PPAにおける無形資産の評価②

前回までのコラムで、無形資産の認識要件及びその基礎となる考え方について解説をしました。

今回は、認識した無形資産をどのように評価するのか、その評価方法について解説していきたいと思います。

なお今回の一連のコラムでは、時価の算定に関する会計基準や、企業結合会計適用指針を参考に、無形資産に関連する会計基準及び現在の実務慣行に照らして無形資産に関する取扱いを解説していますが、M&Aなどがますます盛んになっている昨今の情勢などを鑑みると、今後、無形資産に関する会計基準が整備される可能性は大いにあり得ると思われます。

一覧のコラムにおける企業結合会計適用指針等の関連する項目は見直されることがあり得ますので、ご留意の上で読み進めていただければと思います。

1.はじめに

前回のコラムにおいて、基礎となる考え方である公正価値アプローチを学びました。

公正価値は具体的には、測定日時点での市場参加者間の秩序ある取引において想定される価格と考えると良いと思います。

なお、公正価値はIFRSの概念であり、日本基準では「時価」に当たります。

「時価の算定に関する会計基準」において、時価とは、『算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格』とされており、基準上もほぼIFRSの概念と一致します。

なお、時価が入手できない場合には、合理的に算定された価額によることとなりますが、この合理的に算定された価額は、一般的な市場参加者が利用する情報や前提等が入手可能である限り、それらに基礎を置くこととし、そのような情報等が入手できない場合には、見積りを行う企業が利用可能な独自の情報や前提等に基礎を置くものとされています。

2.三つの評価アプローチ


PPAの無形資産評価における評価アプローチは、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ及びインカム・アプローチの三つのアプローチに大きく分けられれます。

無形資産の評価では、概ね企業価値時と同じ手法が使用されます。

企業価値評価は、主に非上場企業の買収を行う際のバリュエーションに用いられますが、市場価格のない資産を購入対象とする際の値付けという意味ではまったく同じ意味となるため、両者は基本的に等しくなっています。

なお、日本においては現状は、無形資産に係る包括的な会計基準が存在しておりませんが、適用指針等によれば、PPAにおける識別可能資産及び負債の時価は、強制売買取引や清算取引ではなく、いわゆる独立第三者間取引に基づく公正な評価額となります。

そして通常それは、観察可能な市場価格に基づく価額となりますが、市場価格が観察できない場合には、合理的に算定された価額を時価として用いることとなります。

非上場企業が多大なコストを払って無形資産をわざわざ貸借対照表に計上していることはほとんど考えられませんし、上場企業であっても通期の会計処理として無形資産の計上が義務付けられていない以上、無形資産が正確に計上されていることはほとんどないと思われます。

また、PPAが行われる際に認識された無形資産について、観察可能な市場価格についてもほとんどのケースで存在しないと思われます。

企業結合会計適用指針にはこうした場合の取り扱いとして

「このような観察可能な市場価格がない資産及び負債の時価を見積る際には、独立第三者間取引に基づく公正な評価額を算定する目的との整合性を確保するため、原則として、市場参加者が利用するであろう情報や前提などが入手可能である限り、それらに基礎を置くこととし、そのような情報等が入手できない場合には、見積りを行う企業が利用可能な独自の情報や前提などに基礎を置き、その合理的な基礎に基づき見積られた価額は合理的に算定された時価であると考えることとした」

と定められれています。

その上で、合理的に算定された価額は、一般に、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチなどの見積方法が考えられ、資産の特性等により、これらのアプローチを併用又は選択して算定することが求められています。

企業価値評価においても無形資産評価においても、評価アプローチは、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ及びインカム・アプローチの三つのアプローチのどれかを用いて評価を行う事に違いはありません。

企業結合会計適用指針による各アプローチの説明を見て、その内容を確認してみましょう。


①コスト・アプローチ

同等の資産を受け入れるのに要するコストをもって評価する方法となります。代表的な評価方法として、原価法がこれに該当します。

②マーケット・アプローチ
同等の資産が市場で実際に取引される価格をもって評価する方法です。代表的な評価方法として、取引事例比較法がこれに該当します。


③インカム・アプローチ

同等の資産を利用して将来における期待される収益をもって評価する方法です。代表的な評価方法として、収益還元法や割引将来キャッシュ・フロー法がこれに該当します。