暗号資産を用いた資金調達について③
事業者が独自に発行する暗号通貨である「トークン」を投資家に暗号資産により購入させる資金調達方法であるICO(Initial Coin Offering)やSTO(Security Token Offering)について、全2回のコラムでは見てきました。
暗号資産が急速に普及する中で、銀行やベンチャーキャピタルから融資や出資をうけるより自由度が高く、審査なども必要ないICOはスタートアップ企業にとって非常に利便性が高い資金調達方法でした。
一方で、ICOが急速に普及した2017年頃は、資金決済法、金融商品取引法等の法令の規制の及ばない形で行われるものであったため、金融庁や証券所等によるスクリーニングが全く行われていませんでした。
結果、虚偽のホワイトペーパー等を通じて直接一般投資家に対して資金調達を呼び掛けるような詐欺まがいの事例も多発し、大きく問題視されることとなりました。
それに対し、あえてトークンを証券化することで、金商法上の有価証券に該当させ、通常の金商法の開示規制等に適合させたうえで資金調達を行うSTOという手法があることを第2回では解説しました。
今回は、全2回の内容を踏まえた上で、IEO(Initial Exchange Offering)と呼ばれる資金調達手法について解説していきたいと思います。
1.IEOとは
ブロックチェーンプロジェクト自身が資金調達を行うICOに対して、IEOはユーザー側が取引所のプラットフォームを通じて資金調達を行うような、暗号資産交換業者によって管理された資金調達方法です。
ICOの欠点として、詐欺的な行為に対する防御が脆弱である点が大きな問題となっていましたが、IEOでは暗号資産交換業者が介在することで、ICOが潜在的に抱えざる得なかったこうしたリスクを軽減させ、よりユーザーが資金調達イベントに参加しやすくすることを企図しています。
IEOは、暗号資産を新たに発行して一般投資家から資金調達をする点については、ICOと同様です。
一方で、ICOとは異なり、第三者である暗号資産交換業者を介して一般投資家から資金を調達するので、発行に際しては、認定資金決済事業者協会と金融庁による審査が課され、暗号資産の発行者やホワイトペーパーの内容等が審査・スクリーニングされることとなります。
IEOは、厳格な要件により登録を受けた暗号資産交換業者の管理下で行われるため、IEOの発行体の方は、特段の法的な手続等が求められることはありません。
安全性という意味では、金商法の規制を受けるSTOの方が優れていますが、STOはほとんどの場合がトークンの購入に参加できるのが資産、収入などについて一定の要件を満たした適格機関投資家のみとなるので、取引の安全性や信頼性を担保しつつ、STOと比べると高い流動性を担保できる点がIEOの特徴となります。
2.IEOについての資金決済法上の位置づけ
IEOについての法的な位置づけはどうなっているでしょうか?
日本においてもICOによる資金調達について様々なケースが登場したことから、「金融商品取引法」や「資金決済法」などの関連法を含む改正法が 2019 年 6 月に公布され、包括的な法整備がなされることになりました。
この改正で、ICO のうち、発行者が将来的な事業収益等を分配する債務を負っているされるものの販売(投資性を有する ICO)については STOとして「金融商品取引法」が、それ以外の支払・決済手段の販売については概ね「資金決済法」が適用されるものとして整理されています。
取引の信頼性の観点からあえて金商法の適用対象とするSTOと異なり、IEOの多くは「投資性 ICO トークン」には該当しないICOトークンになると思われます。(以下、それについての説明となります。)
「投資性 ICO トークン」には該当しないICOトークンには、アプリケーションなどの製品やサービスを提供することを目的に発行されるトークン(ユーティリティトークンと呼ばれる)、決済手段としての機能を持つトークン(ペイメントトークンと呼ばれる)などがあります。
これらが、資金決済法に定める「暗号資産」に該当するれば、資金決済法の規制をうけることになります。
貸金決済法の規制を受ける場合、上述のトークンは暗号資産交換業の登録を行わなければ、売買や交換等は行うことができません。これは、自己で発行を行う場合も例外ではありません。
しかし、暗号資産交換業の登録はハードルが高いです。
そこで、発行されたトークンをいったん暗号資産交換業の免許を取得した企業が引き受け、その引き受けたトークンを暗号資産交換業者が投資家に対して販売する方法としてIEOが考えられるようになりました。
IEOのフレームワークを使えば、暗号資産交換業者がその ICO の審査を行い、トークンを引き受け、確実に暗号資産交換所に流通させるので、従来の ICO が抱えていたリスクは軽減されます。
まとめると、STOについては金商法の厳格な規制が、IEOについては金商法よりは相対的に簡易な貸金決済法の規制が適用され、十分な法規制が課されていないというICOの欠点を補うものとなるよう、各種の法整備も含め現在では法的な整理がなされているという事になります。