暗号資産交換業者の内部管理体制について①

暗号資産交換業者には、利用者保護等を目的として資金決済法その他、様々な規制が課されており、これらの法令遵守を行うための管理体制等が求められます。

 

今回のコラムでは、暗号資産交換業者にはどのような内部統制が必要かについて、解説をしていきたいと思います。

 

1.経営管理体制の整備

資金決済法により、暗号資産交換業は、暗号資産交換業を確実に遂行するために必要な財産的基礎を維持する必要があることが定められています。具体的には、①最低資本金額が1000万円、②純資産額がマイナス(債務超過)でないこととされています。

 

とはいえこれは、暗号資産交換業者にとって最低限度の法令順守のラインに過ぎません。暗号資産交換業は金融業の一種であり、暗号資産交換業を適正かつ確実に運営する上では、多くの場合さらに強固な財務基盤が必要になると思われます。

 

第二に、これは暗号資産交換業者に限らずですが、ガバナンス体制の整備も必要となります。

 

暗号資産交換業者は、投資家などから多額の金銭又は暗号資産を預かるので、経営者や従業員の流用といった不正、ハッキングやシステムバグによる暗号資産の流出、喪失など、通常の事業会社に必要なガバナンスに加え、より強固なガバナンスが必要と考えられます。

 

通常業務を含む業務遂行に対する内部的なチェック機能を整備し、現業部署の他に『内部監査部門』や『内部管理部門』を設けるなどして、金融業者として十分なガバナンス体制を敷く必要があります。

 

第三に、法令遵守の体制整備は、暗号資産交換業者によってより重要となります。

 

資金決済法をはじめ暗号資産交換業者は様々な規制下で業務を遂行することになるので、法令遵守は非常に重要です。特に金融業は法令違反の社会的影響が重大であるので、以下のような具体的な取り組みを通じて、適切な法令遵守体制の整備が必要となります。

 

・適切な社内規則の整備と運用

・役員、従業員に対する研修とフォローアップ

・コンプライアンスに関する対応状況の定期的なモニタリング

 

また、暗号資産取引は特に、マネーロンダリングや不正取引、テロ資金供与といった反社会的勢力の排除が問題になることが多いので、こうした取り組みが非常に重要となります。

 

2.内部統制の具体例の例示

上記のような内部統制の具体的な例示として、いくつか紹介をしていきたいと思います。

 

【暗号資産のアドレス間で暗号資産の移動を行う業務に関する内部統制】

たとえば、ホットウォレットからコールドウォレットへの移動(またはその逆)など、暗号資産交換業者が日々の業務で行う移動に関する内部統制があります。

 

インターネット上で接続されているホットウォレットは取引の迅速、簡便性が担保される反面、ハッキング等のリスクがあるため暗号資産の流出等がどうしても懸念されます。

 

そこで暗号資産交換業者は、こうしたリスク管理の一環で、入金用として利便性の高いホットウォレットを利用し、​保管用コールドウォレットを利用するという対策を講じているところが多いです。

 

流動性の高いホットウォレットから安全性の高いコールドウォレットに資金移動することにより、資産保護への対策を行っているということです。

 

これは暗号資産の管理のための内部統制の一つです。

 

【利用者または利用者以外からの暗号資産の誤った入金についての内部統制】

上記のような誤った入金処理が行われた場合に、自己用途の暗号資産と利用者用途の暗号資産を区分した上で、返金又は利用者財産の調整等の対応を行うための内部統制を暗号資産交換業者は構築する必要があります。

 

暗号資産の送金ミスは一般に、暗号資産の選択とアドレスに誤りが無ければ取り消すことはできませんが、何らかの過失により送金をミスした場合は多くの場合、アドレスや暗号資産が間違っているので誰かに送金されてしまうことはありません。

 

こうした送金ミスに対し、①システム上でもエラー表示を行うこと、②自己の暗号資産とは厳密に区分し、けっして顧客の暗号資産が自己の暗号資産に混入しないこと、③適切に、ある程度迅速に確実に返金が行われること等を担保する体制の構築が必要となります。

 

これも暗号資産の管理のための内部統制の一つとなります。

 

【利用者に対する取引明細・残高報告の送付に関する内部統制】

利用者は、暗号資産交換業者を通して売買を繰り返すのが通常ですが、その一つ一つの取引を利用者自身が正確に記録・把握するのは(特に個人の場合は)困難です。

 

また、暗号資産取引も当然税務上の課税対象となり得るので、その損益を把握することは適切な納税を促す点でも重要となってきます。

 

そのため暗号資産交換業者であれば必ず、取引報告書、証拠金受領書、取引残高報告書といった証憑を利用者に対しいつでも取得できる体制を整えることになります。

 

これは、利用者財産の管理のための内部統制となります。

 

【暗号資産の評価のための内部統制】

暗号資産の時価を適時に入手し、期末の時価評価額を決定・承認するための内部統制です。

 

いかがでしたか?

 

次回以降も、暗号資産の内部統制について見ていきたいと思います。