繰延税金資産の回収可能性に関する企業分類について
今回のコラムのテーマは、『将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性』の論点です。
『回収可能性適用指針』においては、繰延税金資産の回収可能性を判断するにあたり、 企業を5つに分類し、収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得に基づく繰延税金資産の回収可能性を判断するよう求めています。
これは、業績の良い継続的に黒字が見込めるような会社であれば一時差異等加減算前課税所得により将来減算一時差異の解消時に節税効果が発現するが、赤字が続き業績の好転が見込めないような会社ではそもそも将来減算一時差異の解消時に節税効果を発現させることができず、そうであるなら資産性も有さないという認識が根底にあります。
この分類が非常に複雑で分かりにくいため、実務で繰延税金資産を計上する際にも間違いが多く発見される論点でもあります。
皆さんもこのコラムを読んだ後は、『回収可能性適用指針』の方にも当たっていただき何度も何度も読み直しながら正確に理解してくださいね。
1.繰延税金資産の回収可能性に関する5分類の整理
収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等に基づいて繰延税金資産の回収可能性を判断する必要がありますが、これについて『回収可能性適用指針』の第 16 項から第 32 項に具体的な規定が設けられており、実務上もこの要件に当てはめを行って自社の分類を決定し、その分類に応じて、回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を決定することになります。
5分類とその取り扱いは以下の通りです。
企業分類の要件 | 適用指針における原則的取扱い | 適用指針における例外規定 | |
分類1 | 次の要件をいずれも満たす企業は、(分類 1)に該当する。 (1) 過去(3 年)及び当期のすべての事業年度において、期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じている。 (2) 当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。 | 繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。 | – |
分類2 | 次の要件をいずれも満たす企業は、(分類 2)に該当する。 (1) 過去(3 年)及び当期のすべての事業年度において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている。 (2) 当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。 (3) 過去(3 年)及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。 | 一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。 スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について、回収可能性がないものとする。 | スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち、税務上の損金の算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金に算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとする。 |
分類3 | 次の要件をいずれも満たす企業は、(分類 3)に該当する。 (1) 過去(3 年)及び当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している。 (2) 過去(3 年)及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。 なお、(1)における課税所得から臨時的な原因により生じたものを除いた数値は、負の値となる場合を含む。 | 将来の合理的な見積可能期間(おおむね 5 年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、当該見積可能期間の一時差 異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。 | 臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画(*1)、過去における中長期計画(*1)の達成状況、過去(3 年)及び当期の課税所得の推移等を勘案して、5 年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。 |
分類4 | 次のいずれかの要件を満たし、かつ、翌期において一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる企業は、(分類 4)に該当する。 (1) 過去(3 年)又は当期において、重要な税務上の欠損金が生じている。 (2) 過去(3 年)において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実がある。 (3) 当期末において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる。 | 翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額 に基づいて、翌期の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、 当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。 | 重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画(*1)、過去における中長期計画の達成状況、過去(3 年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、将来において 5 年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは(分類 2)に該当するものとして取り扱い、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。 また、重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3 年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、将来においておおむね 3 年から 5 年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは(分類 3)に該当するものとして取り扱い、第 23 項の定めに従って繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。 |
