上場準備企業における関連当事者取引及び関係会社について
企業が株式上場までに行うべきことの中に、関連当事者間との取引の解消や関係会社の整理があります。関連当事者とは、上場を予定する企業の主要株主や役員などのことで、基本的には株式上場の際に関連当事者との取引を事前に解消しておく必要があります。
関連当事者や関連会社の整理は、東京証券取引所の「上場審査等に関するガイドライン」に定められています。
上場申請企業との関係性 | 説明 |
1.親会社 | 自社の株式の過半数を所有する会社など |
2.子会社 | 自社が株式の過半数を所有する会社など |
3.同一の親会社を持つ会社等 | 持株会社に所属している際の他の子会社など |
4.その他の関係会社、及びその親会社・子会社 | 1~3のいずれにも当てはまらないが、株式を保有している、もしくは保有されている会社など |
5.関連会社、及びその子会社 | 株式の20~49%を保有している、もしくは保有されている会社など |
6.主要株主およびその近親者 | 自社の株式の10%以上を保有する株主 |
7.役員およびその近親者 | 取締役、会計参与、監査役、執行役またはこれらに準ずる者 |
8.親会社の役員およびその近親者 | 1と7を参照 |
9.6~8が所有する会社等、及びその子会社 | 6~8が株式の50%以上を持っている会社等が対象 |
10.従業員のための企業年金 | 掛金の拠出以外に、何らかの重要な取引を行っている場合に限る |
11.その他の特定の者 | 上記すべてに該当しないが、上場申請企業と人的・資本的な結びつきが強いと考えられる企業もしくは個人 |
関連当事者等を整備する目的
関連当事者や関係会社を整備する目的は、経営を健全に保ち株主の利益を守ることです。
上場申請会社の経営者による不適切な取引などがあった場合は、新規公開に対する株主・投資者の信頼を損ねる可能性があります。特に関連当事者等との取引は、上場申請会社の企業グループと特別な関係を有する相手との取引であるため、本来不要な取引を強要されたり取引条件が歪められたりする懸念があります。
また、株式上場を目指す会社の中には、複数の関係会社を経営戦略の中に組み込み、事業の多角化や国際化等を進めているケースがあります。このような場合には関係会社の整備が非常に重要となります。
関連当事者等の整備方法
1.関連当事者等との取引解消
原則では、関連当事者等との取引はすべて解消することが望ましいとされていますが、どうしても難しい場合は、取引条件を関連当事者以外に対するものと同水準にし、当該条件の妥当性を証明する資料を作成・記録しておく必要があります。問題となりやすい事例は以下の通りです。
・役員に対する金銭の貸し借り
・債務保証取引の整理
・不動産賃貸借取引の整理
・業務委託取引の整理
2.不要な関係会社等の整理
上場申請する企業の関係会社についても、合併などにより整理する必要があります。
上場申請を行う企業が子会社を持っている場合、子会社が同じ地域で同一の事業を行っていたり、役員及びその親族が個人的な利益を得るために子会社を設立しているケースなどは上場審査において問題視されます。
また、子会社が赤字続きのケースも、子会社の赤字が親会社の利益を圧迫し親会社の株主の利益を損なうことに繋がると考えられるため、存在する合理性がないとして整理することを求められます。
更に、関係会社の株主構成にも注意が必要です。上場申請を行う会社の役員及びその親族が、関係会社の株主であるケースは問題視されます。このケースでは、役員は関係会社の利益の一部を株主の立場で個人的に受け取っていることになりますので、一般株主の利益を損なうと考えられ原則として認められていません。
これらのケースに当てはまる場合は、事前に吸収合併や会社の解散、株式の買取などによって対処しておく必要があります。
3.役員どうしの親族関係の整理
監査役や監査委員は、企業の経営について不正を監視・報告する立場にありますので、その業務の公正さを保つために監査役・監査委員は経営層と親族関係にない人間が就任すべきとされています。そのためこれらの関係も上場時には見直す必要があります。
上場申請会社の企業グループの実態開示
関係会社を含む関連当事者等との取引を悪用するケースにおいては、「押し込み販売」による決算期末近くの売上計上などにより、申請会社グループの財務諸表等が実態を反映していないものとされてしまう恐れがあります。
そのため、上場審査に際してはこのような決算操作を可能とするような関係会社を可能な限り整理することが要請されます。さらに、関連当事者等との取引や所有割合の不当な調整により企業グループの実態の開示が歪められていないかについて、審査上も重要項目として扱われています。実態として子会社やその他関係会社が存在するにも関わらず、取引実態の調整や株式の移動によってそのことを隠してはならず、形式的に取引を解消するだけでは不十分であることに注意が必要です。
政府の定める「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」に従い、関連会社等との取引がある場合は、その重要なものについて開示を行う必要があります。開示内容の一部には以下のようなものがあります。
・名称、所在地、資本金、事業内容、議決権の所有割合(法人の場合)
・氏名、職業、議決権の所有割合(個人の場合)
・財務諸表の提出会社との関係
・取引の内容
・取引金額
・取引条件と決定方針
また、開示が必要となる重要な取引とは以下のように規定されています。
個人を対象とした取引 | 法人を対象とした取引 |
1,000万円超の取引 | 規模の大きな売上・仕入・販管費が発生した場合 |
事業と直接関係のない収益・費用が大規模になった場合 | |
大規模な借入、固定資産・有価証券の売買が行われた場合 | |
事業譲渡によるM&Aなどにより、大規模な資産または負債が発生した場合 |
「株主の利益を保護する」という原理原則に基づいて、関連当事者等のチェックは厳しく行われますので、上場準備において関連当事者取引及び関係会社の整備をしっかり行うことが必要です。