暗号資産の分裂が起こった場合の処理について

暗号資産は換言すればデジタルデータですので、その特性を生かして、根幹技術であるブロックチェーンの仕様変更をした際に、「従来の通貨」と「新しい通貨」の2つに分かれることがあります。

これを暗号資産の分裂といいます。

今回は、暗号資産が分裂した際の税務上の論点について解説していきたいと思います。

1.暗号資産の分裂の仕組み

会計処理の解説の前に暗号資産の分裂の仕組みについて解説しておきます。

暗号資産の分裂は、ブロックチェーンの仕様変更の際に起こりますが、そもそもブロックチェーンの仕様変更には、ハードフォークとソフトフォークと呼ばれる2つの種類がある点が重要です。

このうちソフトフォークと呼ばれる仕様変更は、旧仕様と新仕様の間に互換性があるものが該当します。

ソフトフォークのように新仕様が旧仕様のルールを満たす互換性がある仕様変更では、永続的に分岐していくことはなく、より長い方のブロックチェーンに統一され、一時的に分岐はしても永続的に分岐する分裂は起こりません。


一方で、新仕様が旧仕様のルールを満たさない互換性のない仕様変更をハードフォークと呼びます。

暗号資産の分裂は、ハードフォークの一つの帰結として起きるものです。

後述するビットコインの分裂は、ハードフォークが起きた際に『新仕様』と『旧仕様』に対する関係者の支持が分かれることで起こりました。

では次に、ビットコインが分裂した時の状況をケーススタディとして見ていきましょう。

2.ビットコインの分裂

2017年8月に、ビットコインは『ビットコイン』と『ビットコインキャッシュ』に分裂しました。

当時ビットコインにおいては、取引量が増加してきたことが原因による『スケーラビリティ問題』が深刻化していました。

『スケーラビリティ問題』というのは、ブロックサイズ(取引を記録するデータ容量)が上限1MBと決まっているため、ブロックサイズが小さい場合にすぐに容量が一杯になってしまって処理が追いつかなくなり、送金遅延を引き起こしたり、取引手数料の高騰を引き起こしたりするという問題です。

スケーラビリティ問題に対する仕様変更に関し、様々な議論がなされましたが、結局下記のような別々の解決方法を実施するに至り、ビットコインは2つに別れることになりました。

ビットコインは、データサイズの大きい署名部分を別領域に移して実質ブロックサイズを拡大できる『Segwit』を実装する仕様変更を行う。

ビットコインキャッシュは、問題解決のため、ブロックサイズを拡大する仕様変更を行う。

3.所得税の取扱い

例えば、サラリーマンなどの個人が上記のビットコインの分裂により新たに誕生したビットコインキャッシュを取得し、このほど、そのビットコインキャッシュを取引所で売却した場合、税金上はどのような取扱いになるでしょうか?

ビットコインキャッシュを取得した時点で課税はなく、ビットコインキャッシュを取引所等で売却した時点で課税所得(雑所得)が発生し、申告が必要になるのか、以下考えていきたいと思います。


なお、上記については2017年12月1日、国税庁のホームページに個人課税課情報として「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」が公開され、仮想通貨が分裂(分岐)して新たに誕生した仮想通貨を取得した場合の税務上の取扱いが明らかになりましたので、これに基づいて解説をしていきます。

①ビットコインキャッシュの取得時の所得税の課税関係
税務の考え方として、新たに経済的価値があるものを取得した場合には、その取得時点の時価によって所得を認識しますが、ビットコインが分裂して新たにビットコインキャッシュが誕生した時点では、そのビットコインキャッシュには時価がなかったと考えられます。


そのため、ビットコインキャッシュの取得時点では課税関係は生じません。

②ビットコインキャッシュの売却時の所得税の課税関係
分裂によって取得したビットコインキャッシュを暗号資産取引所や暗号資産販売所で売却して利益を得た場合には、その利益は雑所得として課税されます。この雑所得の計算は、収入金額から取得価額と必要経費を控除した金額になります。


また、サラリーマンで、収入が給与のみで年末調整を受けるため確定申告の必要がない場合は、上記雑所得の金額20万円以下であれば申告を要しないことになっています。

暗号資産が分裂して新たな暗号資産が誕生した場合に、分裂前の暗号資産の所有者に配布されるかどうかは、各暗号資産取引所の判断によります。また、その配布の時間もまちまちですから、ビットコインキャッシュのように分裂後すぐに配布される場合と異なり、分裂後ある程度期間が経過して、他の取引所での取引価額がある時点で配布される場合も想定され、その場合でも取得時点で雑所得を認識する必要がないかどうかについては、新たな判断が示される可能性も考えられる点には留意が必要です。

通達等で既存の税務処理と全く異なる内容が発表される可能性もありますので、常に最新の情報を参照し、特に金額が大きい場合には必ず専門家と相談することをおすすめします。

4.消費税の取扱い

次に消費税の取扱いについて見ていきます。

消費税法において、消費税の課税対象とは原則として、以下4つの要件について全てを満たすものとされています。


①国内における取引であること
②事業者が事業として行うものであること
③対価を得て行われるものであること
④資産の譲渡及び貸付ならびに役務の提供であること

今回の場合は、個人が行うビットコインの売買となりますので、事業者が事業として行うものには該当しないことから、消費税の課税対象とはなりません。