企業が購入し保有する暗号資産の会計処理について

資産評価に関する原則的な考え方

企業が保有する資産の価値を会計上どのように評価するかについて、2つの代表的な考え方があります。

企業が期末決算において作成する貸借対照表の資産のほとんどが、この2つの考え方に従って計上されています。

暗号資産の評価方法を検討する前に、まずはこの2つの代表的な資産評価方法について見ていきます。

 

①時価主義

その時点の時価により資産評価を行うという考え方です。

時価の把握が簡単で、かつ迅速な売買が可能な外国通貨や金融商品がこの考え方に基づいた金額により資産計上されています。

 

②取得原価主義

資産取得時の価額(資産取得時の支出額)で資産評価を行うという考え方です。

固定資産のように使用を前提(売却をしないことを前提)としている場合や、時価の把握が困難な場合にこの考え方に基づいて資産計上されます。

また、損益に注目することも時価主義と取得原価主義の理解に役立ちます。

時価主義で評価される代表的な資産が株式などの有価証券ですが、これらは時価が値上がりした時点で売却することで利益を得る事ができます。

すなわち、時価の変動そのものによって利益を得る事ができる資産が時価主義での評価に適しています。

一方で、取得原価主義で評価される代表的な資産は、機械装置などの固定資産です。

固定資産保有目的は、その使用によって事業活動の収益を獲得することであって時価変動により利益を獲得することは想定されていません。

このように事業活動目的を通じて収益獲得に貢献するような資産は取得原価主義による評価が適しています。

 

期末における暗号資産の評価方法

企業が購入し取得価額によって計上された暗号資産について、期末に保有する暗号資産に活発な市場が存在する場合と活発な市場が存在しない場合に分けてそれぞれ会計処理を考えていきます。

資産評価を行う上で時価主義によるのか取得原価主義によるのかは、資産の保有目的及び収益獲得の形態に依存しています。

活発な市場が存在する場合は観察可能な市場価格が存在するので、有価証券のように値上がり益の獲得を目的とする保有か、もしくは通貨のような決済手段として利用するための保有と考えられます。したがって、時価主義に基づき毎期末時点の市場価格によって評価を実施します。

 

「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」(実務対応報告38号、以下「実務対応38号」といいます。)にも以下のように述べられています。

 

「暗号資産交換業者及び暗号資産利用者は、保有する暗号資産(暗号資産交換業者が預託者から預かった暗号資産を除く。以下同じ。)について、活発な市場が存在する場合、市場価格に基づく価額をもって当該仮想通貨の貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理する。」(実務対応38号⑤)

 

つまり、暗号資産に活発な市場が存在する場合は、暗号資産を期末時点で時価評価して貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益とします。

なお、活発な市場については、暗号資産における「活発な市場」とはを参照してください。

例えば、取引量が多いことで代表的な暗号資産のビットコイン(以下BTCといいます。)やイーサリアムなどは、活発な市場が存在する暗号資産として時価評価します。

 

次に、活発な市場が存在しない場合の会計処理については『時価を把握することが極めて困難な有価証券』の処理が参考になります。

金融商品というと上場株式などが思い浮かぶせいか、金融商品=時価評価というイメージが強いかもしれません。

しかし、実は金融商品の中にも時価の算定が困難で、取得原価による評価を行うものがあります。

例えば、非上場会社で特に閉鎖型の株式会社(地場で数十年続けている中小企業をイメージしていただくと分かりやすいです。)では、何年も株式の売買が無いことが多く過去の取引を参考にして時価を算定する事ができないことが多々あります。

このような『時価を把握することが極めて困難な有価証券』は、取得原価で評価することが金融商品基準第19項(2)に定められています。

活発な市場が存在しない暗号資産についても同様の考え方に基づいて会計処理を行うことが定められています。

実務対応38号にも、『活発な市場が存在しない暗号資産については取得原価をもって貸借対照表価額とすることとした。』(実務対応38号38項)とされています。

つまり、活発な市場が存在しない暗号資産の場合には、取得原価をもって貸借対照表価額とすることとなります。

ただし、期末時点の処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む)が取得価額を下回る場合(資産性が低下した場合)には、将来に損失を繰り延べないために回収可能価額まで帳簿価額を減額する会計処理を行う必要があります。

なお、処分見込価額の見積は資金回収が確実である金額に基づくことが考えられますが、そのような金額を算定することは困難であるため、多くの場合はゼロ又は備忘価額を用いることが考えられます。

 

暗号資産の売却損益の認識時点

実務対応38号には、「暗号資産交換業者及び暗号資産利用者は、暗号資産の売却損益を当該暗号資産の売買の合意が成立した時点において認識する。」(実務対応38号⑬)と定められています。

つまり実務上は、売却する暗号資産の価格変動リスク等に、暗号資産の売り手が実質的にさらされていない時点を売買の合意が成立した時点としてとらえるという考え方のもと、個々の取引契約等に照らして、暗号資産の売買の合意が成立した時点を判断する必要があります。

 

仕訳例

事象1「活発な市場が存在するケース」

3月1日

企業が1BTCを800,000円で預金により購入しました。

3月31日

企業は引き続き1BTCを保有しています。

企業の期末は3月31日であり、またBTCは活発な市場が存在するものと判断され、3月31日時点の市場価格は1BTCあたり1,000,000円(あるいは500,000円)であります。

 

事象1の仕訳例

3月1日

(借)暗号資産    800,000円 (貸)預金      800,000円

3月31日(時価1,000,000円の場合)

(借)暗号資産    200,000円 (貸)暗号資産評価益 200,000円

3月31日(時価500,000円の場合)

(借)暗号資産評価損 200,000円(貸)暗号資産      200,000円

 

事象2「活発な市場が存在しないケース」

3月1日

企業が暗号資産Aを1単位800,000円で預金により購入しました。

3月31日

企業は引き続き暗号資産Aを1単位保有しています。

企業の期末は3月31日であり、また暗号資産Aは活発な市場が存在しないものと判断され、3月31日時点の処分見込価額は暗号資産Aの1単位あたり800,000円(あるいは500,000円)であります。

 

事象2の仕訳例

3月1日

(借)暗号資産       800,000円 (貸)預金      800,000円

3月31日(処分見込価額800,000円の場合)

仕訳なし

3月31日(処分見込価額500,000円の場合)

(借)暗号資産評価損 300,000円 (貸)暗号資産   300,000円