ICOの会計処理について

ICOにより資金調達した場合の会計処理は、企業会計基準委員会から公表された「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(実務対応報告第38号、以下「実務対応38号」といいます)において現時点では明確な定めがありません。

そのため経済実態を考慮して、会計処理を行うこととなります。株式の発行による資金調達(IPO)とは異なるため、基本的には売上(収益)として計上します。

発行したトークン保有者に対して、役務・サービスの提供義務などがある場合には、負債に計上し、義務の消失と共に取り崩していく会計処理を行うと考えられます。

ICOとは

スタートアップ企業が迅速に資金調達できる手段として注目されているICOとは、「Initial Coin Offering(新規仮想通貨公開)」の略で、企業などが自らトークンを発行し、その発行したトークンを売却することにより資金を調達することです。投資家にはコインやトークンと呼ばれる暗号資産を購入してもらい、原則として対価は支払われません。

資金調達をするという点では株式を利用したIPOと同じです。しかしIPOは資金調達を得るまでに、事業計画書や直近決算を開示する必要や証券市場に新規上場するために証券会社の協力を必要とします。

一方ICOではこのような作業を行う必要が少ないため企業側はその分コストを下げることが出来ますが、投資家側を保護するルールが未整備であり、投資家にとってはハイリスクな取引と言えます。

2017年には東証マザーズに上場している株式会社メタップスの連結子会社である韓国法人Metaps Plus Inc.がICOを実施しました。2017年頃から暗号資産の値上りと共にICO市場も拡大しましたが、虚偽のホワイトペーパー(プロジェクトの概要や計画、集まった資金の使いみちなどが記載された白書)や無価値の暗号資産など、さまざまなトラブルが発生したこともあり、2018年後半頃からは市場は縮小傾向にあります。

ICOの会計処理の考え方

ICOに関して、金融庁が平成30年3月8日に設置した「仮想通貨交換業者等に関する研究会」が、平成30年12月21日に公表した「仮想通貨交換業者等に関する研究会」報告書(以下、「報告書」といいます)で、下記の問題を記載しています。

・ ICO を有効に活用したとされる事例があまり見られない。

・ 詐欺的な事案や事業計画が杜撰な事案も多く、利用者保護が不十分である。

・ 株主や他の債権者等の利害関係者の権利との関係も含め、トークンを 保有する者の権利内容に曖昧な点が多い。

・ 多くの場合、トークンの購入者はトークンを転売できれば良いと思っている一方、トークンの発行者は資金調達ができれば良いと思っており、 規律が働かず、モラルハザードが生じやすい。」(報告書19頁・20頁)

また、

ICO は、その設計の自由度が高いことから様々なものがあると言われているが、トークンの購入者の視点に立った場合には、以下のような 分類が可能と考えられる。

・ 発行者が将来的な事業収益等を分配する債務を負っているとされるもの(投資型)

・ 発行者が将来的に物・サービス等を提供するなど、上記以外の債務を負っているとされるもの(その他権利型)

・ 発行者が何ら債務を負っていないとされるもの(無権利型)」(報告書20頁)

とICOの分類例を挙げています。なお、報告書では、決済規制や投資規制について議論されていますが、会計処理については議論されていません。

会計処理の観点からも経済的実態を反映する必要があり、ICOの会計処理を画一的に定めることは非常に難しいです。

実務ではICOの経済実態を反映した会計処理を行うためにも、上記に記載した分類を参考に検討していくこととなります。

ICOの会計処理の方法

上記に記載したICOの分類例について考えうる会計処理は、以下となります。

  •  暗号資産発行者が購入者に対して将来的な事業収益等を分配する債務を負っているとされるもの(投資型)

資金調達の対価として株式ではなくトークンを付与しており、暗号資産発行者が購入者に対して将来的な事業収益等を分配する義務を負っていることから、当該義務の発生に伴い、負債を計上することになります。その後、当該負債の履行や消滅に伴い収益が計上されると考えられます。

  •  暗号資産発行者が購入者に対して将来的に物・サービス等を提供するなど、上記以外の債務を負っているとされるもの(その他権利型)

暗号資産発行者が購入者に対して将来的に物・サービス等を提供する義務を負っていると考えられるため、当該義務の発生により負債を計上します。その後、当該負債の履行や消滅に伴い収益が計上されると考えられます。

  •  暗号資産発行者が購入者に対して何ら債務を負っていないとされるもの(無権利型)

経済的実態としては「寄付」に近いと判断できるため、返済義務がないことから、即時に収益になると考えられます。