PPAにおける無形資産の評価⑤

前回に引き続きPurchase Price Allocation(M&Aにおける取得原価の配分。以下、PPAと記載)を行う際の無形資産の評価方法をテーマに解説をしていきたいと思います。

前回のコラムでは、インカム・アプローチによる評価方法のうち、利益差分法、利益分割法、企業価値残存法といった手法について解説をしていきました。

今回は、同じくインカム・アプローチによる評価方法のうち、超過収益法とロイヤルティ免除法について解説をしていきたいと思います。

1.超過収益法による評価


企業又は事業全体の利益から、無形資産に寄与する利益を抽出して、それを資本還元する方法です。

超過収益法では、対象無形資産を活用している事業より生み出される利益から、事業活動において使用する資産が通常獲得すると想定される利益を差引いた残余利益(キャピタルチャージ)を求めます。

そしてそのキャピタルチャージが無形資産に帰属する利益(超過収益)であると考えて、当該超過収益を基に無形資産価値を評価します。

以下の算式のように無形資産の経済的耐用年数の期毎に超過収益を算出し、当該経済的耐用年数における超過収益の現在価値の総和をもって無形資産の価値とします。

評価対象の無形資産が寄与する利益 =

企業又は事業部門の利益 - 運転資本の時価×当該運転資本に対する期待収益率 - 事業用の有形資産の時価×当該有形資産に対する期待収益率 - 評価対象以外の無形資産(人的資産を含む。)の時価×当該無形資産に対する期待収益率

評価対象の無形資産を使用して営業活動をした結果として事業が生み出した利益は、無形資産のみから生み出されたわけではなく、運転資本、有形固定資産、評価対象無形資産以外の無形資産も寄与したことにより生み出された利益です。

したがって、無形資産が寄与した部分の利益を算定するためには、事業が生み出した利益から運転資本、有形固定資産、評価対象以外の無形資産に要求される期待収益を差し引いた残余利益として計算する必要があります。


なお、この算式の運転資本、有形固定資産、無形資産は公正価値が原則ですが、公正価値を入手することが困難なときは実務上帳簿価額を簡便的に使用することがあります。


また、各資産に適用される期待収益率については、リスクに応じて運転資本、有形固定資産、無形資産の順に高くなるのが一般的です。

そして、期待運用収益は、その種類に応じ下記のように算定します。

①運転資本のうち金融資産は、金融市場の類似の金融商品の利回りを参考に期待収益率を推定することができます。

②有形固定資産の場合は、長期借入による資金調達によって購入、建設することが一般的ですから、長期借入金のレートをベースとして決定するのが適当と思われます。

③無形資産については内容次第ではありますが、実務上は有形固定資産より高い期待収益率を適用するのが一般的といえます。

超過収益法は、無形資産を活用する事業の将来事業計画と貸借対照表があれば評価を行うことが可能となることが多く、実務上は最も採用されている評価手法です。

超過収益法による評価のポイントは、事業活動において使用する資産が通常獲得すべき利益を資産ごとに設定した期待収益率にて算出して残余利益を出す点にありますが、それぞれの資産に設定した期待収益率をどの水準に設定するかによって残余利益の金額は大きく変動し、その結果、評価額も大きく異なることになる点には留意が必要です。

2.ロイヤルティ免除法の特徴


ロイヤルティ免除法は、評価対象の無形資産の所有者がその使用を第三者より許可されたものと仮定し、第三者に対して支払うであろう無形資産のライセンス実施料率によって算出されるロイヤルティ・コストが免除されたものとして評価する方法です。

この評価法は、類似する無形資産のライセンス実施料データを参考にして評価が実施される点に特徴があります。(そのため、無形資産または類似無形資産のロイヤルティレートの入手が必要となります。)

対象会社や買手企業において参考となるロイヤルティレートの実例がある場合や、有料データベース等にて類似ロイヤルティレートの入手が可能となる場合も多いことから、特許やブランドの評価の際には最も採用されている評価手法の一つです。

一方で、特許やブランド以外の無形資産については採用しづらい評価手法でもあります。

ロイヤルティ免除法においては、ロイヤルティレートをどの水準に設定するかによって評価額が大きく変動することから、当該レートの設定がポイントとなります。

また、ロイヤルティ免除法に類似した算定方法として、無形資産の所有者が第三者にその使用を許可することによって実際にロイヤルティ収入を得ることを想定したロイヤルティ収入に基づいて無形資産を評価する方法(ロイヤルティレート法)もあります。

3.ロイヤルティ免除法を用いた算定方法

ロイヤルティ免除法は、次のような手続に従って実施されます。

〈STEP1〉
類似のライセンス契約の内容について以下の点をチェックすると同時に、評価対象無形資産に対する投資リスクとリターンに比較して類似性があるか否かの検討をします

  • 類似ライセンス契約の対象資産の法的権利内容
  • 類似ライセンス対象資産に関わるメンテナンスの内容
  • 類似ライセンス契約の効力発生日、終了日、独占使用の程度

〈STEP2〉

評価対象の無形資産から創造される売上高または利益に対して、STEP1での検討結果から推定されるロイヤルティレートを適用して、無形資産が生みだすロイヤルティを算定します。


〈STEP3〉

ロイヤルティに対する資本還元率を算定します。

〈STEP4〉
無形資産に関連する利益に資本還元率を適用して無形資産の評価額を算定します。

いかがでしたか?

次回は、インカム・アプローチによる評価額の算定を行う際の各種の計算要素について、解説をしていきたいと思います。