

 

そこで、ST(セキュリティー・トークン)と呼ばれるブロックチェーン等の電子的技術を使用してデジタル化し発行される法令上の有価証券を発行し、それらに株式などの有価証券同様の発行体としての義務を発行者に課すというアイデアが出てきました。

 

これが、STO(Security Token Offerig)です。

 

ICOなどに利用されていた従来のトークンは金融上の規制を受けることを回避するために、証券に該当しない設計がされていましたが、敢えて証券に該当するトークンを発行することで、法の規制下に入り、資産的価値の裏付けがある信頼性の高い取引を行う事ができるようになりました。

 

2.STOの金商法上の位置づけ

セキュリティトークンは、上述したように、株券や社債券などの有価証券に表示される権利をデジタルなトークンに表示したものです。

 

そして、セキュリティトークンは有価証券に該当するよう発行されるので、STOにおいてこれらを取引きする場合には、日本の証券規制である金融商品取引法(以下、『金商法』)において、開示規制および業規制の2つの観点から規制がかかります。

 

金商法のフレームワークは、①株券や社債券などの伝統的な有価証券(第一項有価証券)に表示される権利についての規制と、②集団投資スキーム持分その他の金商法2条2項各号の規定により有価証券とみなされる権利(第二項有価証券)についての規制によって大きく内容が異なります。

 

第一項有価証券と第二項有価証券を比較すると、一般的な上場株式などを含む第一項有価証券の方が、投資商品としての流動性が高いと思われるため、投資者を保護する必要がより強まります。

 

流動性が低い第二項有価証券は、ファンドや機関投資家などが主体となりますが、流動性が高い第一項有価証券は一般投資家が手にする可能性が高いため、より厳格な規制が設けられています。

 

2020年5月に施行された改正金商法において、トークン表示型の有価証券について次のような整理がなされました。

 

まず、①伝統的な有価証券がトークンに表示されたものについては、改正金商法の施行の前後を問わず、第一項有価証券に関する厳格な開示規制及び業規制が適用されます。

 

したがって、①伝統的な有価証券についてはトークンに表示するか否かによって金商法上の規制が大きく変わることはありません。

 

一方で、②集団投資スキーム持分などの金商法2条2項各号に掲げる権利(信託受益権や匿名組合の出資持分等)は、比較的ゆるやかな開示規制と業規制に服していますが、今回の改正金商法によって、これらの権利のうちトークンに表示されたものについては、流通性が高くなり投資家を保護する必要性が高まるという理由から、原則として「電子記録移転権利」に該当するものとされ、①の伝統的な有価証券と同様に第一項有価証券としての開示規制の対象とされることになりました。

 

具体的には、STOにおいて50名以上の者に対して電子記録移転権利の取得を勧誘すると「募集」に該当し、発行価額の総額が1億円未満である少額免除の場合を除き、発行者は有価証券届出書を提出し、目論見書を作成することが義務付けられるようになりました。