暗号資産の会計処理の参照基準について

暗号資産ビジネスにおける金融規制については、法令等の整備は進捗している一方で、会計の世界では会計基準が整備されている棚卸資産や金融商品などと違い、暗号資産について直接の会計基準が現時点ではありません。

そのため実務上は、2018年3月14日に企業会計基準委員会から公表された「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(実務対応報告第38号、以下「実務対応38号」といいます)に定められている指針に沿って、事業者ごとに会計処理が検討されています。

しかし、暗号資産が関連する取引には様々な種類が存在するため、実務対応38号で定められていない論点も多くなっています。

 

実務対応38号で定められている暗号資産の取引

暗号資産の会計処理について、実務対応38号では以下の目次のとおり定められています。

Ⅰ.仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理

1.期末における仮想通貨の評価に関する会計処理

2.活発な市場の判断規準

3.活発な市場が存在する仮想通貨の市場価格

4.仮想通貨の取引に係る活発な市場の判断の変更時の取扱い

5.仮想通貨の売却損益の認識時点

Ⅱ.仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨の会計処理

1.仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨に係る資産及び負債の認識

2.仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨に係る期末の資産の評価及び負債の貸借対照表価額

Ⅲ.開 示

1.表 示

2.注記事項

このように、暗号資産交換業者や暗号資産利用者が暗号資産を取得した場合や、保有する暗号資産の期末評価額を計算する場合などは、実務対応38号に基づいて会計処理を行います。これらの会計処理については、暗号資産の会計処理について(まとめ)を参照してください。

 

実務対応38号で定められていない暗号資産の取引

実務対応38号で定められていない論点の一部として、ICOやハードフォークなどの暗号資産の取引があります。このような実務対応38号で定められていない場合は、既存の財務報告の枠組みを参照しつつ会計処理の検討が行われています。

 

・ ICO(暗号資産発行による資金調達)

 

ICOの会計処理に関しては別の回で詳細に解説しますが、実務上はICOが実施される際に発行されるホワイトペーパー(プロジェクトの概要や計画、集まった資金の使いみちなどが記載された白書)などをよく分析し、取引の経済的実態や法的実態など多方面からの検討を行い、事業者ごとに独自の会計処理が行われています。

 

・ ハードフォーク(暗号資産を支えるブロックチェーンの分岐)

 

ハードフォークとは今まで一つだった暗号資産が二つに分裂することです。暗号資産のメンテナンスやアップデートは、その利用を停止せずに行えることが特徴ですが、時にはそのアップデートの方針で運営者が対立する場合があり、そのような時にハードフォークが行われます。ハードフォークが行われると一つだった暗号資産を二つに分けることが出来るため、運営者も二つに分かれ、新しく生まれた暗号資産にはゼロから新規に値段が付けられます。ただし、暗号資産の運営方針が変わることから値段は大きく変動する可能性があります。

ハードウォークされた暗号資産についてはそもそも価値があるのかどうか、あるとしたらいつ価値が生まれるのか、また、安全が保証できない等の理由によりハードフォークされた暗号資産を暗号資産交換業者から利用者に交付できない場合はどうするか等の論点があり、実務では複数の会計処理が検討されています。

このように暗号資産の取引については実務対応38号に定められていないものも存在し、そのような場合は既存の財務報告の枠組みを参照しながら、個々に暗号資産取引の性質を踏まえてあるべき会計処理を検討していくこととなります。暗号資産という新しい分野の性質を理解した上で、既存の会計基準の趣旨等を考慮しながら実務の会計処理に落とし込んでいくことが重要です。