資産除去債務の算定に用いる割引率ついて①

資産除去債務の見積りに関しては、『資産除去債務算定における割引前将来キャッシュフローについて』というコラムをはじめ、資産除去債務の中心的な論点となるため様々なところで論じてきました。

上記のコラムでも検討した点ですが、将来キャッシュ・フローの見積りと割引計算についてのポイントとしては下記の3つがありました。

①割引前将来キャッシュ・フローの見積りは『自己の支出見積り』による

②見積金額は、生起する可能性の最も高い単一の金額又は生起し得る複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均した金額とする

『無リスク』『税引前の』利率による割引計算を行う

①と②については検討を行ったので、最後に残った③の点を検証したいというのが今回のテーマとなります。

とはいえ、そもそも金融的な知識がなければ『無リスク』の割引率とか、『税引前』の利率とかの意味が良くわからず、この論点の理解は難しいと思います。

今回はまず、この割引率の種類についての解説を行った後で本題の資産除去債務の論点について検討をしていきます。

なお、今回の内容は難解かつ非常に重要な論点となるため、2回に分けて解説をしていきたいと思います。

1.将来キャッシュ・フローの割引現在価値について

将来キャッシュ・フローの見積を行った際に、会計上は必ず『割引計算』を行います。

割引計算とは、たとえば1年後のキャッシュ・フローには利息が付与されるので、それを加味するということです。

これは、現在の100万円は年利2%で運用できれば1年後には102万円となっているので、現在の100万円と等価になるのは、1年後の100万円ではなく1年後の102万円ということです。

したがって、1年後の102万円を現在価値に修正するには、102万円÷1.02=100万円という計算を行う必要があり、この計算を割引計算、割り戻す1.02を割引率と言います。

2.割引率の種類について

この割引計算については理解できている方もいらっしゃると思いますが、ここからがさらに専門的な話になってきます。

それは、この割引計算に用いる利率について、では実務上どうやって算定するのか?という問題です。

将来キャッシュ・フローと現在キャッシュ・フローの差は利息(運用)収益となるので、割引率≒利率と考えても良いのですが、利率といっても実務上は一律に定まる利率がある訳ではなく、借入主体の信用力によって大きく異なります。

たとえば、国債や地方債といった、例外はあるものの基本的に簡単に破綻することは考えられないような発行体に対する利率は低くなりますし、債務超過の企業への貸付を仮に行わなければならないとすればリスク・プレミアムを乗せることで利率は大きく跳ね上がります。

つまり、どのような割引率を用いるのかが決定できなければ、実際の資産除去債務の算定が行えないことになります。

なお、基本的な考え方としては、国債の割引率を『無リスク』の割引率、無リスクの割引率に発行体の信用リスクを加味した『自己の信用リスクを反映した』割引率の2種類として整理をすることができます。

国家もデフォルトすることがあるので国債の割引率を『無リスク』と考えるのは違和感があるかもしれませんが、そもそも金融や通貨発行が国家の信用力を前提としているため、国家破綻等がないという前提の上での『無リスク』と考えて下さい。

したがって、資産除去債務の算定に際して用いる割引率として候補になるのは、無リスク割引率か自己の信用リスクを反映した割引率の2種類になります。

3.自己の信用リスクを反映した割引率を用いるべきという考え方

信用リスクを反映させた割引率を用いるべきであるという見解について検討します。

大前提として、割引前の将来キャッシュ・フローの見積額に自己の信用リスクの影響が反映されていると考えた場合、割引率についても信用リスクを反映しないと整合性が取れません。

たとえばリース債務の算定は、リースの貸手がリースの借手の信用リスクを当然に加味してリース料の設定をしていると考えられるので、無リスクの割引率ではなく自己の信用リスクを反映した割引率を用います。

また、仮に割引前の将来キャッシュ・フローに信用リスクの影響が含まれていない場合であっても、翌期以降に資金調達と同様に利息費用を計上することを重視する観点から、信用リスクを反映させた割引率を用いることがあります。

これは負債時価を重視する考え方で、信用リスクに関わりなく生ずる支出額であれば、信用リスクを反映させた割引率で割り引いた現在価値は負債時価となるので、時価会計を重視するならば将来キャッシュ・フローに信用リスクが含まれているか否かに関わらず自己の信用リスクを反映した割引率を用いるべきという結論になります。

この時価会計を重視した考え方は、ある意味では国際会計基準に近い考え方となり、特にM&Aなど金融的な側面から企業価値を算定するのには便利な方法なのですが、財務報告という意味においては様々な問題もはらんでいます。

それについては後半のコラムで解説していきましょう。(続く)