暗号資産交換業者の監査対応のポイント

暗号資産交換業者が受けなければならない監査は、二つあり、それは、財務諸表監査と分別管理監査です。

財務諸表監査では、上場企業に対して行われる金商法監査などと同様に貸借対照表と損益計算書、及びそれぞれに関連する注記について監査を受けることになります。

監査対応を適切に行うためには、会計帳簿に暗号資産の取引記録を正確に反映させるとともに関連する内部統制の構築を適切に行う必要があります。

現代の企業の取引量は膨大であるため、取引の全件チェックは不可能です。

そのため、サンプリングによる試査により監査を行う事になりますが、その前提条件として有効な内部統制が機能していることが求められます。

暗号資産交換業者の経営者は、分別管理の法令遵守及びその内部統制を整備及び運用する責任を有しており、分別管理の状況についての評価を実施しなければなりません。

したがって分別管理監査においても、暗号資産交換業者自らが利用者財産及び履行保証暗号資産の分別管理の状況についてのコンプライアンスとその内部統制の整備及び運用の状況を正しく適切に評価し、その前提が十分であると認識した上で、分別管理の監査を受けなければならないことに留意する必要があります。

 

1 監査の種類

資金決済法63条の14では、報告書の提出が求められています。

第1項では、事業年度ごとに内閣総理大臣に提出する暗号資産交換業に関する報告書を作成し提出するよう定め、第3項で添付する財務に関する書類に公認会計士又は監査法人の監査報告書を添付しなければならないとしいます(資金決済63の14③)。

さらに、資金決済法及び暗号資産交換業者府令では、財務に関する書類の詳細として関連する注記を含んだ最終の貸借対照表と損益計算書、それらについての公認会計士又は監査法人の監査報告書を添付して、金融庁長官に提出することが定められています(暗号資産交換業者府令37②)。

また、利用者の暗号資産については、利用者保護の観点から内閣府令に定められた方法で管理することが求められています。

資金決済法63条の11では、暗号資産交換業者は、利用者の金銭又は暗号資産と自己の金銭又は暗号資産とを分別して管理している状況(これを分別管理といいます)、履行保証暗号資産を自己の暗号資産として保有し、履行保証暗号資産以外の自己の暗号資産と分別して管理している状況について公認会計士又は監査法人による監査を受ける必要がある旨定められています(資金決済63の11③・63の11の2②)。

 

以上のことから暗号資産交換業者は、以下の監査を受ける必要があります。

  • 財務諸表に関する監査
  • 利用者財産及び履行保証暗号資産の分別管理の状況についての分別管理監査

 

実務では、暗号資産の性質や暗号資産取引のリスクの観点から、監査法人における監査の受嘱について、厳しいハードルが存在します。

暗号資産の性質や暗号資産取引に対するリスクがハードルとなって、監査法人から監査契約締結を断られるケースも散見されるようです。

現実的に、暗号資産の性質や暗号資産取引により精通した公認会計士が所属する監査法人はまだ多くないため、受嘱してくれる監査法人等監査を見つけることが困難なケースがあります。

 

2 財務諸表に関する監査対応のポイント

前述のように、暗号資産交換業者が監査法人や公認会計士による監査を受けるためには、正確な会計帳簿を作成するのはもちろんのこと、通常の財務諸表監査と同様に貸借対照表、損益計算書及びそれぞれに関連する注記を作成して公認会計士または監査法人の監査を受ける必要があります。

財務諸表監査においては、裏付けとなる監査証拠として、ブロックチェーンの記録を利用して暗号資産の取引記録や残高に関する記録を入手するのが通常です。(「暗号資産交換業者の財務諸表監査に関する実務指針」(業種別委員会実務指針、以下「実務指針61号」といいます(実務指針61号⑦))。

財務諸表監査と同様、監査人には監査に関連する暗号資産交換業者の内部統制を理解することが求められるため(監査基準委員会報告書315⑪)、アドレス管理や利用者管理簿の管理他実務指針61号付録2で例示されているような内部統制について管理や運用が十分に行われているかの検証が必要です。

