支払時点で含み益や含み損がある場合の取扱い

2022年は特にドル円レートが大きく変動し、通貨の価値についてエポックメーキングな年になってきています。

暗号資産は元々非常にボラタイルな金融商品で、その価格変動の大きさがネックとなり、価値の貯蔵手段や価値交換手段として、なかなか浸透しない要因ともなってきました。

今回のコラムでは、暗号資産が含み益や含み損を有する場合の税務上の論点について解説していきたいと思います。

2.所得税の取扱い(復習)

所得税法では、所得税法第36条においてその年分の各種所得の金額の計算上収入金額または総収入金額に算入すべき金額を定めています。さらに、所得税法基本通達において収入金額の収入すべき時期についても細かく規定をしています。

暗号資産の売却による収入については、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として雑所得となります。

この雑所得の収入すべき時期については、所得税基本通達36-14において規定されています。

具体的には、公的年金等以外の雑所得については、第2項において「その収入の態様に応じ、他の所得の収入金額又は総収入金額の収入すべき時期の取扱いに準じて判定した日」となっています。

「他の所得の収入金額又は総収入金額の収入すべき時期の取扱いに準じて判定した日」とありますので、どの所得に準じて判定するかが重要となります。

暗号資産は税務上は支払手段という位置付けとなります。

したがって、その譲渡については、雑所得以外では譲渡所得が取引の形態としては類似していると思われます。

そして、譲渡所得については、所得税基本通達36-12において、「山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、山林所得又は譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものととする。」と規定されています。

このことから、資産の引渡しの事実に基づいて収入すべき時期を判定することになりますので、資産の引渡しの事実が無く、保有し続けている状態での含み益または含み損については、収入すべき時期が到来していませんので、所得税法において課税関係は生じないということになります。

なお、「納税者の選択により、当該資産の譲渡に関する契約の効力発生の日…により総収入金額に算入して申告があったときは、これを認める。」とも規定されていますが、この場合でも資産の引渡しに係る契約締結を前提としていますので、保有しているだけで資産の引渡しにかかる契約をしていない場合にもこのことには該当しないこととなります。

3.支払時点で含み益(含み損)があった場合の処理

では、本題の支払時点で含み益や含み損があった場合の処理について見ていきましょう。

例えば、飲食店の代金を暗号資産で支払いをした場合について見ていきましょう。

この場合、基本的な発想としては支払いをした日のレートで暗号資産を譲渡したことになります。

そのため、結論から申し上げますと、暗号資産の取得時よりもレートが高い(含み益がある)場合には課税所得が認識され、原則として確定申告が必要になるのではないかと思われます。

暗号資産をはじめ、暗号資産は法律上、支払手段として取り扱われます。

このことから、飲食店の代金に充てるために暗号資産を使用した場合には、支払手段として使用したことになります。

所得税法においては、この支払手段として使用した時点で暗号資産の譲渡があったものとみなされます。

これは、所得税法において資産の譲渡とは「有償無償を問わず、所有資産を移転させる一切の行為」とされており、通常の売買の他、交換、競売、公売、代物弁済、財産分与、収用、法人に対する現物出資なども含まれるためです。

そのため、代金の支払いを行った時点で暗号資産を譲渡したことになることから、暗号資産の購入時よりも支払い時のレートが高い(含み益がある)場合には、譲渡による利益(譲渡益)があると認識され、課税所得が生じることとなります。

逆に、暗号資産の購入時よりも支払い時のレートが低い(含み損がある)場合には、その取引が所得税法上のどの所得区分に属するかにより、取扱いが異なります。

飲食店などの支払代金に充てる場合についても、所得税法上では譲渡とみなされることから、取引の種類は、暗号資産取引所または販売所で売却した場合と同様に、所得税法上、原則として雑所得に該当します。

 4.所得税法上の取扱い

消費税法において、消費税の課税対象とは原則として、以下の4つの要件について全てを満たすものとされています。

① 国内における取引であること

②事業者が事業として行うものであること

③対価を得て行われるものであること

④資産の譲渡及び貸付ならびに役務の提供であること

飲食代金の支払手段として暗号資産を使用しただけであれば、事業者が事業として行うものに該当しないため、消費税の課税対象とはなりません。