暗号資産がハッキングによる盗難にあった場合
暗号資産はデジタルデータであるためハッキングに弱いと言われています。
具体的には、暗号資産を預けてある取引所や自分のウォレットが、ハッカーからのハッキングの被害に遭って、暗号資産が盗難されてしまうという事件がたびたび起こっています。
暗号資産取引所がハッキング被害に遭うと、取引所を利用しているユーザーの資産がなくなってしまう可能性があります。(実際にそういった事例もありました。)
暗号資産はインターネット上の通貨であるため、オンラインで保管されている場合は誰にでもアクセスが可能ですから、常にこういったリスクをはらんでいます。
特に、暗号資産のようなインターネット上のデジタルデータ常に情報が抜き取られてしまうというリスクを持つため、しっかりとしたリスク対策を講じていないと、ハッカーの標的となってしまうのです。
今回は、ハッキング被害にあってしまい、保有する暗号資産が盗まれてしまった場合に、税務上、何か救済措置はあるかについて解説していきたいと思います。
1.マウントゴックス事件
暗号資産のハッキングの事例として、よく取り上げられるのがマウントゴックス事件を紹介しておきます。
2014年に起こったマウントゴックス事件では、暗号資産交換業者であるマウントゴックス社のサーバーが何者かによってハッキングされ、ビットコインと預かり金が大量流出してしまいました。
失われたビットコインの総額は、ユーザー保有分の約75万BTCと自社保有分の約10万BTCで、当時のレートでは約470億円に相当しました。
また、顧客から預かっていた資金の28億円も犯人に奪われてしまっています。
この事件が打撃となり、マウントゴックス社は莫大な負債を背負うこととなりました。そして、会社更生法の適用を申請し、事実上、マウントゴックス社は経営が破綻してしまったというものです。
「ビットコイン流出」「ビットコインによる経営破綻」などの報道もされることで、ビットコインなどの暗号通貨へのマイナスイメージが社会的に浸透し、投資家たちの撤退を招くことで価格が暴落しました。
2.所得税の取扱い
このようにハッキングなどで暗号資産が流出などして損失を被った場合、税務上の取扱いはどうなるでしょうか?
税務上は、下記の雑損控除がもっとも適切な方法になると思われます。
雑損控除は、納税者本人または納税者と生計を一にする配偶者その他の親族が保有する生活用資産及び業務用資産(以下「生活用資産等」という)について災害、盗難、または横領によって損害を受けたときには、一定の計算方法により計算された金額を雑損控除として納税者の所得金額から差し引くことができる制度です。
生活用資産等が受けた損害の原因については、震災、風水害、落雷等の自然災害や火災、火薬類の爆発等の自己の意思によらない不可抗力によって受けた災害、盗難または横領による損失が雑損控除の対象となります。ただし、詐欺や脅迫による損失は含まれません。
雑損控除の対象となる資産については、日常生活の上で必要な住宅、家具、現金等とされており、生活に通常必要でない資産(書画、骨董、貴金属等で1組または1個の価額が30万円を超えるもの等)及び事業用資産は除かれます。
では、暗号資産が流出によって失われた場合、雑損控除の適用を受けられるのでしょうか?
以下、検討をしていきたいと思います。
まず、損害を受けた原因がしょハッキングによる盗難ということになりますので、雑損控除の適用を受けられる損害の原因である自然災害や不可抗力によって受けた災害、盗難または横領による損失のうち、盗難に該当することになります。
次に、暗号資産が雑損控除の適用を受けることができる資産の対象となるかどうかです。
現在のところ暗号資産は法定通貨には該当せず、暗号資産という位置付けであり、支払手段とみなされています。そのため、雑損控除の対象となる現金等には該当しないのではないかという意見もあるのではないかと思います。
しかしながら、暗号資産は法定通貨ではないものの、支払手段としては認められており、暗号資産とはいえ、法定通貨等へ交換することも可能であることから、広義の現金等に該当すると解することができ、雑損控除の適用を受けることができる資産の対象になるものと思われます。
なお、暗号資産が生活に通常必要でない資産とされた場合には、雑損控除の適用はありません。
雑損控除の金額は、以下の算式により計算された金額のうち、いずれか多い方の金額となります。
- 差引損失額-総所得金額等×10%
- 差引損失額のうち災害関連支出の金額-5万円
また、上記の差引損失額は、以下の算式により計算します。
損害金額+災害等に関連したやむを得ない支出金額-保険金等の補塡金額
損失金額については、ハッキングにより盗難にあった暗号資産を円貨換算した金額となります。円貨換算に用いる暗号資産交換レートは、盗難にあった時の暗号資産交換レートを用いるものと思われます。
(まとめ)
所得税法では、生活用資産等が盗難にあった場合には、一定の計算方法により計算された金額を「雑損控除」として所得金額より差し引くことができます。
暗号資産については暗号資産ではあるものの支払手段であり、法定通貨等との交換も可能であることから、雑損控除の対象となり、一定の計算により所得控除を受けることができると思われます。