資産除去債務の割引率について②

前回に引き続き、資産除去債務の割引率について解説していきたいと思います。

1.資産除去債務の割引前将来キャッシュフロー

資産除去債務はそれが発生したときに、有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)で算定するということは前回の解説通りです。


このときの割引前の将来キャッシュ・フローは、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づく自己の支出見積りによります。

そして、その見積金額は、生起する可能性の最も高い単一の金額又は生起し得る複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均した金額となっています。

2.将来キャッシュフローが見積値から乖離するリスクについて

割引前の将来キャッシュ・フローの見積金額には、生起する可能性の最も高い単一の金額(最頻値)又は生起し得る複数のキャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均した金額(期待値)を用います。

ただし、将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクを勘案する必要があります。

この将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクは、リスク選好がリスク回避型である一般の経済主体にとってマイナスの影響を有するものであるため、資産除去債務の見積額を増加させる要素となります。

割引前の将来キャッシュ・フローとして、自己の信用リスクの影響が含まれていない支出見積額を用いる場合に、無リスクの割引率を用いるか、信用リスクを反映させた割引率を用いるかという点については、割引前の将来キャッシュ・フローに信用リスクによる加算が含まれていない以上、割引率も無リスクの割引率とすることが整合的であると考えるのが一般的です。

この考え方は、①退職給付債務の算定においても無リスクの割引率が使用されていること、②同一の内容の債務について信用リスクの高い企業の方が高い割引率を用いることにより負債計上額が少なくなるという結果は、財政状態を適切に示さないと考えられること、③資産除去債務の性格上、自らの不履行の可能性を前提とする会計処理は、適当ではないことなどの観点から支持されています。


一方、信用リスクを反映させた割引率を用いるべきであるという意見は、まず、割引前の将来キャッシュ・フローの見積額に自己の信用リスクの影響を反映させている場合には整合的であるという理由によっています。

また、割引前の将来キャッシュ・フローに信用リスクの影響が含まれていない場合であっても、翌期以降に資金調達と同様に利息費用を計上することを重視する観点からは、信用リスクを反映させた割引率を用いる考え方があります。

さらに、それが信用リスクに関わりなく生ずる支出額であるときには、信用リスクを反映させた割引率で割り引いた現在価値が負債の時価になると考えられることを論拠としています。

しかし、これについては、資産除去債務の計上額の算定において信用リスクを反映させた割引率を用いるとすることに、前述した②や③の問題を上回るような利点があるのかどうか疑問があるという意見が一般的でした。

有利子負債やそれに準ずるものと考えられるリース債務と異なり、明示的な金利キャッシュ・フローを含まない債務である資産除去債務については、退職給付債務と同様に無リスクの割引率を用いることが現在の会計基準全体の体系と整合的であると考えられます。


これらのことから、資産除去債務の会計処理においては、無リスクの割引率を用いるのが適当であるとなりました。

したがって、この場合には、原則として将来キャッシュ・フローが発生するまでの期間に対応した利付国債の流通利回りなどを参考に割引率を決定することとなります。

これは、割引前将来キャッシュ・フローが税引前の数値であることに対応して、割引率も税引前の数値を用いる必要があるためです。

3.その他の論点

上記以外の割引率の論点について解説していきたいと思います。

【割引率を固定する場合について】

資産除去債務の割引率は、決定後には変更を行わず負債計上時の割引率を用いることになります。

割引率を毎期見直すとした場合、毎期末において変更後の負債額を貸借対照表に反映させることになりますが、このような負債の計上に割引率の変更を反映させることについては、他の負債の取扱いとの整合性に問題があるためです。

また、割引率を負債計上時の割引率に固定する方法は、時の経過によって一定の利息相当額を配分する
という考え方を採用することになるので、関連する有形固定資産について減価償却という費用配分が行われることとも整合的であると考えらます。

【割引前将来キャッシュ・フローの見積りの変更による調整額に適用する割引率について】

割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じ、当該キャッシュ・フローが増加する場合、その時点の割引率を適用する。これに対し、当該キャッシュ・フローが減少する場合には、負債計上時の割引率を適用する。なお、過去に割引前の将来キャッシュ・フローの見積りが増加した場合で、減少部分に適用すべき割引率を特定できないときは、加重平均した割引率を適用します。

【割引前将来キャッシュ・フローの見積りの変更による調整額に適用する割引率】

割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合、その調整額に適用する割引率は、キャッシュ・フローの増加部分については新たな負債の発生と同様と考えられますので、変更時点の割引率を適用します。

※ただしキャッシュ・フローが減少する場合は負債計上時の割引率を適用する点には注意が必要です。