リースを含むか否かの識別について

ここまで未適用に、リースについての定義自体は公開草案と以前のリース基準で大きな違いはありません。

ただし、今回の公開草案ではリースの識別に関するガイダンスが充実したものとなり、リースの識別に関して詳細な検討を行う必要が出てきました。

従前のリース基準においては正直この点はあまり重視されておらず、実務上は、賃貸借契約またはリース契約という名称の契約が締結されていれば『リース』として取り扱っていたのではないかと思います。

しかし今後は、リースの識別が必要になるので、会社としては単に役務提供を受けているだけの契約と認識していても、実はリースの要件を充足していてリースの会計処理を行わないといけないようなケースが出てくるかもしれません。

今回はこのリースの『識別』の論点について解説をしていきたいと思います。

1.リースの識別について

公開草案の定義によるとリースとは、『使用権』ということになります。

『使用権』についてさらに深堀すると、「資産を使用する権利」を貸手が借手に譲渡し、その対価を貸手が受け取る契約です。

資産そのものではなく、あくまで「使用する権利」というのが理解のポイントで、どういう契約であれば借手に「使用権」を移転されたと考えられるのか、その基準を定めたものがこの「リースの識別」の論点です。

ここで企業会計基準公開草案第 73 号「リースに関する会計基準(案)」(リース会計基準(案))に記載のある「リースの識別」の文言を確認してみます。

リース会計基準(案)によれば

『契約の締結時に、契約の当事者は、当該契約がリースを含むか否かを判断する。…契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含む』

とあります。

この条文における理解のポイントは、以下の二つです。

一つ目は、借手が、資産をどのように使うか決定することができて、かつ、その資産を使用することで生じる経済的な利益も占有できるという点です。

大前提として借手の資産の利用に裁量権が無いのであれば、単に役務提供を受ける顧客と整理したほうが実態に即した処理になると思われるからです。

二つ目のポイントは、契約に際して明確に特定できる資産が存在しているという点です。

今回の公開草案が参考にしたIFRSも同様ですが、大雑把に言って、どの資産により顧客が便益を得るか特定しえないような場合は役務提供、ある特定の資産により顧客が便益を得る場合はリースとなります。

2.リースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分について

例えば自動車のリースにおいてメンテナンス・サービスが含まれる場合などのように、リースを含む契約の中に、リースを構成する部分とリースを構成しない部分の両方が含まれていることがあります。

前章で解説したリースの識別を行う結果、リースを含んだ契約は、リースを構成する部分とリースを構成しない部分に分けられます。

リースの識別を行う目的は、リースを構成する部分のみにリースの会計処理を適用し、リースを構成しない部分についてはリースの会計処理を適用しないためです。

したがって、借手、貸手双方について、リースを含む契約については原則として、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けてそれぞれ適切な会計処理を行います。

このリースの識別に関する論点が今回の公開草案で追加されたことで、実務上も一部のビジネスで影響が出るのではないかといわれています。

例えば一部のビジネスにおいては、形式上、財・サービスの販売価格にリースの要素を含めることで、取引や会計処理が簡便であることが商品特性上の強みとなっているような商品を販売しているケースがあります。

今後はこのような商品について顧客はメリットを享受することができなるなるかもしれません。

サービス提供を受けるためには特定の資産が必要で、サービスの契約にリースが含まれているような場合(でかつ取引に重要性がある場合)には、リースを構成する部分を切り出さないといけないからです。

従来はリースが含まれていようがいまいが、オペレーティング・リース取引であればサービスの場合とさほど会計処理に違いはありませんでしたが、借手の会計処理において使用権モデルによる使用権資産の計上が求められる公開草案においては、今後リースかサービスかは大きな違いとなり、上記のようなリースを含む複合的な契約の場合は会計処理がより複雑になる可能性があるので注意が必要です。

3.例外処理について

最後に借手の処理としての例外処理の説明をしてきます。

その内容は、借手が、『対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごとに、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とを分けずに、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成する部分として会計処理を行うことを選択することができる』というものです。

簡単に言うと、重要性が乏しい場合にリースを構成しない部分を含めてリースとして会計処理できるということで、IFRS第16号を準用し今回の公開草案に取り入れられたものでもあります。

この規定の趣旨ですが、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行うことを完璧に実務上行おうと企業がした場合、非常に事務コストがかかり会計処理も複雑になることから、例外的に簡便な取扱いを定めたものです。

ただし、当然ですが、いかなる場合においてもこの簡便処理が行えるわけではありません。

もし借手が重要なサービス構成部分のあるすべての契約についてこの管便法を採用すると、借手のリース負債が実態以上に膨らんでしまいます。

借手がこの実務上の便法を採用できいるのは、重要性が低い場合、すなわち契約の非リース構成部分が比較的小さい場合に限定されると考えて下さい。

また、逆の会計処理、すなわちリースを構成する部分と当該リースに関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成しない部分として会計処理を行うことは、リース部分が小さかったとしても例外なくできません。

借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するというのがそもそもの公開草案の開発方針ですから、これを認めることは公開草案作成の趣旨に反するからです。