IFRS第16号とTopic842の会計処理が公開草案に与えた影響

ここまでリースの会計処理の背後にある様々な考え方を紹介してきましたが、いよいよ具体的な会計処理に入っていきたいと思います。

ところで、今回のリースの公開草案が、国際会計基準審議会(IASB)が 2016 年 1 月に公表した IFRS 第 16 号「リース」(IFRS第 16 号)及び米国会計基準審議会(FASB)が 2016 年 2 月に公表した会計基準更新書第 2016-02 号「リース(トピック 842)」(Topic 842)を参照していることはこれまでも述べてきました。

IFRS第16号と米国のTopic842は、両者共に使用権モデルにより、原則としてすべてのリースを資産計上しますが、その費用配分方法は異なっています。

今回は、公開草案のベースとなったIFRS第16号とTopic842の考え方を消化しつつ、新しい公開草案との関連も含めた『借手の費用配分』の論点について見ていきたいと思います。

1.IFRS第16号の考え方と会計処理について

IFRS第16号は、前身のリース基準であるIAS第17号の対象の範囲が拡大させる形で、2016年に公表され、2019年1月1日以降に始まる会計年度から適用となりました。

IFRS自体がプリンシパルベース(原則主義)の会計基準であり、今回のIFRS第16号は、リスクと経済価値の概念から支配概念に基づく単一の会計モデルを採用しています。

IAS第17号からの改定は、今回の公開草案同様、多くの借手企業にとって影響の大きな基準変更となりました。

IFRS第16号の特徴は以下の通りです。

⑴リースの分類を廃止し、すべてのリースに単一の会計処理を採用しています。

⑵リース開始日に、すべてのリースについて、リースの計算利子率又は借手の追加借入利子率で割
り引いたリース料の現在価値でリース負債を測定し、通常はリース負債と同額(当初直接コストや
前払リース料がある場合はリース負債にこれらを加算した額)で使用権資産を測定します。


⑶リース開始日後は、すべてのリースについて、リース期間にわたって使用権資産に係る減価償却
費とリース負債に係る利息費用を認識します。

特に重要なのは、この費用の認識方法を単一モデルで整理したことです。

次の章で解説するように、この点が同時期に使用権モデルに基づいた改正をした米国基準のTopic842との大きな違いとなります。

2.Topic842の考え方と会計処理について

Topic842は、前身のリース基準であるTopic840を改良する形で、2016年に公表され、2018年12月15日以降に始まる会計年度から適用となりました。

Topic842の内容としては以下のようなものになります。

⑴ファイナンス・リースとオペレーティング・リースのリース分類は維持され、ファイナンス・リースについては、国際基準と同様の会計処理を行います。

⑵オペレーティング・リースについては、リース開始日のリース負債と使用権の測定はファイナンス・
リースと同じように行います。

具体的には、リース開始日後、毎期末に同じ割引率を用いて未払リース料の現在価値で毎期のリース負債を測定して毎期末のファイナンス・リースの負債残高と一致させます。

使用権資産は、減損が生じない限りリース期間を通じてリース負債の額(当初直接コストや前払リース料がある場合はリース負債にこれらを加算した額)で測定します。

また、減損が生じない限り使用権資産に係る減価償却費とリース負債に係る利息費用は認識せず、リース期間にわたって定額のリース費用(リース料をリース期間にわたって定額で配分した額)を認識します。

米国基準は、このようにファイナンス・リースとオペレーティング・リースの二区分の会計モデルを維持し、リースの種類により毎期の費用認識方法が異なるというスキームを維持しました。

3.IFRS第16号とTopic842の相違点と公開草案の会計処理

前章でも見たようにIFRS第16号とTopic842は、どちらも使用権モデルを採用し、原則としてすべてのリースを資産計上する点で貸借対照表上の処理は同じです。

一方で、IFRS第16号は単一モデルにより費用認識を行うのに対し、Topic842は二区分の会計モデルをその費用配分方法は異なっています。

リース会計基準(案)にはこの費用配分についての言及があり、下記のような内容になっています。

借手のリースの費用配分の方法として、IFRS 第16号では、すべてのリースを借手に対する金融の提供と捉え使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る金利費用を別個に認識する単一の会計処理モデル(以下「単一の会計処理モデル」という。)が採用されている。これに対して、Topic 842 では、従前と同様にファイナンス・リース(減価償却費と金利費用を別個に認識する。)とオペレーティング・リース(通常、均等な単一のリース費用を認識する。)に区分する 2 区分の会計処理モデル(以下「2 区分の会計処理モデル」という。)が採用されている。

IFRS第16号では、オペレーティング・リースを含むすべてのリースを従前のファイナンスと同様に取り扱います。

そのため、減価償却費と金利費用は別個に認識され、別個に費用配分されます。


米国の会計基準のTopic842では、オペレーティング・リースとファイナンス・リースで異なる費用配分方法を採ります。


ファイナンス・リースの方はIFRS第16号と同じく、減価償却費と金利費用は別個に認識され、別個に費用配分されます。

オペレーティング・リースは、減価償却費と利息費用の合計が毎期定額となるように計算し、表示も償却費と金利費用を区分しないで合計額を「リース費用」として計上します。

公開草案策定時には、両者の比較検討が行われ、様々な議論が行われたようです。

詳細は次のコラムで説明しますが、結論からいうと今回の公開草案では、IFRS第16号の単一の会計処理モデルの方を採用しました。