暗号資産交換業者の財務諸表監査では、ブロックチェーンのような電子的記録に保存された暗号資産の取引記録の全てについて、取引相手先や入出金の目的を完全に把握できるような内部統制を構築することが特に重要と考えられています。

もしそういった内部統制が機能していなければ、会計処理しなければならない暗号資産の入出金を網羅的に集計できなくなったり、取引相手先や入出金の目的が不明となったりすることで、簿外資産や架空資産、架空収益等の問題が発生してしまう可能性があります。

そうなると、暗号資産の取引記録を証拠資料として正確な会計帳簿にを作成することが著しく困難となってしまうので、財務諸表監査を受けるにあたっては十分な注意が必要です。

 

3 利用者財産の分別管理の状況のポイント

資金決済法63条の11においては、利用者財産の管理について、暗号資産交換業者は暗号資産交換業の利用者の金銭又は暗号資産と自己の金銭又は暗号資産とを分別して管理することを暗号資産交換業者に義務付けています。さらに63条の11の2では履行保証暗号資産を自己の暗号資産として保有し、履行保証暗号資産以外の自己の暗号資産と分別して管理することを義務付け、それらについて監査法人等の監査を受けなければならないと書かれています。

なお、履行保証暗号資産とは内閣府令で定める要件に該当する暗号資産と同じ種類及び数量の暗号資産のことで、利用者財産保護のためのもです。

 

そこで、暗号資産交換業者の方は、分別管理監査を受ける際には以下のような事項に留意しましょう。

 

(1)分別管理を受ける頻度

暗号資産交換業者府令28条①において、利用者財産に係る分別管理監査として毎年1回以上、監査法人等による監査を受けなければならないとされています。

なお、初年度の分別管理監査は、暗号資産交換業者として登録した日から起算して一年以内を分別管理監査の基準日として監査を受ける必要があります。

2回目以降は、前回の分別管理監査の基準日の翌日から起算して1年以内に1回以上の監査を受けなければならないと定められています。

 

(2)分別管理監査の前提となる内部統制の整備及び運用評価

次に、暗号資産交換業者が分別管理監査を受けるにあたっての監査への対応についてです。

暗号資産交換業者における利用者財産の分別管理に係る合意された手続業務に関する実務指針55号の⑦には(専門業務実務指針4461)「暗号資産交換業者は資金決済法第63条の11第1項及び第2項並びに第63条の11の2第1項に基づいて分別管理を実施しなければならないとされている主体、すなわち業務依頼者である」と定義されていてます。

そして、「分別管理監査の実施に当たり、業務依頼者である暗号資産交換業者の経営者は、分別管理についての法令遵守や企業内部の会計・経営システム等の内部統制の整備及び運用の状況について自己の責任を認識し、整備及び運用が機能していると評価していることが前提となる。」((実務指針55号⑦))と定められています。

さらに、実務指針55号⑧では、「業務依頼者である暗号資産交換業者の経営者は分別管理の法令遵守及びその内部統制の整備及び運用の責任があり分別管理の状況について評価する」と定められています。

またその他にも、分別管理のコンプライアンス及びその内部統制の整備及び運用の状況を評価する具体的な方法として、認定資金決済事業者協会の「《会員における利用者財産の分別管理のチェック項目及びチェックポイント》」等を利用すること、基準日時点の分別管理の状況を確かめること等が示されています。

 

つまり、暗号資産交換業者の経営者は分別管理監査を受ける前に、認定資金決済事業者協会の「《会員における利用者財産の分別管理のチェック項目及びチェックポイント》」等を利用したり、また、基準日時点の分別管理の状況を確かめること等を分別管理監査を受ける前に行い、分別管理のコンプライアンス(法令遵守)及びその内部統制の整備及び運用状況の評価を行う事ができる前提条件を整えてから、監査人による分別管理監査を受けなければならないという事です。

こうした準備は思いのほか時間とコストがかかるため、専門家を適切に活用する等の対応が通常は必要となります。