PPAにおける無形資産の評価④
前回に引き続きPurchase Price Allocation(M&Aにおける取得原価の配分。以下、PPAと記載)を行う際の無形資産の評価方法をテーマに解説をしていきたいと思います。
前回のコラムでは、コスト・アプローチ及びマーケット・アプローチにおける無形資産評価方法とその選択手法の限界について解説をしていきました。
今回は、非上場株式や無形資産の評価における最もポピュラーな評価方法、インカム・アプローチについて解説をしていきたいと思います。
1.インカム・アプローチにおける評価方法の概説
インカム・アプローチは、将来のキャッシュ・フローの割引現在価値で示す評価アプローチです。
将来生み出されるキャッシュ・フローの割引現在価値のうち、評価対象となる無形資産に帰属する価値をもって無形資産の価値とします。
インカム・アプローチは、コスト・アプローチやマーケット・アプローチと異なり、マーケット・データに依存する部分が少なく、多くの無形資産で適用可能というメリットがあります。
企業価値評価においてインカム・アプローチを採用した場合の収益予測は、継続的なものです。
一方で、新規の複製コストを見積もる際の修復不能な陳腐化は含まないのが普通ですから、これらのリスクは割引率などに適切に反映させることが必要です。
インカム・アプローチでは、価値が一定の単純化された仮定に基づき算出されるまでの期間の評価を行います。
これは、企業の成長率が経済の長期的な成長率に収斂するまでの期間にわたる収益予測を行い、その予測に基づいた評価を行うということです。
無形資産についていうと、大部分の無形資産は、将来の利益又はキャッシュ・フローを生み出す期間が有限であると考えられます。
そうなると当該無形資産が収益を生み出す期間には限りがあるので、一定の予想年数を前提にした収益予測に基づいた評価が行われると考えてよいでしょう。
2.利益差分法による評価
利益差分法では、評価対象無形資産がある場合の収入・費用または利益と、無形資産がない場合の収入・費用または利益を比較します。
比較の結果、増減差額が算定できますが、この差額分を無形資産に関わる利益とみなして、その差分利益を現在価値に割引計算して無形資産を価値評価するという方法です。
この算定方法の背景には、無形資産が利益を増加させるのは、その無形資産によって収入が増加したり、費用が減少したりすることによって行われるという考え方があります。
それは、こういうことです。
たとえば、無形資産を使用することによって販売数量、販売単価、顧客数、契約、マーケットシェア、販売期間の拡大効果がもたらされます。
そうすると企業は収益が増加するとともに、貸倒が減少し、製造コスト、原料コスト、設備費用、労務費用、管理費用、広告宣伝費、賃借料、修繕維持費、支払利息、資本コストといった各コストも低減します。
その結果、生産効率や生産水準が向上し、収益増加、費用減少により利益が増加するというロジックです。
ただし、以前にも解説したように、利益差分法は理論的には非常に優れた方法ですが、『無形資産が無い場合の収入』を現実的にシミュレーションするのが難しいという実務上の難点があるので注意が必要です。
3. 利益分割法による評価
利益分割法は、評価対象の無形資産が使用されている事業部門の全体の利益やキャッシュ・フロー等に対して無形資産の寄与割合を見積もり、当該無形資産を評価する方法です。
評価の対象となる無形資産が使用されている事業部門全体の利益に対して、無形資産の貢献割合を見積もって直接当該無形資産に割り当てることにより評価します。
利益としては通常は営業利益が使用されます。営業利益は、利益自体を生み出すために貢献している評価対象の無形資産と、それ以外の有形資産および無形資産に分割して把握されます。
分割割合の算定方法としては、一種の経験則になりますが
⑴25%ルール(利益の 25%を知的財産の貢献とする考え方)
⑵利益三分法(利益の 1/3 が知的財産の貢献とする考え方)
などが有名です。
PPAのように会計目的で無形資産の価値を評価する場合には、無形資産の種類、事業内容、産業別に次のような要因を考慮して、分割割合を決定します。
- 第三者間で結ばれたロイヤルティ契約や他の無形資産譲渡契約で示されている分割割合
- 評価対象の無形資産の当該事業部門での使用方法の分析結果
- 評価対象の無形資産とその他の有形・無形資産の当該事業部門への利益の貢献具合
4. 企業価値残存法
企業価値残存法は、評価対象の無形資産が使用されている事業の価値を算定して、その評価額から、運転資本の時価、その事業のために使用されている有形資産の時価及び他の無形資産の時価を控除し、残余の金額を無形資産の評価額とみなす評価法です。
これも理論的に優れた方法ではありますが、そもそも無形資産が使用される事業価値算定のためには割引キャッシュフロー法等の企業価値評価を行わなければならないことがほとんどであり、その算定に際して将来キャッシュフローや割引率の見積が必要であることから、超過収益法などにより直接算定するのと余り変わらないという点において、実務上はそれほど頻繁に使用される方法ではない点には留意が必要です。