暗号資産で生計を立てる個人事業主の課税関係②

今回は、前回のコラムの続きで、暗号資産ので生計を立てる個人事業主の課税関係のうち、評価損の取扱いについて解説をしていました。

少しだけおさらいをすると、所得分類が何であれ、債務確定主義に基づく租税法の原則においては、未実現利益である評価損益は利益(損失)とはならず、したがって期末に評価損益が生じているだけでは課税関係には影響しないというものでした。

前半はこの論点を受けて、特に、個人に適用される所得税法と法人に適用される法人税法の取扱いの対比を中心に解説します。

また、後半は、暗号資産同士を交換した場合の課税関係について解説していきたいと思います。

1.参考となる条文の紹介

まずは所得税法に関する重要条文の紹介をします。

<所得税法第36条第1 項>

(収入金額)

第36条 その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、 その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利症をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額) とする。

<所得税法第37 条第1項>

(必要経費)

第37条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びにざか所得の金額のうち第35条3項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、 これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生すべき業務について生じた費用 (償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。) の額とする。

それぞれ権利確定主義、債務確定主義を原則としています。

2.期末の暗号資産の評価の実務上の留意点について

前回のコラムでも書いた通り移動平均法を採用する場合、有価証券又は暗号資産について選定した評価方法の届出をする場合に提出する届出書を使用します。

従来の評価方法(評価方法の届け出がなかったため、法定の評価方法によるべきこととされた場合を含みむ)を変更する場合には、この届出書ではなく「有価証券(暗号資産)の評価方法の変更承認申請書」により変更の申請をする必要があります。

さらに、上記のそれぞれの届出書は、 有価証券については、事業所得の基因となる有価証券を新たにした日又は従来取得している有価証券と種類が異なる有価証券を取得した日の属する年分の確定申告期限までに提出する必要があります。

暗号資産についても同様で、暗号資産を新たに取得した日(※)又は従来取得している暗号資産と種類が異なる暗号資産を取得した日の属する年分の確定申告期限までに提出しなければなりません。

(※) 平成31年4月1日において既に暗号資産を有している場合は、平成31年4月1日にその暗号資産を取得したものとして、令和元年分ほ確定申告期限(令和2年3月16日)までにこの届出書を提出する必要がありました。

なお、暗号資産の取得には、暗号資産を購入し、若しくは売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合における取得は含まれません。

3.評価方法の選定の際の届出書記載上の留意点について

評価方法の選定は、 有価証券又は仮想通貨の種類ごとに行うことになっていますのでその種類ごとに評価方法を定めて、届出書に次のように記載します。

  • 「区分」欄には、 有価証券について記載する場合は「有価証券」 を、仮想通貨について記載する場合は「仮想通貨」 を○で囲んでください。

  • 「種類」欄には、新たに取得した有価証券又は仮想通貨の種類を記載する必要があります。。

  • 有価証券の種類は、おおむね金融商品取引法第2条第1項第1号から第21号まで (第17号を除きます。)の各号の区分によります。例えば、国債証券、地方債証券、社債券(相互会社の社債券を含みます。)、株券(新株予約権を表示する証券を含みます。)、証券投資信託の受益証券、 貸付信託の受益証券などは、 それぞれ種類の異なる有価証券として区分することができます。

  • 新株引受権付社債は、 それ以外の社債とはそれぞれ種類の異なる有価証券として区分します。

  • また、外貨建ての有価証券と円貨建ての有価証券又は外国若しくは外国法人の発行する有価証券と国若しくは内国法人の発行する有価証券は、それぞれ種類の異なる有価証券として区分するのが原則となります。
  • 暗号資産の種類は、仮想通貨の呼称等(ビットコインなど)を記載します。

  • 「評価方法」欄には、総平均法又は移動平均法のうち、選定した評価方法を記載します。

  • 「新たに取得した年月日」欄には、有価証券又は仮想通貨を取得した年月日を記載します。

4.暗号資産を他の暗号資産と交換した場合

これまで暗号資産の売買をビットコインによってのみ行ってきました事業者が、ビットコイン以外の暗号資産であるイーサリアムの売買も始めることになり、購入したイーサリアムの決済を保有するビットコインにより支払ったとします。

今回のように、暗号資産から他の暗号資産に交換した場合、交換時の所得税法上の取扱いについて考えていきます。

第一に、保有している暗号資産から他の暗号資産への交換は、種類は違いますが暗号資産を保有し続けていると捉える考え方も成り立ちます。しかしながら、現行の税法上は、交換取引を“譲渡と取得による『複合取引』として取り扱います。

これは、例えば次のような例で考えると分かりやすいです。(簡略化のため、単位は任意で設定しています。)

ビットコイン1BTCとイーサリアム2ETHを交換するとします。これは、円に直すと10万円であるとします。(交換時に1BTC=2ETH=10万円)

さて、今、事業主Aは1BTCを過去に8万円で購入していたとします。

ここでAは、1BTCを2ETHに交換します。この時、税務上は1BTCをいったん10万円で売却したと考えます。

つまり保有していた暗号資産を他の暗号資産と交換した場合、交換時に交換前の暗号資産を一度売却し、あらたに他の暗号資産を購入した場合と同様の効果が生じることから、交換時において交換前の暗号資産の売却損益を認識します。

そして、2ETHを新たに10万円で取得しなおしたという複合取引と考えるのです。

つまり売却益は2万円となり、この2万円が交換時において所得として認識し計算され、また、イーサリアムの取得価額は600,000円となります。

交換のケースでは複数の暗号資産が登場するので、次の具体例により解説します。