分類5 | 次の要件をいずれも満たす企業は、(分類 5)に該当する。 (1) 過去(3 年)及び当期のすべての事業年度において、重要な税務上の欠損金が生じている。 (2) 翌期においても重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれる。 | 繰延税金資産の回収可能性はないものとする。 | – |
(*1)ここでいう中長期計画は、おおむね 3 年から 5 年の計画を想定しています。
見ての通り非常に複雑ですし、分類1~5が完全に整合的な設計になっている訳でもないので、きれいに当てはめができないケースも多々あります。
そのため、企業の分類の要件をいずれも満たさないと思われるようなケースでは、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類するよう求められます。
2.各分類の詳細解説
上記の条文の文章と『回収可能性適用指針』第16項~32項の内容で基本的には全てなのですが、文章が難解であるためここでは各分類に関する補足説明を行っていきたいと思います。
⑴分類1
分類1の企業は、期末の将来減算一時差異を大きく上回る課税所得があるような会社です。極めて収益力が高く経営も安定している優良企業を想像するとよいでしょう。
分類1のポイントとしては、スケジューリング不能な一時差異も含め全ての将来減算一時差異について例外なく繰延税金資産の回収可能性が認められるという点です。
将来の課税所得に何の不安もなければ、スケジューリングの時期に関わらず繰延税金資産の回収可能性を認めてよいだろうというのがその根拠となります。
⑵分類2
分類2の企業は、分類1の企業と同様安定して黒字が出ている企業です。
分類1との違いは、経常的な収益のみでは期末の将来減算一時差異の全てをカバーできるほどではないという点です。
分類2の企業は、スケジューリング可能な一時差異であれば全て回収可能性が認められます。一方で、スケジューリング不能な一時差異については回収可能性が認められません。
これは、期末の将来減算一時差異を大きく上回る課税所得が存在しない以上、スケジューリング不能な一時差異について回収可能性が認められるとすることは、相当程度の不果実性を内包することになり、資産の認識要件である一定程度の蓋然性を充たさないためと考えられます。
なお、スケジューリング不能な一時差異はいかなる時も回収可能性が認められないという訳ではなく、企業側が合理的な根拠をもって説明できるときは例外的にスケジューリング不能な一時差異についても回収可能性が認められることがあります。
⑶分類3
分類3の企業は、税務上の繰越欠損金は生じておらず赤字基調にはないものの、各年の収益が安定せず遠い将来までの課税所得について一定程度の蓋然性をもって見通すことができないような企業です。
分類3の企業は、長期にわたる安定的な課税所得の発生が予測できないため、将来の合理的な見積期間(実務上はおおむね5年となります)以内で見積もられた一時差異等加減算前課税所得に相当する分については繰延税金資産の回収可能性が認められます。
ただし、この5年という期間に明確な意味がある訳ではないので、一時差異等が5年を超える見積可能期間でスケジューリングされたとしても回収可能性が認められることがあります。
たとえば以下のようなケースでは、5年超の期間のスケジューリングについても回収可能性が認められます。
⑴臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案した結果、回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合
退職給付引当金や建物の減価償却超過額に係る将来減算一時差異のように、スケジューリングの結果、その解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異(長期性の一時差異)
⑷分類4
分類4は、過去に赤字であったり多額の累積した繰越欠損金が存在して期限切れとなっているような会社のうち、翌期については黒字が見込める会社を想像してください。
業績不振の続く会社がリストラや資産売却で黒字を見込む場合や、先行投資で赤字のかさんだ新興企業がついに黒字転換した場合等が具体的なケースとしては想定されます。
こうしたケースでは、翌期を除けば将来の課税所得の発生を合理的に見積もることが難しいので、翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、翌期の一時差異等のスケジューリングの結果見積もられた繰延税金資産について回収可能性が認められます。
なお、会計上の数値としては分類4であっても分類2や分類3とカテゴライズすることができる場合が『回収可能性適用指針』には記載されています。
欠損金の発生原因や、中長期計画の達成状況と中長期計画を含む将来の蓋然性として、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するできるは(分類2)に該当する企業として取り扱います。
また、同様に将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明できるときは、(分類3)に該当する企業として取り扱われます。
⑸分類5
分類5は、分類4のような場合で、かつ翌期を含む将来の一時差異等加減算前課税所得が見込まれない場合です。
このようなケースでは一時差異等の解消と相殺可能な一時差異等加減算前課税所得の発生見込みはないので、繰延税金資産の回収可能性はないと判断されます。
いかがでしたか?
繰延税金資産の回収可能性の論点は非常に複雑で、実際の実務では間違いやすい点が数多くあります。
ぜひ何度も『回収可能性適用指針』などを読み込み、全体像を理解できるよう頑張って下さいね。