暗号資産における「活発な市場」とは
暗号資産の取引及び実務対応報告38号における「市場」の定義
暗号資産の取引は主に、取引所と販売所で行われます。
取引所は、ユーザ同士が相対で暗号資産を売買するマーケットです。
指値や成行注文により取引するという点では株式市場と類似していますが、流通量が少ないため取引が成立しなかったり、成行で売買した結果、想定とは大きく異なる価格で売買されてしまうこともあります。
販売所は、暗号資産を取り扱う販売業者からユーザが直接購入する実店舗のような場所です。業者から直接購入できるため、取引所のように売買が成立しなかったり、想定外の価格で売買することになったというリスクがない反面、手数料などの取引コストが高くなります。
実務対応報告38号45項では市場の定義として、『市場には、公設の取引所及びこれに類する市場のほか、随時、売買・換金等を行うことができる取引システム等が含まれる。』
『取引所及び店頭において取引が行われていなくても、随時、売買・換金等を行う取引システム(例えば、金融機関・証券会社間の市場、ディーラー間の市場、電子媒体取引市場)が流通性を確保する上で十分に整備されている場合には、そこで成立する取引価格を市場価格とすることができる』
という文言があります。これらの規定を勘案すると、暗号資産の取引所や販売所は、『市場』の定義を充たすと考えられます。
「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」(実務対応報告第38号、以下実務対応38号」といいます)では、暗号資産の会計処理を「活発な市場」が存在する場合としない場合に分けて、それぞれの会計処理が定められています。しかし、「活発な市場」についての明確な定義は設けられていません。これは「活発」であることについての定量的な基準を設けることが実務上、困難であることが理由であると思われます。
では、活発な市場がある場合とはどのような場合でしょうか。
活発な市場
実務対応38号では、活発な市場に該当する場合として継続的に価格情報が提供される程度に暗号資産引所又は暗号資産販売所において、十分な数量及び頻度で取引が行われている場合と定められています(実務対応38号⑧)。
「継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われている場合」(実務対応38号⑧)については量的基準がなく、実務では仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所の状況等を勘案し、個々の仮想通貨の実態に応じての判断を必要とします。
ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産は、取引量が多く、適時取引が行われ時価が変動することから「活発な市場」が存在するケースと判断できます。しかし、ICOなどによって発行された独自の暗号資産や、毎時間に数回しか取引がないような場合、大きな取引所では上場しておらず小さな取引所だけで上場している暗号資産の場合には論点となります。
実務では、保有する暗号資産の種類、当該保有する暗号資産の過去の取引実績及び当該保有する暗号資産が取引対象とされている暗号資産取引所又は暗号資産販売所の状況等を勘案し、個々の暗号資産の実態に応じて判断していくことになります(実務対応38号㊼)。
上記の判断において、例えば、売手と買手の希望する価格差が著しく大きい場合や、合理的な範囲内で入手できる価格情報が暗号資産引所又は暗号資産販売所ごとに著しく異なっていると認められる場合には、通常、市場は活発ではないと判断することになります(実務対応38号㊼)。
活発な市場が存在する場合の期末時の会計処理
活発な市場が存在する場合、当該暗号資産の貸借対照表価格は市場価格に基づく価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理します(実務対応38号⑤)。
なお、国内外の各暗号資産取引所又は暗号資産販売所の取引量を網羅的に把握し、活発に取引が行われている暗号資産取引所又は暗号資産販売所の取引価格等を決定することは困難であると考えられるため、自己が通常利用する取引実績の最も大きい暗号資産取引所又は暗号資産販売所における取引価格等を、市場価格として使用することと定められています(実務対応38号⑨・㊾)。
また、暗号資産交換業者においては、自己の通常利用する取引実績が大きい暗号資産取引所又は暗号資産販売所における取引価格等が、自己の運営する暗号資産取引所又は暗号資産販売所の取引価格等となる場合、時価は公正な評価額であることを前提とし、当該取引価格等が「公正な評価額」を示している市場価格である場合に限り、時価として期末評価に用いることができます(実務対応38号⑩㊿)。
なお、「市場価格」とは、市場(取引所及びこれに類する市場のほか、随時、売買・換金等を行うことができる取引システム等も含まれます)における取引価格(取引により成立している価格のことをいいます)、気配又は指標その他の相場をいいます(実務対応38号④(7))。
活発な市場が存在しない場合の期末時の会計処理
暗号資産利用者及び暗号資産交換業者は、保有する暗号資産について活発な市場が存在しない場合、取得原価をもって貸借対照表価額とします。期末における処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含みます)が取得原価を下回る場合には、当該処分見込価額を貸借対照表価額とし、取得原価と当該処分見込価額との差額は当期の損失として処理されます(実務対応38号⑥)。
また、前項に基づいて暗号資産の取得原価と処分見込価額との差額を損失として処理した場合、翌期に当該損失処理額の戻入れは行いません(実務対応38号⑦)。
「活発な市場」の判断変更時の取り扱いについて
活発な市場が存在しない暗号資産の場合、時価評価を行わないため収益性が低下した場合には減損処理を行うことになります。
減損処理を行った後に取引価格が上昇しても、その市場が「活発な市場」でない場合は、時価評価を行わないため減損額の戻入も行いません。
しかし「活発な市場が存在しない仮想通貨」の減損処理がされた後に、当該仮想通貨が「活発な市場が存在する仮想通貨」に変更された場合は時価評価を行うため、もし市場での時価が減損処理後の金額よりも高い場合には、結果として「活発な市場が存在しない暗号資産」で認識した減損が戻入れられたことになります。
暗号資産の減損については、
実務対応報告38号にみる活発な市場が存在しない暗号資産の減損について①
実務対応報告38号にみる活発な市場が存在しない暗号資産の減損について②
を参照してください。