税効果会計概観

皆さんは損益計算書や貸借対照表を眺めたときに、『法人税等調整額』や『繰延税金資産』という科目をご覧になったことはあるでしょうか?

これらの科目は、通常上場企業の決算でしか出てこない科目であり、長年経理の仕事をしているような方でも、非上場企業でしか経験のない方、または自身で担当科目として受け持ったことが無い方などは実のところよく分からないということも多いのではないでしょうか?(実際にそのような声もよく聞きます)

また、投資家や経営者で財務諸表を見慣れている方でも、この『法人税等調整額』や『繰延税金資産』は理解しにくいという方は多く、その割には簡単に損益や総資産が変動し、ROA、ROE、売上高当期純利益率などへの影響も大きく、株価のバリュエーションにも響いてくるのが実態です。

これは、いわゆる『税効果会計』という会計処理によって出現する勘定科目なのですが、税務と会計の両方の知識が必要なため非常に高度な論点となっており、この税効果が利益に与える影響が大きい割に正確に理解している人は少ないのが現状です。

そこで今回は、税効果会計とは何か、その計算ロジックはどうなっているのかを概観し、税効果会計を解説する一連のシリーズのスタートとしていきたいと思います。

1.税効果会計とは?

日本に限らず法人税は、会社の利益に連動して発生する性質があります。会計上は、利益に対して法定実効税率をかけて税金を算定して、借方に費用、貸方に未払法人税等という負債を計上することで、法人税の税負担を利益のマイナスとして、法人税支払による将来のキャッシュアウトを負債として認識することになるのですが、法人税を計算する際の税務上の利益、すなわち国や地方自治体などの徴税主体が計算する利益と会計上のあるべき利益の金額に差異があるため、実際の法人税支払額と当期の利益に対するあるべき法人税支払額との間に差異が発生することで正確な利益が計算できないという問題が生じることになります。

これは損益計算書だけでなく貸借対照表についても同様で、会計上のあるべき未払法人税という負債は、その期において実際に課税されるベースの負債金額と異なってしまうため、どちらの金額を計上したとしても財務諸表利用者の意思決定に資する情報提供という会計の目的が果たせなくなってしまう事になります。

会計上上記のような不整合を正すために行われるのが税効果会計で、下記のように実際の税金支払額(税務上の利益に基づく法人税)を法人税という科目で費用計上(相手勘定は未払法人税等)したうえで、それを会計上の利益に修正するための勘定、すなわち法人税等調整額と繰延税金資産(または繰延税金負債)を別建てで仕訳するというものになります。

法人税等 ×× 未払法人税等 ××(実際の税金支払額を費用・負債として認識する仕訳)

繰延税金資産 ×× 法人税等調整額 ××(実際の税金支払額を会計上の利益に調整する仕訳)

税効果会計を理解するためのファーストステップとして、まずは上記の2つの仕訳がセットで成立していること及び繰延税金資産と法人税等調整額の仕訳の意味を理解しましょう。

2.税務上の利益と会計上の利益が異なる理由について

前章でも述べたように、税効果会計が必要となる根本的な理由としては、会計上の利益と税務上の利益が異なるために利益連動型の法人税のような税金の負担額が、会計と税務で異なってしまうためでした。

税効果会計についてのより深い理解をするためには、この税務上の利益と会計上の利益の違いについて理解を深める必要があります。したがってここでは、税務上の利益と会計上の利益の違いがなぜ生じるかについての解説をしていきたいと思います。

結論から申し上げますと、税務上の利益と会計上の利益の違いの原因は、税務会計と制度会計の目的の違いということになります。

まず制度会計の目的は、財務諸表利用者に対する適時・適切な情報開示であり、そのために企業業績の(財務諸表利用者にとっての)適切な把握というものになります。したがって、実現主義や発生主義といった、会計処理の根拠となる事象が発生したタイミングでの会計処理が原則的には求められます。

一方で税務会計の目的は、法人税自体が応能主義を採用しているので、担税力のある課税主体がその能力に応じた納税を行う事を前提としたうえで公平な課税を行う事となります。したがって、制度会計において広く行われている見積や見込計上などは、税務会計においては否認されるのが普通です。

このようにそれぞれの会計の目的の違いから会計処理も異なってくるために、結果として利益も異なってくるということになります。

3.税務上の利益と会計上の利益の違いをもたらす具体的項目

最後に、税務上の利益と会計上の利益の違いをもたらす具体的な項目について見ていきましょう。

前章まででも解説したように、制度会計は適正な利益計算、税務会計では公平な課税という違いがありました。

この目的に照らすと制度会計では、費用は合理的な範囲で早期に計上するという考え方になりますが、税務会計では平等に課税するという観点から、あくまで明確に損金といえるものだけを損金にする、という違いが出てきます。

具体例的には、制度会計では賞与引当金という形で当期の稼働に対応した賞与を稼働した期に合わせて計上しますが、税務会計では賞与を実際に支払った期に損金経理されるという点で会計処理の違いが出てきます。