暗号資産建て債権債務の会計処理について

暗号資産取引に係る会計基準として、企業会計基準委員会が公表している実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(実務対応報告第38号、以下「実務対応38号」といいます。)」があります。

しかし暗号資産に関連するビジネスはまだ初期段階であり、今後の進展を予測することが困難であることや暗号資産の私法上の位置づけが明らかでないため、現時点では必要と考えられる最小限の項目に関する会計上の取り扱いのみ定められています。

そして実務対応報告第38号では、暗号資産建て債権債務に係る会計処理方法は定められていないため、取引ごとの経済的実態を考慮しながら会計処理を行っていくこととなります。

 

実務対応38号の取り扱い

実務対応38号では、暗号資産は、外国通貨、金融商品、棚卸資産、無形固定資産など、既存の会計基準に沿って会計処理することは適当でないとされています(実務対応38号㉙・㉚・㉛・㉜・㉝)。そのため、暗号資産については直接的に参照可能な既存の会計基準が存在しないことになります。

また、暗号資産建ての債権債務が発生した際の会計処理方法については定められていないため、暗号資産の消費貸借取引(例えばビットコイン(以下「BTC」といいます。)の借入貸付など)が発生した場合は、既存の会計基準を適用せず取引ごとの経済的実態を考慮しながら会計処理を行います。

 

借入貸付時の会計処理

暗号資産の借入貸付を行う場合、債権者は債務者に対し暗号資産を支払い、債務者は債権者から暗号資産を取得します。

当該取引の経済的実態を考慮し会計処理を行いますが、貸付借入時点の暗号資産の時価が基礎となります。そのため、貸付借入時点の暗号資産の時価を取得原価として、債権者は貸付暗号資産を、債務者は借入暗号資産を計上すると考えられます。

 

期末時の会計処理

暗号資産の借入貸付を行ったのち、期末を迎えた際の貸付暗号資産及び借入暗号資産の評価については、期末時点で該当する暗号資産を保有している場合と同様に処理します。

当該暗号資産に活発な市場が存在する場合は、市場価格に基づく価額をもって貸借対照表価額とし、活発な市場が存在しない場合は取得原価をもって貸借対照表価額とすると考えられます。

また、活発な市場が存在しない場合において、処分見込価額が取得原価を下回る場合は当該処分見込価額をもって貸借対照表価額とするものと考えられます。

なお、上記評価によって発生した評価差額については、当期の損益として処理すると考えられます。

保有する暗号資産の期末における評価方法についてはこちらの記事も参照ください。

 

決済時の会計処理

暗号資産の消費貸借取引を行った債権者及び債務者が、債権債務を決済する場合には、債権者は決済時点の暗号資産を取得し、債務者は決済時点の暗号資産を支払うことになります。

この際、決済時点の暗号資産の時価と債権債務の貸借対照表価額に差額が発生することが考えられますが、この差額は当期の損益として処理すると考えられます。

5 仕訳例

(1)事象

3月1日

A社は、B社に対して1BTCを貸し付けました。貸付時の1BTCの時価は800,000円でありました。

※利息は無いものとします。

3月31日

A社及びB社の期末日は3月31日であり、期末日までに返済が行われず、両社債権債務を保有しています。期末日の1BTCの時価は1,000,000円でありました。

4月30日

B社は、A社に対して1BTCの返済を行いました。返済時の1BTCの時価は700,000円でありました。なお、返済時において、両社直前期末日の評価額で債権債務を計上しています。

(2)仕訳例

3月1日

A社:(借)貸付暗号資産 800,000円 (貸)暗号資産 800,000円

B社:(借)暗号資産 800,000円     (貸)借入暗号資産 800,000円

3月31日

A社:(借)貸付暗号資産 200,000円 (貸)暗号資産評価益 200,000円

B社:(借)暗号資産評価損 200,000円 (貸)借入暗号資産 200,000円

4月30日

A社:(借)暗号資産 700,000円   (貸)貸付暗号資産 1,000,000円

暗号資産評価損 300,000円

B社:(借)借入暗号資産 1,000,000円 (貸)暗号資産 700,000円

暗号資産評価益 300,000円