暗号資産を用いた資金調達について①

暗号資産の市場は拡大を続け、日々の取引量も増加傾向にあります。

 

例えば、エルサルバドルでは価値が不安定であった自国通貨コロンを2001年に放棄し、米ドルを法定通貨として採用していたが、2021年にはビットコインを法定通貨として採用することになりました。

 

その結果、現在の法定通貨である米ドルも、そのまま法定通貨の地位を維持されるため、2つの法定通貨が併存する異例の体制となっています。

 

このように暗号資産の影響力は日に日に増していますが、現在では暗号資産を使った様々な資金調達の手法が出てきています。

 

今回のコラムでは、暗号資産に関する様々な資金調達方法について解説していきます。

 

1.ICOを用いた資金調達

暗号資産を用いた資金調達のうち代表的なものがICOを用いた資金調達です。

 

ICO は、イニシャル・コイン・オファリング(Initial Coin offering )の略称で、暗号資産を新規に発行することによる資金調達方法です。

 

あるプロジェクトについて暗号資産の開発目的や方針をインターネット上で公開し、それに賛同する投資家が新たに発行された仮想通貨をビットコインなど既存の暗号資産で購入します。

 

発行元は集めた資金で暗号資産の開発を行うことができ、出資した投資家はプロジェクトが提供するサービスを利用したり、出資した暗号資産の価格上昇により自己資産を増やすことができます。

 

このように非常に画期的な仕組みであったため、ICOは2017年ごろから急速に拡大しました。

 

当時は法規制等が間に合っていなかったこともあって、非上場企業でも金融機関や証券会社を頼らずに、トークンを発行することで、世界中から低コストで多額の資金調達をすることができました。

 

ICOによって発行されたトークンは、一種のバブルとなり、投機の対象となって過大な市場価格の高騰を招きました。

 

さらにはこうしたバブルに乗って詐欺まがいの暗号資産が蔓延するなど、一般投資家にも大きな被害が生じる事態となった結果、米国を中心とした世界各国で ICO に対する規制が行われ、ICO による資金調達にブレーキがかかるようになりました。

 

日本においても、2019年に資金決済法の改正等が行われ、投資家が安心できる環境で取引を行う事ができるようICOに関する法規制が整備されました。

 

2.ICOの特徴と利点

ICOによる資金調達の特徴として、スマートコントラクトの技術の利用が挙げられます。

 

例えば、株式によるIPOの場合、東京証券取引所や証券会社などが間に入って仲介し、最終的に上場株式の売買が行われますが、ICOの場合はこの役割をすべてブロックチェーンに実装されたプログラムが行います。

 

従来の株式市場においては、上場を果たすためには東京証券取引所が規定する財務状況、内部統制等の要件を満たし、証券会社の審査や監査法人による監査を受ける必要がありますが、トークンを利用するICOでは、文字通り誰もがトークンを発行しコントラクトだけで資金を調達することが可能となりました。

 

ICOの利点として、まず、資金調達を行う企業が簡便で迅速な資金調達ができ、調達後も経営の自由を保持できる点が挙げられます。

新規株式公開(IPO)の場合には、内部統制の整備や、証券取引所等の審査対応、監査法人の監査対応等に多大な時間とリソースを割かなければなりません。

 

ベンチャーキャピタルやエンジェルから資金調達をするにしても、これらのプレイヤーから利益がまだ出ないアーリーステージにおいて多額の資金調達を実行するのは難易度が高いです。

 

ICOは、これらの資金調達手段に比べると、形式的な要件や審査が簡易であるため、プロジェクトの立上げに先立つ早期の資金調達がやりやすいと言われています。

また、IPO やベンチャーキャピタルからの資金調達では、出資者が経営に介入し、企業等の自由なプロジェクト運営を制約となってしまうことがあります。

 

先進的な事業を行う場合、経営陣に大きな自由度が必要なケースが多いですが、ICO では、トークン保有者に与える権利を自由に設計することができるため、経営への介入を抑えることができるというメリットがあります。

 

また、企業等の所在地等に縛られず、世界中の投資家を対象に資金調達を行うことができること、企業等の既存株主が保有する株式を希薄化させずに資金調達を行うことができる点も魅力です。

 

利用者にとっても、小口で国境を越えて機動的に投資を行えるICOは相応のメリットがあります。

他方、ICO の主な問題点として、情報開示等の面で利用者保護の仕組みが不十分である点が挙げられます。

 

例えばIPO を行う際には、様式の定められた有価証券報告書や目論見書等の開示書類の提出が求められており、株式の上場後にも有価証券報告書等の開示が義務付けられています。

 

ICOでもプロジェクト内容を記載したホワイトペーパーが発行されますが、書式や内容に関するルールが定められておらず、ICO の具体的な内容や期日等の基本的な情報すら記載されていない場合、公開後に断わりなく内容が修正される場合があり、(現在はかなり改善されましたが)残念ながら2017年当時は詐欺的な案件もかなり存在していました。

 

それ以外にもマネーロンダリングに利用されるリスクが高い点、インサイダー取引や風説の流布といった不公正取引への規制に対して無防備である点なども問題視されています。

 

暗号資産のメリットとして、匿名性が高く、送金額や送金頻度に上限がないこと、それにより国境を越えた取引や資金の引出しが可能であることがありますが、これらの長所が逆に、マネーロンダリングや不公正取引への悪用のリスクを高くしてしまっている面があります。

 

次回も引き続き、暗号資産を利用した資金調達方法について解説していきたいと思います。